元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
最高の送り出し
2017/11/15(水)
皆様、こんにちは!まずは先週、JRA元調教師の瀬戸口勉先生がお亡くなりになられました。この場を借りさせて頂き、謹んでお悔やみ申しあげますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。瀬戸口先生とは、本当に最近まで朝の散歩に出掛けると、顔を合わせ、その度に「おはようございます!」「元気か?」と言ったやりとりをしていました。先生はいつも元気だなと思っていた矢先のことだっただけに、本当にビックリしてしまいました。現役時代から馬に対し素晴らしい考えの持ち主で、本当に残念でなりません。またひとつの時代が閉じたような気持ちになりました。
そんな悲しみの中、京都競馬場では女王決定戦エリザベス女王杯が行われました。好メンバーの中、勝利を手にしたのは、鮫島厩舎のモズカッチャンとミルコのコンビでした。ミルコにとっては、日本で初めてのG1勝ちをプレゼントしてくれ、自分の日本での立ち位置を作ってくれた一人、瀬戸口先生を最高の形で送り出せたのではと思います。今回のレースは、朝から思った以上に台風の影響があったのか外がキレない馬場だなと思っていました。そして、次に注目したのは人気馬の多くが外枠に入っていたこと。この2点から、もしかしたら前残りの人気薄が来るのではと思っていましたが、まさにその通りの結果となりました。
今回のモズカッチャンの勝利には、鞍上ミルコの巧みな技が光っていました。まずは、なんと言ってもスタート後の1コーナーです。スタート直後に1番人気のヴィブロスとルメールが1コーナーで前に馬を置きたいために内に寄ってきた瞬間、その内にいたミルコが主張し、モズカッチャンの鼻面を入れました。これによりヴィブロスは前に馬が置けず苦しい展開に。そして、スローペースの中、迎えた4コーナーでは、鞍上の意思では内を突こうと思っていたと感じました。しかし、前をいくクロコスミアと和田君が内にもたれた瞬間、瞬時に外の藤岡君の右ムチを見てコースを替えました。この判断の速さこそが、今回の一番しびれた瞬間でしたね。予想通り、大外を回す形となったミッキークイーンの猛追がある中、抜け出すと、素早くムチを持ち換え、見事クロコスミアを交わして年間5度目のG1勝利をあげました。
枠と馬場、そして展開すべてが噛み合った結果で、本当にお見事としか言いようがない勝利だったと思います。そして、②着には和田君とクロコスミアが入りましたが、和田君の騎乗も素晴らしかった。折り合いが難しい馬ながらも、我慢に我慢を並べ、迎えた4コーナーからの追い出し。全てがこちらも完璧でした。しかし、勝ったモズカッチャンは100点の上をいく120点だったと思います。最高の騎乗をした二人が見せてくれたドラマは、改めて競馬は面白い!と思わせてくれたレースだったと思います。
今週は京都競馬場でマイルチャンピオンシップが行われます。何といっても1番人気は怪我が心配される豊ちゃんとエアスピネルのコンビ(追記 ライアン・ムーア騎手に変更)ではないでしょうか。兄弟も含め、途中で競馬を止めてしまうところがある馬ですが、前回は早めに突き放し、止めても追いつかれる前に勝つという戦法がハマっただけに、次はどんな競馬をするのか非常に楽しみです。そこに待ったを掛けたいのが最強スプリンター、レッドファルクスとクリスチャンのコンビしょうね。その他にも虎視眈々と頂上を狙うイスラボニータや4連勝中のサングレーザー、良馬場ならばサトノアラジンも気になるところです。3歳馬ペルシアンナイトも楽しみな一頭です。京都開催、2017最後のG1レースは是非、生観戦でいきましょう!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。