元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
積み上げた努力は嘘をつかない
2020/5/25(月)
皆様、こんにちは!少しずつ収まりつつあるコロナ渦ではありますが、決して気を緩めることができない状況に変わりはありません。まだ薬も改善する方法論も確立されていないからです。しかし、それでも、少しずつ回復してきているこの状況を嬉しく思っています。いつになれば元の世界に戻るのか、いや、元の世界のいらないことをそぎ落とし、それを最低限の生活にできるかが課題になってくると思います。
そんな中ではありますが、中谷雄太騎手が引退を発表しました。突然のことで非常に驚きと戸惑いを覚えましたが、彼なりの考えがあってのことだったと思います。数年前のお正月、栗東に来たばかりの頃、息子が栗東に来て一人で暇そうにしてる子がいるから家に呼んでみようと連れてきてくれたのが中谷君でした。初めての家に来ても、まるで以前から知り合いだったかのように懐に入る人懐っこさは、なんでこの子は数が乗れないんだろうか?と思うほどでした。私もいい気分になりお酒が進む中、得意ではないにも関わらず私のお酒に付き合ってくれた彼でした。
大きなケガを乗り越え、復活してからも諦めずに乗ってくる彼を見るのは楽しみのひとつだっただけに残念です。しかし、自分でキリよく決めた引退でしょうし、人生が1度しかないことからも、競馬以外の世界でも勝負してみたいというのは非常に理解できます。私は物心がついた頃には馬の仕事をしており、馬の仕事しか知らないままですからね。今になっては視野を広げて色々なものを見ておけばよかったなと思うところもありますから。そんな彼の新しい門出を応援しつつ、また体重を気にすることなく、お酒や食事に付き合ってもらいたいなと思います。本当にお疲れ様でした。
G1では東京競馬場で、オークスが行われました。枠順発表からデゼルは経験不足と脚質から少し難しいレースになるなと思いました。デアリングタクトに関しては、前残りの馬場がどうなるのかが課題点であり、スマイルカナやウインマリリンの枠からも1コーナーで狭くなる可能性があるなと考えていました。レースはまさにその通りの内容となりました。ハナを奪うスマイルカナ。外から内へとしぼったウインマリリン。そこから馬群に飲み込まれるようにデアリングタクトと松山君はすぐに折り合いに専念することをしました。
先週の馬場であれば、デアリングタクトならこの馬場でも届くと信じ切った騎乗だったと思います。だからこそ、キレる脚を引き出すことができました。しかし、松山君は大きくメンタルの部分、騎乗の部分と成長が素晴らしいですね。4コーナーへのアプローチにしても、完璧だったと思います。早々と前残りと思い、ぶつけながら外へ出したクラヴァシュドール。内の馬場にこだわり動かずいた典ちゃんと和田君。ここの動きが大きな着差になった中、松山君は「この馬には馬場は関係ない」と信じ、内で溜めに溜めた脚を使うためにコース取りだけに専念しました。
外からリアアメリアが閉めてくる中、内へのスペースを見つけるとそこから解放された末脚は凄まじいものでした。見事無敗の2冠馬となり、3冠に向けて一番の課題になるレースを制したことで、3冠が現実味をおびてきたと思います。コツコツと頑張り続けてきた松山君が勝つのは本当にうれしいです。この結果を素直に受け、一流馬主の馬にもっと騎乗してくれたら日本人トップの成績を残せると、今の彼の技術とメンタルがあればそう思います。
今週はとうとう、日本ダービーが行われます。競馬に関わる人間は一番の目標にこのレースをあげます。人生で一度きりの年齢、限られた頂点を決める戦い。それが日本ダービー。残念ながら高校野球の頂点を決める甲子園は中止になりましたから、実行されるだけでも非常にありがたい話だと思います。
その中で、圧倒的な力で2冠を達成してくれそうな馬がコントレイルになります。こちらは何の心配もないと思っています。仕上げる陣営はこの馬だから!という特別な思いはないにしても、やはり皐月賞からここまで胃が痛くなるほど毎日気を使ってきたと思います。だからこそ、本番に出走できることがどれだけ大きなことなのかを再度認識しながら見届けたいです。
そこに待ったをかけたいのがサリオスになるでしょうね。こちらも才能は素晴らしいものがあるも、ここでの逆転は不可能ではないかと個人的には思っています。その他にもサトノフラッグや誕生日に同じ厩舎の怪物退治を狙う坂井君騎乗のサトノインプレッサも今回が勝負でしょうね。最後の最後までわかりませんが、私はコントレイルの力を信用したい!そして世界へと羽ばたいてほしい!そう思います。
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。