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池江泰寿調教師

池江泰寿調教師


状態も精神面も昨年とは違うトゥザグローリー


-:続いてトゥザグローリーです。前走の鳴尾記念は危なげのない内容でした。もともと素質は高く期待は高い馬だったと思いますが、以前と比べての成長したところがあれば教えて下さい。

池:ここ最近での進境は折り合い面ですね。調教では去年の秋頃から随分と折り合えるようになっていました。それが競馬に行って結果に繋がらなかったので、気迫がないのかなとも思ったのですが、でも、G1レベルでも展開が嵌まればソコソコには来ていましたし、G2では勝ってくれていましたからね。中山記念で大敗してドバイ遠征を取りやめたのですが、“この馬はどういうタイプの馬なのか”と問答しました。親父(池江泰郎元調教師)の厩舎にいた時は調教でもレースでも、ものすごく折り合いの難しい馬だったので、調教での落ち着き具合はどういうことなのかなと考えました。僕は馬が精神的に落ち着いたことで折り合いがつくようになったと判断しました。今までがどうしても引っ掛かる競馬をしていたので、折り合い重視になっていました。

強い馬相手だとそれでは差し切れないところがあったので、折り合えるならある程度ポジションを取りに行って積極的な競馬をしても良いんじゃないかと、それが鳴尾記念の競馬でした。ユウイチ君も「そういう競馬がしたい」と言っていたのですが、大外枠だったので出していって、壁が作れない状態でも折り合えるのかという不安はありました。でも出していって前に壁がない状態でも道中折り合いがついて、追ったら終い33秒2の脚を使ったので、「これは勘違いをしていたな」という感じでした。昨年秋以降はこういう競馬をしても大丈夫だったのかなと。昔の引っ掛かるイメージで無理に下げていたのが良くなかったですね。そういう部分が大きかったです。体はもちろん筋肉の質も良くなって、去年より成長していますが、この馬の一番の進化はやはり折り合い面ですね。



「昨年とは全然違います。過程も違いますし、フレッシュな状態ですしね」


-:去年の宝塚記念(4人気13着)も出走していますが、あの時とは違う感じですか?

池:あの頃の状態は最悪でした。天皇賞(春)の出入りの激しい競馬ですごく負担が掛かりました。折り合いもつかなかったですし、上がってきて検量室前で脱鞍して、地下馬道から厩舎に引き上げる時は、歩くのもままならないぐらい憔悴しきっていましたね。精神的にもかなり消耗していました。暑さにも弱い馬なので、そういう状態での宝塚記念でしたからボロボロで最悪の状態でした。度外視ですね。全く走っていないです。だから、昨年とは全然違います。過程も違いますし、フレッシュな状態ですしね。



-:では、“夏負け”と昨年は言われていましたが、今のところ暑さは心配ないですか?

池:大丈夫ですね。今のところそんなに暑くないですし、朝一番の6時に乗っていますし、厩舎にはミストも付けてありますので、馬房内では涼しい状態を保っています。

-:戦法としては鳴尾記念のように出してポジションを取りに行くと考えてよろしいでしょうか?

池:その通りですね。あとはG1なので、切れ味を持った馬に一瞬にしてやられないかどうかでしょうね。前に行くとどうしても脚は使えなくなってしまいますからね。どこまで長く渋太い脚を使えるかということでしょうね。

-:あとは時期的に雨の多い季節。重の中山記念で大敗を喫していますが、馬場状態が悪くなった時の適性についてはいかがでしょう。

池:下が緩いとこの馬はダメですね。跳びが大きいですので走れないですね。やや重ぐらいまでだと思います。


あらゆる面で底見せぬ3歳馬マウントシャスタ


-:3歳馬でキャリアの浅いマウントシャスタですが、NHKマイルCとは違って前走の白百合Sは鮮やかな競馬でしたね。

池:何が違ったかと言うと、この馬は4コーナーを持ったままで上がっていって直線ヨーイドンの競馬だとエンジンが掛からないままゴール板を過ぎてしまうので、4コーナーである程度噴かし気味にいかないとダメですね。直線半ばでもう一段階ギアが入って加速する感じですね。白百合Sではそれが出来ました。

毎日杯で2着に負けた時は、池添ジョッキーがアルメリア賞で勝った時に、すごく“しぶとく感じた”みたいで、「ある程度、噴かさないといけない」と思ったようです。あの時は新馬戦から中2週、中2週の競馬が続いていたので、反応が良過ぎてビューンと押し出されてしまい、直線は内にモタれて馬場の悪いところに入って失速してしまいました。真っ直ぐ走って、勝ったヒストリカルの通ったコースを走れていれば多分勝っていたでしょうね。馬が幼くて内にモタれてしまい、池添騎手も内側から鞭を入れて矯正しようとしたのですけどね……。まあ、それで負けただけですから。

