元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
プロの戦略がぶつかり合った一戦
2021/5/6(木)
皆様、こんにちは!今年も自宅待機ばかりのG.Wとなってしまいました。緊急事態宣言も延長が示唆され、まだまだ当たり前だった日常からは遠い日を送っています。そんな私の元にも65歳以上のワクチン接種のお知らせが届きました。しかし、時間になり電話をしても全く繋がらず、つながった頃には「予約終了です」のお知らせを毎回聞くことになっています。
インターネットで予約もできると言われましたが、65歳以上でネットを使った予約は事実ほとんどいないらしく、予約システムを作るくらいなら電話回線を増やし対応してほしいくらい。ズレた対応にここでも嫌気がさしています。便利さばかりが先にいく今の日本ですが、そこに適応できない年代にも対応してもらいたいなと思います。
さて、G.Wは競馬づくしの人も多かったのではないでしょうか。阪神競馬場で3200mのG1天皇賞(春)が行われました。1周目は外回り、2周目は内回りに変わる変則コースで、どうなるかと思っていましたが、まさにコースの変則に上手く合わせた馬達が上位を占めたように感じました。今の阪神は前残りかつ、外を回しすぎると届かない馬場になっていました。ディアスティマが楽に逃げる展開になり、カレンブーケドールが続く形となりました。4コーナー前ではカレンブーケドールと戸崎君が少し早めに踏み出しました。ここに、この変則コースの特徴が出ていたと思います。
外回りでゆったりと回ってきた後、向正面から内回りに変わった場合、距離を考えても上がりは37秒前後にしかなりません。もちろん、キレる脚を使う馬もいますが、それでも平均としてそれぐらいです。上記した馬場状態で内回りに変わることで、前めのポジションにいることが必要不可欠となります。そこを考え、ディアスティマの手応えに戸崎君も迷いなく動きました。これは素晴らしい判断でした。
しかし、1頭になるとどうしても走らないカレンブーケドールにとっては賭けになってしまいました。それをよしよしと思っていたのが勝った福永君とワールドプレミアのコンビだったのではないでしょうか。ルメールは自分の競馬に徹底すると分かっていたため、じっくりと狙いを定め、アリストテレスの手応えが怪しいとなると一気に抜き去っていきました。カレンブーケドールを捕まえにいくディープボンドを更に外から一気に抜き去り、見事な勝利を挙げました。ディープボンドの和田君も上手く乗りましたが、展開と馬場を考えると雨が欲しかったなという印象でしたね。
騎手同士の作戦がぶつかり合った非常に面白い一戦だったと思います。この様な世間の状態でもプロが本気で考え、ぶつかり合ったレースを見せてもらえると本当に心が震えます。レインボーラインが勝った時も岩田君の感覚と作戦に震えた天皇賞(春)ですが、今回もまた素晴らしいプロの戦いを見せてもらえました。馬にとっては厳しい距離ですが、騎手達のこのやり取りを考えると本当に素晴らしいレースだなと、改めて天皇賞(春)の価値を実感してしまいました。
さて、連続G1はまだまだ続きます。今週の日曜日にはNHKマイルCが行われます。昔はマル外ダービーと言われた一戦も、3歳からマイル向けに仕上げられてきた馬達が集まり、残念ダービーから一風変わってマイルのプロ達のレースとなりました。その中でも注目はKINGMAN産駒のシュネルマイスターになります。個人的にこの馬の走り方が好きで期待しています。
そこに絶好調バスラットレオンが着々と頂点を狙ってきます。その他にも前走の仕上がりで勝ち切ったのが大きいホウオウアマゾンに力はあるルークズネスト、2歳王者グレナディアガーズやピクシーナイトもいますし、穴としてレイモンドバローズも面白いと思います。力が均衡している中で、どのような馬がどのような走りを見せてくれるのか。今週も天皇賞(春)ばりの騎手の戦略を楽しみにしています。
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。