関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

安田翔伍調教助手

次のローテ=引退レースについて

-:ファンは、これから先が楽しみになってきて、次がどこになるかというのを注目していると思うのですが、今、わかっている中で次のローテーションを教えて下さい。

翔:決定ではないでしょうけれど、第1候補に香港スプリント、第2候補に香港マイル、それで最後にマイルCSという予定で発表されていますね。オーナーの要望で「極力、秋は3走にして欲しい」ということでした。当初は、“スプリンターズS~マイルCS~香港のいずれか”という予定も含めて、夏に強くないということも考慮して、スプリンターズSへの直行からの3戦ということになりました。前回お話したように、夏の調整過程が良かったのと、まずスプリンターズSを獲らなければ始まらないと思ったので。

-:それは連覇ということで?

翔:連覇も含めて、落とす訳にはいかないレースだと。今までの実績から考えるとマイルCSも落とせないんですけれど、ファンの皆様のカナロアに対する認識からしたら、やっぱりスプリンターズSは落としてはいけないレースだというのがありました。そのためにはセントウルSはどうしても必要だと感じて、3戦の内の1戦をセントウルSでやらせてもらいました。2着だったんですけれど、結果的にスプリンターズSもほぼ危なげなく勝てたことに関してはよかったです。そのせいで残りの1走は、先ほどのいずれかになってしまうのですが。

-:カナロアの特徴からいって叩き良化型なので、もう1戦良いパフォーマンスで走れそうですね。

翔:今は今週にレースがあっても良いような状態ですね。

-:相変わらず良い体をキープしていると?

翔:先週の日曜から乗り出したんですけれど、セントウルSの後の乗り出し初日にその時の感触が出てほしかったなと。去年はセントウルSの後の初日にそういうところを感じていたんですけれど、今回は1週前追い切りをして、戦闘モードに入った、という感じだったんです。今年はスプリンターズSが終わっての乗り出し初日で、ハチ切れんばかりの手応えで。

-:翔伍助手にとっても1番人気で落とせない1戦ということで、かなりストレスが掛かるというか、マスコミ対応でもピリピリとした面がありましたね。

翔:色々と申し訳なかったと思っているんですけれど、やっぱり「負けたら引退」というのを聞いてたので、僕らの中では取りあえず勝つことしかなかったし、勝たなければ、今後、年内の残り1走というのはなかったので。それは担当(厩務員)の岩本にも言ってなかったですし、調教師も「極力、周りには言わないで」と。僕と兄貴と3人だけで、僕らだけでプレッシャーを意識し過ぎないようにプレッシャーを受けて競馬に挑もうと。極力、触ってる人にそれを伝えて、マイナスになっても嫌だからということで。まあ、正直、僕にも言って欲しくなかったんですけれど……。

-:知らないでやりたかったと。後で僕らが見ててもヒシヒシと伝わってきましたし、一種、近寄りがたい雰囲気もあった中で取材までしてもらって。

翔:僕もそういう雰囲気を作ったこと自体、本当に至らなかったんで、申し訳なかったですけれど、どうしても「負けたら引退」と言われたことに対して、まだ上がありそうだっただけに、ちょっとココで引退というのは……。

-:まだ、やり足らない部分が?

翔:不完全燃焼な部分があったので、どうしても落とせないというのがありましたしね。



-:でも、スプリンターズSを危なげなく快勝できたことで、プラスアルファの香港への道が開けた訳です。去年勝っているので、立場的には挑戦者とはかなり違うと思うんですよ。向こうでも絶対王者的な存在として注目されるでしょうが、今度の調整方法も同じですか?

翔:調整方法が全く同じ、というスタイルは今まで取ってないし、その時その時の馬のテンションとかコンディションと相談して決めていこうと思います。

-:それは具体的に、これからのカナロアの様子を見てから判断をしていくということですね?

翔:はい。

-:どうなろうとファンは香港での活躍を期待していると思います。

翔:ただ、去年とはやっぱり……。去年はカレンチャンという相棒もいましたし、今年は厩舎1頭で行く訳ですから、環境も変わってきます。そういう、レース以外でも、どれだけストレスを軽減できるかとか、色々と考える時点で、去年とは同じことはできません。その辺はちょっとデリケートに神経を使っていきたいなと。

-:カナロアは能力的な面だけでなく、精神的な面も成長していますから、クリアしてくれると良いですね。

翔:そうですね。今考えている時点では、成長と共にズブさも出てきているので、あの環境がプラスに出るだろうとは思っているんですよね。環境が変わることで、だいぶ悪く言えば、イライラとして、調教でも落ち着きのなさを出すんです。かと言って、キャンターでも引っ掛かる訳でもないし、競馬を察する環境に行くので。それはすごくプラスに働くだろうなとは思ってます。

-:この馬の存在は、ロードカナロア自身の強さだけじゃなくて、やっぱりキングカメハメハという種牡馬の底力というか、2000mの中距離路線で活躍していた馬でしたけれど、短距離とかマイルでもっとやれるスピードがあることを証明していますね。

翔:まあ、お母さんの良さを出すんでしょうね。

-:そんなロードカナロアが種牡馬になってから、どういう仔を出すかという楽しみが広がりますね。

翔:引退してからどういう風になるかなというワクワクは楽しもうと思いますけれど、取りあえず今は、次のレースだけを考えていきます。

-:世界で戦えますよね。実際に勝っていますしね。

翔:正直、前回は8~9割ぐらいでした。次は、120%に持っていって初めて勝負になると思っています。

-:次はスプリンターズS以上で挑むと?

翔:挑まないと勝てないですからね。



一昨年カレンチャンで培ったノウハウ

-:最後に大まかなスケジュールをお伺いします。もし香港に決まったら、ここ(栗東トレセン)の検疫にはいつぐらいに入る予定なんですか?

翔:出発日によって変わってきます。今の時点では、去年と同じが理想的だなと。去年は金曜日の夜に出発して、土曜日に入りました。能力を出すにはレースまで1週間が理想的な間隔だと思ってるので。

-:1週前の土曜日に入りたいと。

翔:そうですね。去年と比較しながら、応用を利かせられるかなと思うので。

-:去年行って、何か参考になったことはありますか?これぐらい体重が減るとか、環境に適応するまでにどういう調整が良いとか。

翔:去年に限らず、一昨年にカレンチャンで行かせてもらった時に、参考というか頭に入ったのは、仕上げられる環境にはないなと。仕上げるというか、コンディションを上げていったり、内臓面を鍛えるところではないし、競馬の週の追い切りでどれだけ併せ馬で速い時計を出したとしても、それが能力アップには繋がらない環境だと思いました。

-:こっちで目一杯にやっていくんですか?

翔:それをいかにキープして、向こうでのテンションとバランスを合わせるかが大事だなと思いました。取りあえず、こっちである程度、気持ちは極端に入れ過ぎず、体もいつでも競馬に使えるぐらいの状態に持っていけたら、向こうではやり易いなというのはあります。

-:難しいですね。

翔:カナロアは結構、やり易いですね。カレンチャンは女の子だったんで。

-:作っていくと、輸送した時のテンションとかが。

翔:カナロアじゃなかったら、頭を悩ませていると思うんですけれど、結構楽ですね、そういう面では。

-:楽しみにしていますので、その時にまた取材ができれば有難いです。

翔:ぜひ、お願いします。

-:よろしくお願いします。この度は連覇、本当におめでとうございます。

翔:ありがとうございます。

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【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄と共に厩舎の屋台骨として活躍している。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。