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安田翔伍調教助手

安田翔伍調教助手(栗東・安田隆行厩舎)


G1を制して、なお成長期を迎えるカレンチャン


-:そして、カレンチャンですね。これは誰もが認めるスプリンターの女王ですが、得意の季節ということで、かなり期待は大きいですね。

翔:夏にコンディションを上げるというのは頭に入っているのですが、今までの中でも一番良い状態で帰って来てくれましたね。

-:去年よりも良い状態ですか?

翔:去年はレースを使っていたので比較はできないですが、これだけ充実した状態はないですね。なんだかんだ去年は北海道に行く前もフックラはして帰ってきたのですが、自分の体をコントロールできなくて、スクんだりして、ちょっと調整するのに苦労しました。今年はそういう苦労もなく、予定通りに負荷も掛けられています。

-:去年の12月に香港(香港スプリントで5着)で使っていますが、それの疲れがあったからオーシャンS(4着)で負けたのかな、という短絡的な見方を僕らはしてしまうのですが、香港での疲れというのは?

翔:香港というのは輸送でちょっとトラブルがありまして、大分コンディションが落ちた中での到着になったのですが、競馬が近付くにつれてすごく上昇してきたんですよ。上昇してきた中での競馬だったので、おそらくその後の反動も軽かったと思います。

-:上り調子で競馬に使えたということですね?

翔:ピークでもなかったですし、グッタリの状態で競馬に使った訳でもなかったので。5、6割で使えたことで、帰りは極端にエサの食いが変わったんですね。香港のレースの次の日から。多分、気持ち的にも消化できたのだと思いますし、帰りの輸送もスムーズだったので、その後にグリーンウッドに放牧に出したのですが「全然ダメージがない」ということでした。

僕らはダメージがあると仮定して、高松宮記念に直行という話をしていたのですが、思った以上に順調だったので、1回使った方が確実に良くなる馬なので、進めていく中で行けるならオーシャンSに行こうということは前もって頭に入っていたのです。香港の時に直行と言っていたので、そういう風に報道されてしまいましたが……。


-:結果は意外で4着でした。カレンチャンが3着を外すイメージがあまりなかったのですが?

翔:休み明けでは準オープン(伏見S)でも3着があるぐらいですからね。ちょっと間が開くと……。

-:そういう意味では使った方が良いタイプなのですね?

翔:1回使うと本当にグンと良くなりますね。

-:今回のセントウルSは休み明けになるので心配がありますね?

翔:もちろんありますね。56キロでG2。オーシャンSとはメンバーも違いますから。

-:ほぼ本番(スプリンターズS)と同じメンバーが揃いますからね。

翔:そうですね。

-:56キロを背負って休み明けというのは良い条件ではないですけど、唯一の好材料は夏場でコンディションが良く、オーシャンSの時とは前哨戦として使うまでの過程が全然違うことですね。先週、北村友一騎手がスギノエンデバーで(北九州記念)勝ちましたが、あのレースは馬の能力差よりも展開オンリーでしたからね。

翔:友一とも話をしていたのですが、北九州記念はハマるかハマらないかで、ロスなく終い活かす方が前で競って、力を出し切るよりは勝つ可能性があるだろうと。負けた時は消極的だと言われるだろうけど、その差ですね。あの競馬の方が良いなとは話していたんです。

-:牝馬の56キロというのはエーシンヴァーゴウ(牝5、栗東・小崎厩舎)がそうでしたね。能力的に1200mではあの馬もソコソコの能力を持っているのが、ひっくり返されるほどの結果になってしまうと1200mのハンデ戦というのは結構怖いなという気がしたのですが。

翔:1200mの平坦は怖いですね。



≪参考リンク≫
高松宮記念当時のカレンチャン立ち写真

-:セントウルSはまた違う結果になりますか?

翔:エーシンヴァーゴウと違って、カレンチャンはレース内容を求めないですし、あえて出していかないとダメという馬でもないですし、馬のリズムで出たなりでのポジションなので、あそこまで脆さは見せないとは思うのですが……。ただ、厳しい条件であることは間違いないですね。

-:カレンチャンと言えども、楽観できるレースではないということですね?