NHKマイルはどうしても岩田騎手がテン乗りだったのですが、毎日杯が早めに押し出されて、ソラを使って負けたというイメージがあったみたいです。それで直線入ってから追い出そうとしたら、リフレッシュ放牧明けで間隔も開いていたので、動かなかったのです。そのうち前が壁になって、左前方に隙間が出来たので突っ込んだら後続馬に引っ掛かって失格になった訳です。白百合Sは岩田騎手も2回目だったので、意識的に4コーナーから噴かしていったら、直線半ばではもう一回脚を使ってくれて、鋭い切れ味を見せてくれました。前走のような乗り方をしてくれれば、NHKマイルは勝ち負けだったと思っていますし、僕はダービーに出ていても勝ち負けになったと思っています。




-:この馬は当初の評価よりも使いつつ良さが出てきたタイプの馬なのでしょうか?

池:競馬を使う段階では相当走ると思っていました。ただ、昨年の秋頃まではそれほど走る雰囲気はなかったですね。暮れから年明けにかけて、馬がドンドン良くなってきて、入厩した時には間違いなく走るなという感触でした。競馬を使う前の時点で、この馬はクラシックに乗るのではないかと感じていました。ワールドエースと同じぐらいのレベルだなと思っていましたね。


「この馬は日本を代表する馬になるかも知れません」


-:全兄のボレアス(吉田直弘厩舎)とは全然タイプが違いますね。

池:そうですね。ノーザンファームのスタッフからも「ボレアスは典型的なダート馬ですけど、この馬は芝馬ですよ」と聞かされていましたので、最初からダートを使う気もなく、芝路線を歩みました。瞬発力があって、いかにも芝向きというタイプの馬ですからね。良馬場だったら前走のように凄まじい脚を使いますから。能力的にはワールドエースと遜色ないですし、折り合いがつく分、例えばダービーのような前残りの展開でもある程度好位につけて噴かしていって爆発的な瞬発力を使えれば、十分勝つチャンスのある馬だと思っています。5、6番手ぐらいの位置取りでバァーン!と直線抜けてこられればね。

-:3歳馬で宝塚記念を使うということは、それなりの思惑があってのことでしょうね。

池:いや~、常識的に考えてラジオNIKKEI賞を使うべきなんでしょうが、ハンデ戦で、近年のトップハンデが57キロなのですが、マウントシャスタは毎日杯2着と白百合S勝ちがあるので、おそらく57キロでは収まらないだろうと読んで宝塚記念への出走に踏み切りました。まあ、普通はラジオNIKKEI賞ですよ。



-:一線級の古馬相手にどのような競馬ができるのか楽しみにしています。

池:そうですね。決して無謀な挑戦だとは思わないですが、若駒なので精神的なダメージを受けなければ良いのですがね。それが心配ですね。

-:宝塚記念だけでなく、秋も楽しみな馬ですね?

池:この馬はひょっとしたらウチの厩舎の看板馬になるかも知れません。というか日本を代表する馬になるかも知れませんね。

(写真・取材)高橋章夫


池江泰寿調教師インタビュー(前半)
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【池江 泰寿】Yasutoshi Ikee

1969年滋賀県出身。
2003年に調教師免許を取得。
2004年に厩舎開業。
JRA通算成績は305勝(12/6/17現在)
【初出走で初勝利】
04年3月20日 1回阪神7日目5R ソニックサーパス(1着/14頭)


■最近の主な重賞勝利
・11年 有馬記念/菊花賞/日本ダービー/皐月賞(共にオルフェーヴル号)
・12年 エプソムカップ(トーセンレーヴ号)
・12年 鳴尾記念/日経新春杯(共にトゥザグローリー号)
・12年 京都新聞杯(トーセンホマレボシ号)
・12年 京都記念(トレイルブレイザー号)
・12年 きさらぎ賞(ワールドエース号)


惜しまれつつ定年により引退した池江泰郎元調教師を父に持ち、武豊騎手とは同級生であり幼馴染でもある。開業3年目の06年にドリームジャーニー号で朝日杯FSを制しG1初制覇。同年に最高勝率調教師賞を受賞し、さらに08年には最多勝利調教師賞も受賞。多数の名だたるオープン馬を育て上げ、もはや知らぬ者などいない誰もが認める調教師の一人。昨年はオルフェーヴルで牡馬クラシック三冠を達成。所属馬のレベルは競馬界の銀河系軍団ともいうべき押しも押されるトップステーブル。今年は有力馬3頭出しで宝塚記念を盛り上げる。