元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
背負ってきた重みのガッツポーズ
2020/4/14(火)
皆様、こんにちは!もう何度書いたことか、コロナの文字に嫌気がさしています。しかし、家にいて戦うという姿勢は国民全員が持っていることなので、私も同じように戦いたいと思います。そんな中、星野源さんが出したうちで踊ろうという曲に多くの芸能人の方がコラボをして少しでも家にいる皆様を楽しませようとしてくれていますね。本当にありがたい話です。
そして、騎手会からも例外ではなく皆様の助けになるようにと、1鞍騎乗ごとに騎乗した騎手から1000円の基金を設立したそうです。開催ができていること自体が奇跡で、国の売上を考えると体を張って働き、更に募金までしようという心意気に打たれました。少しでも多くの馬が出馬し、安全に競馬を開催し、少しでも基金が集まるように願っています。
そんな中ではありますが無観客のまま、牝馬クラシック第一弾桜花賞が阪神競馬場で行われました。80回の歴史の中でも、重での開催は今回で3回目だったように、今までにあまり記憶にない悪天候の桜花賞となりました。1番人気には2歳女王レシステンシアが選ばれ、2番人気にデアリングタクトが続きました。
レースはスタート直後、逃げ宣言をしていたスマイルカナが飛び出していきました。続くようにスタートからジワッと出していったレシステンシアが並んでいきました。大きな動きがない中、迎えた4コーナーでは豊ちゃんが馬場のことを考え少し早めに動きました。ここの判断は結果が出たからこそ、早かった!と言えますが、馬場を考えると間違いな動きではなかったと思います。そして、少し早めに抜け出したレシステンシアに食い下がるようにスマイルカナが対抗していく中、一頭だけ別次元の脚色を見せたデアリングタクトが差し切り、騎乗した松山君にとっては嬉しいG1・2勝目を手にしました。
松山君は本当に素晴らしい騎手になりました。道中では前のペースを見てポジションを内から外に切り替えると、あの馬場でも焦らず馬を信じ切った騎乗に専念しました。その結果が、今回に結び付いたのだと思います。さらに言えば、今年の初めから騎乗スタイルが少し変わり、ヒザの使い方が非常に柔軟になりました。その上、体幹がついてきたのか以前よりも力が前に伝わるようになっているのが絶好調の要因なのではと思っています。
初めて勝ったアルアインの皐月賞では、4角で偶然できた溜めのおかげで勝てたところがありました。しかし、今回は松山君が馬を信じて乗ったからこそ勝てた、そう思います。勿論、馬の力ありきの話ですが、それでも素晴らしい騎乗でした。乗鞍を見ても、勝ち目のない馬でも必死に少しでも前にと懸命に追ってくる彼の姿勢が結果につながったことは多くの日本人騎手にとっての希望となったと思います。
無駄なことはない。少しでも前へ。悔しいことが多くても、諦めずに努力をして前へ進む。果てしないことをしているように感じ、辛くなることもあると思います。それでも、ひとつひとつ積み重ねた経験と努力は、いつしか成功へと繋がっているというのを証明してくれました。おじいちゃんの夢であった騎手になるため、阪神競馬場の乗馬苑に通い、競馬があれば毎週のように通って支えてくれる家族、みんなの夢を乗せて勝ち切ったレース。
普段はフニャとした話し方をしていても、意志が強く頑張り続けてきたからこその勝利とあのガッツポーズはコロナの影響により元気がなくなった日本へも、諦めずに続ける強さと大事さを伝えてくれた勝利だったと思います。距離が延びる次走へは折り合いが課題になってくることでしょう。普段から、どれだけコンタクトを取れるかが重要になりそうです。
感動の桜花賞の後は、中山競馬場で皐月賞が行われる予定です。今週から騎手は土日での移動が禁止になるため、日曜日にG1に乗りたい騎手は、必然と土曜日も同じ競馬場に乗ることになります。そのため、有力騎手が固まることからも、裏開催になる阪神にいる有力騎手の動向からも目が離せないのでチェックしてください。
そんな中、2歳王者サリオスが、オーストラリア政府に交渉し、日本での騎乗が認められたD.レーン騎手とのコンビで出てきます。その相手になるのは、福永君にとってクラシック全制覇となってほしいコントレイルでしょう。天才の息子としてずっとプレッシャーの中、騎手を務めあげ、何を言われても努力し続け、人情を大切にしてきたからこそ掴んだクラシック全制覇のリーチ。だからこそ、勝ってほしい。そう個人的に願っています。
その他にも、底を見せていないクリスタルブラックや成長著しいサトノフラッグ。本当の実力はこんなもんじゃないマイラプソディに逃げれば面白いビターエンダーもいます。抜けた2頭に迫る他の馬たちもチャンスはあります。みなさん、家で応援しましょう!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。