翔:ハイ、もう全然。

-:狙い通りこれを使ってグンと良くなるでしょうし、それを見込んでのセントウルS出走ということですね?

翔:ただ、セントウルSの結果に繋がるか分からないですけど、極端に馬が成長しているんですよ。元々、470キロ後半から80ぐらいで使っていた時に成長するだろうなという体をしていたんですよ。鞍嵌まりも悪くて、き甲が抜けてなくて、ズレてて。阪神牝馬Sぐらいまでは鞍ズレ防止の胸がいを付けていないと競馬ではズレてしまうぐらいでした。

調教でもあったのですが、競馬では函館(2011年・函館SS)から外しているのですが……。実際に計った訳ではないですが、第一印象で背丈が伸びているなということを担当とも話していました。筋肉の付き方が春と違うのもあるし、乗っていて鞍が全然ズレないのですよ。いつもズレることを想定して置いていたのが、ズレないので、一度置き直したのですよ。いつもの位置にこないから。ちょっと後ろ目の。それだけ嵌まっている量というのが……。


-:背中の肉付きというか幅が出たということですね?

翔:だいたいトモの高い馬というのは成長してくるんです。

-:アグネスタキオン産駒は結構そうみたいですね?

翔:そういう素人的というか常識的な感覚で、若い頃は成長するかなと思っていたんですけど、結局しないままスプリンターズSを勝たしてもらって、高松宮記念に行ったんで、こういう体なのかなと言っていたのですが、今それが来たのですね。

-:カレンチャンはこれだけの成績を残しているのに晩成型ということですか?

翔:僕らは一昨年の函館(潮騒特別)を勝った時、早い時期に急いで使う馬ではないと思いました。だから、休みもちゃんと取らせてもらいましたし、大事に行った時には引退間際にはドカッと来るかなという話をしていました。栗東に戻って来て準オープン(伏見S)で3着で、そんなに体の成長も感じなかったですし、それが今となっては冬だったんだなというのがあるのですが。

ただ、そこから頑張ってくれて結果を出してくれた時に、こんな馬なんだろうなというのがありました。ようやくこの体になったなというのがありますね。体重(前走時482キロ)が今、24~26キロ増えているんですよ。今で510あるかないかで、昨日の体重で508だったので。おそらく競馬では休み明けで、気持ちが熱く燃えちゃうでしょうが、そういうのを想定しても多分、490キロ半ばぐらいでの出走になるのではないかと思います。



「セントウルSの結果に繋がるか分からないですけど、極端に馬が成長しているんです。実際に計った訳ではないですが、第一印象で背丈が伸びているなということを担当とも話していました。筋肉の付き方が春と違うのもあるし、乗っていて鞍が全然ズレないのですよ」


-:じゃあ、馬体重の発表で、カレンチャンがプラス16キロというのがあっても驚かなくて良い訳ですね?

翔:そうですね。もし結果がダメでも、僕らは太めで負けたとは全く思わないです。次もその体重を基準に調整していこうと思います。

-:日本は結構体重を気にしますからね。実際体を見て、体重と比べる人は少ないですから。体重だけを見る人が多いですからね。

翔:以前の写真とかと比べてもそうですし、乗った視界が違うんですね。肉より骨格がもう……。成長が追いついてきたのかなという風に思いますね。

-:骨格が成長してきたということは、それだけ余分な肉も付かないと動かしきれないということになりますね?

翔:そういうことです。だから、今の体重は理想的です!

-:なるほど、それだけ骨格がパワーアップした分、筋肉量も増やさないといけないから、その分のプラス16キロということですね。

翔:はい。競馬に直結するかどうかは分からないですよ。あの細い体でスピードを活かしたから、あの結果を出せていたのかもしれないですし、もしかしたら筋肉が付いたことで、スピードを邪魔することになる可能性がないこともないでしょうからね。

-:祖父はフレンチデピュティで結構肉付きが良いので、大きくなっても違和感はないように思うのですが?

