元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
信じぬいた横綱相撲
2020/10/21(水)
皆様、こんにちは!短い夏が終わりを迎え、早くも秋の気候へと変わりました。朝起きると少し肌寒いのを感じながら、いつもよりも布団から出るのが億劫になってしまっています。現役時代であれば時間がくれば自然と目が開き、体にムチを打ちながらも起き上がっていましたが、布団に好きなだけ入れるのはリタイアした特権だなと思っています。しかし、何十年も過ごしてきた日課は抜けることなく、最近でも5時には目が覚めてしまうんですけどね(笑)。
さて、少しではありますが、お客様を入れて行われた牝馬3冠最後のレース秋華賞の話をしましょう。戦前より無敗の牝馬3冠に期待がかかるレースとなり、特殊な緊張感の中、レースを迎えた松山君とデアリングタクト。パドックを見る限り体はデキていましたが気性面が非常に気になり、これは危ないかもしれないなと感じました。
しかし、陣営は桜花賞の返し馬で暴走してしまったことやオークスでの経験を活かし、パドックでは最後方をゆったりと歩かせ、他の馬が本馬場入場する際にも、後出しと呼ばれる方式を選択しました。そのため、テレビではなかなか出てこないと心配になったファンの方もいたと思いますが、気持ちを落ち着かせるために陣営が後出しにしていたのです。さらに、松山君は返し馬でこれ以上ないほどに丁寧に馬をおろしていきました。ここを見た時に心配はいらないなと気持ちが変化しましたね。
迎えたスタートではソフトフルートが出遅れる形になるも、デアリングタクトは五分に出ることができました。注目していたハナ争いは田辺君とマルターズディオサが奪いきる形となりました。2番手にはホウオウピースフル、ウインマリリンと続く形となりました。ここで横山武君にはハナを取り切ってほしかったなという思いが残ります。久しぶりのレースでマルターズディオサも速かったこともあり、ハナを奪えなかったのは仕方ないですが、腹をくくった逃げが見たかったです。
内には枠が仇となったミヤマザクラがつける形となり、デアリングタクトは中団より少し後ろにつける配列となりました。そのまま迎えた4コーナー手前ではデアリングタクトがじわっとポジションを上げてきました。思わずTVに向かい「まだここで我慢だ!」と言った瞬間、4コーナーでも追い出しを待つような形で一息、馬も人にも入りました。ここの乗り方に松山君の成長を感じましたね。非常に冷静かつ強気で相棒を信じ切った横綱相撲で直線を向くと、猛追するマジックキャッスルを寄せ付けず、見事に無敗の牝馬3冠を達成しました。
おとなしそうに見える松山君がまだ2年目でケガをしてから乗鞍が増えなかった時、厩舎で働いていた私のところに「乗鞍よろしくお願いいたします」とあいさつに来ていた頃を思い出しました。芯が強い、負けん気があるから地味な挨拶周りもサボらない。そんな彼だからこそ、達成できた勝利だったと思います。騎手には沢山の種類がいますが、共通して言えるのは沢山乗ることでしか成長できないことがあるなと思わされました。
毎週のように10~12鞍を1日で乗り、どんな馬でも最後まで追ってくれる彼の姿勢を、関係者も見逃しているはずがありません。だからこそ手を差し伸べ、何かあれば頼むとなるのだと思います。努力を続け、掴んだ栄光。彼が更なる高みにいくのは必然なことだと思います。本当に素晴らしい勝利をおめでとうございました。
無敗の牝馬3冠の次は無敗の牡馬3冠をかけた最後のレース菊花賞が今週行われます。コントレイルとしては前哨戦で成長を見せているので、残る不安はレース展開と距離だけかなと思っています。その展開で嫌だなと思うのが、1つ目はバビットの大逃げになります。その中で2番手が控える形になり極端に逃げ馬以外が遅くなった場合、長く脚を使わなくてはいけない展開になると少し苦しいかなと思っています。
2つ目は極端な重馬場になることです。そういった馬場経験がない上に、あの軽い走りからしても不安に感じてしまいます。今のところ今週の土日は晴れ予報ですが、果たしてどうなるのかが心配です。そんな中、絶対王者コントレイル退治筆頭にはバビットが選ばれるのではないでしょうか。重賞連勝の実力は本物で、こちらは重くなる馬場も心配ないでしょうし、不安要素が少ないのは強みだと思います。
その他では、前哨戦で素晴らしい脚で追い上げたヴェルトライゼンデが上がるでしょうね。本番に強い謙一君が腹をくくった勝負を仕掛けてくるでしょうからね。抽選組からはアンティシペイトやアリストテレスが気になる馬ではあります。無敗3冠牝馬と無敗3冠牡馬が同時に誕生することになるのか、歴史の目撃者は皆様です!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。