翔:まあ、牝馬にしては十分ある方なのですがね。でも男馬と比べるとそういう風にナーバスになっていたのですけど。まあ、でもおそらく2ケタ以上のプラス体重で出ることになると思います。



-:あの体でG1を勝ってしまった訳ですからね。

翔:春も結構気を使いましたからね。体重発表がなければ、全然攻めれたんですよ。やっぱり減ることによってオーナーも心配するでしょうしね。

-:実際はもうちょっと絞り込むために攻めたい気持ちがあったということですか?

翔:いや、それでオーシャンSを使えたので。

-:オーシャンSを使えなかったら、調教では追いつかなかったということですね?

翔:追いつかなかったですね。でもオーシャンSを使っても負担がないだけの調教はできていました。香港からそういう状態で来れていたので、助かったのですけどね。

-:セントウルSから先のスプリンターズSを見た時に香港で海外の馬と戦っていますが、5・6割の上がり目のコンディションだったとはいえ、その状況で使って他の馬との力関係で、ソコソコ出来るなというのが分かったと思うのですが、その辺は楽しみが広がりますよね。

翔:去年の(香港スプリント)メンバーがどうなのかが分からないですけど、あのレースを経験させてもらって物差しにした時に、日本馬でも敵わないことはないなという手応えは掴めましたね。ただ、スピードを活かすだけの馬では無理だというのも勉強になりましたし、タメてタメてどれだけドンという日本とは違った……。日本はスピード競馬の中で、どれだけ最後まだ切れる脚があるかということを求められるのですが。

-:向こうはもう少し追い込みの競馬ですね?

翔:そうですね。タメることによってどれだけハジけるかというのが……。それをするには馬体の成長も欲しいなと思っていたので、これが良い方に出れば、そこまで楽しみが広がるなとは思いますね。

-:一般のファンの方は分からないですね。カレンチャンはすでにスプリンターズSも高松宮記念も勝っている訳で、その馬が更にパワーアップするというイメージを普通は持たないですからね。完成された馬がG1を勝てるというイメージがあるので、そこからまたパワーアップしているとは……。

翔:馬体の成長と実際にパワーが付いているのが、競馬に繋がれば本当に良いなという感覚なのですが。


「もしかしたら来年も走る可能性もありますが、今年で競走馬生活も最後の可能性もあるので、是非、生でレースを見に来て欲しいなと思います」


-:そういう意味でセントウルSは楽しみですね?

翔:そうですね。精神的にも大人になって、のんびりというか自分を持つようになりました。それまでは女の子らしいデリケートな面があって、競馬当日の朝のテンションによって、メンコの耳の部分を二重にしたりしていました。

例えば、阪神牝馬Sからメンコを着け始めたのですが、ずっと1200mを使っていて、距離が1ハロン伸びることで体力のロスがないようにメンコを着けたのです。その後もオーシャンSなんかも1回使って燃えさすことが目的だったのですが、あまりにも燃え過ぎてしまうと怖いなと思って、メンコを二重にしましたし、そういうことをやってきたのですが、今回は競馬でメンコを外そうと思っています。

パドックでは久々で燃えるでしょうから着けますが、競馬では外してみようかなと思っています。その競馬内容を見て、本番(スプリンターズS)で着けるかどうかを判断しようと思います。


-:1200mだからあんまりイメージはないですけど、ジョッキーと話をしても、どんなハミがどうのこうの言っても「引っ掛かる馬にどんなハミが良いか」という話をしている時には、結局「メンコを着けた方が良い」という話になりましたね。「メンコを着けた時の方が折り合いが付く」ということでしたね。

翔:もちろん僕らもセントウルSを勝つつもりで行くのですが、セントウルSを使って、良いステップにしたいなと思っているので、スプリンターズSに向けて余計なものを出したいというのがあります。

-:仮にメンコを外して結果が悪かったら、メンコを外してダメだったという経験が本番前に欲しいですからね?

翔:そうです。今のテンションだったら、オンオフが上手過ぎて、下手したら能力を出しきれないかもというのがあるので、ちょっと気持ちを高ぶらせるために、外そうということなんですけどね。

-:日本を代表するスプリンターですからね。

翔:恥じないようにこの秋は。もちろんセントウルSも含めてなのですが。

-:今年の高松宮記念は馬場的に遅い勝ちタイム(1:10.3)だった訳ですが、昨年のスプリンターズSが1:07.3で、もちろんどちらにも対応できる馬だと思うのですが、今のカレンチャンならどのような馬場が一番合いますか?

翔:僕たちは乗っていて、パンパン馬場がベストだと感じています。去年のキーンランドCの追い切りを芝でやったのですが、シャーと行きますし、坂路でも先週のように時計が出る所では全然ブレなくて行きます。

そういう意味では将雅(川田騎手)が乗って勝った準オープン(山城S)の時が道悪で、発表はやや重だったのですが、結構馬場が悪くて、ちょっとかわいそうだなと思っていたら「全然進んでいく」というのですよ。洋芝でもそれを心配しながら行ったら、全然進む感じだったので……。




-:だから高松宮記念は2番人気で勝った訳ですが、馬場的なことを考えると相当強いんじゃないかと思ったのですが?

翔:一番確実に言えることはオーシャンSでは枠(7枠13番)がちょっと不満で、56キロ。間が開いてしまうと燃え過ぎちゃうということでマイナス材料が揃った中で、あの競馬ができた時に、あの時も馬場が結構悪かったのですが、道悪でも確信的に自信を持って良いんだなとは思いましたね。

-:カレンチャンはゆっくり歩いている時と速く走っている時と極端にフットワークが違うように思います。

翔:常歩、ダク、普通キャンターまでは全然体を使わないですよ。こっちに来た時からそうなのですが、今でも知らないジョッキーを含めて、乗っけたら止める人がいるんじゃないでしょうか。僕も久々に乗る時に相変わらずおっかないなと思うのですが、新馬を使うために入厩してきた時に、最初に1ハロン15秒で乗った時にはアレ違うという感じでしたね。

牝馬っぽさがあったんですが、今とかは把握しているのでちょっと硬くなってきても進めていけますし、ただ速いところをいった時には普通キャンターまでとは全然違います。速いところの見た目よりも乗ったら背中が動かないというか、真っ直ぐ伸びて伸びてで、ゾクゾクとする感じですね。


-:歩いている所なんかを見るとゴトゴトして、コケないかなと思うぐらいですからね。素晴らしい馬ですね。

翔:素晴らしいですね。調整しやすいですね。

-:最後にまとめでロードカナロアとカレンチャン、それぞれにファンがいると思うので、一言ずつコメントを下さい。

翔:カナロアに関しては前走、前々走と支持してもらってのあの着順は申し訳なかったと思っているのですが、あの馬で勝ちたいという気持ちはより一層強まっていますし、カレンチャンが引退した後に勝っても意味がないんですよね。やっぱりいる間に負かすことによって、世代交代だとちゃんと言われるでしょうし、それだけの能力はあると思うので。もっと成長して欲しい部分はいっぱいあるのですが、それだけ伸びしろもあると思うので、スタートラインと思って、セントウルSから結果を求めて、挑戦していきますので期待して下さい。

カレンチャンに関しては、(5歳牝馬で)もう競走生活が長くないかもしれないですし、最後まで日本でディフェンディングチャンピオンでいたいなという思いがありますし、その後、世界を楽しめる馬だと思いますので、そのためにはセントウルSも含めて、目の前のレース、予定しているレースはしっかりとこなして欲しいなと思います。もしかしたら来年も走る可能性もありますが、今年で競走馬生活も最後の可能性もあるので、是非、生でレースを見に来て欲しいなと思います。


-:ありがとうございました。

(写真・取材)高橋章夫


「夏は得意じゃなかった!?ロードカナロア」
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【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄の景一朗助手と共に厩舎の屋台骨として活躍している。