元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
ダート板を取った瞬間
2021/9/28(火)
皆様、こんにちは!最近は頂いた大量のスダチを砂糖やハチミツでシロップを作り、それをソーダで割り飲むのにハマっています。つけてから数日でスダチのいい香りのシロップができあがり、炭酸飲料で割ったりすると非常に良い香りがして美味しいです。炭酸飲料といえば、昔は調整ルームで汗取りのあとに飲んだオロナミンCも思い出します。
一気に飲むと体が戻ってしまうため、哺乳瓶のような入れ物に入れ直し、本当にちょっとずつ飲むようにしていたのも、今となっては懐かしい思い出です。今では一瓶15秒くらいで飲んでしまいますけどね(笑)。減量は人それぞれですが、水分ひとつ飲むのもシビアに考えないといけないほど毎週毎週の体重調整がある騎手は本当にすごいなぁと離れた今でも思ってしまいます。
それでは炭酸飲料のようにシュワシュワした水分ではないですが、大雨が降った神戸新聞杯から振り返りましょう。圧倒的な1番人気に推奨されたのはダービー馬シャフリヤールと福永君のコンビでした。しかし、レース前から降る大雨と中京特有の緩い馬場の影響から、少しこれは分が悪いなと見ていました。苦手すぎるというまでではないにせよ、競馬場の中でも中京は馬場を入れ替えした時から、雨が降ると非常に特殊な馬場状態になってしまうためです。
その雨を見て間違いなくこの馬だとレース前に思ったのがステラヴェローチェでした。騎乗する吉田隼人君も、きっとそう思っていたはずです。レースはテイエムタツマキが逃げる展開から気分良くモンテディオと池添君がつけました。この走らせ方はモンテディオが勝つかもしれないと思いました。そして迎えた4コーナー、シャフリヤールやキングストンボーイが外を回した瞬間、後ろにいた隼人君はダート板(※ゴーグルの上につける砂や芝をよけるための板)を外しました。
これを見た時に「このタイミングで外すということは脚も溜まっているし、あとはコース取りだけだ」と感じました。本来はゴール後に外すパターンもあれば、砂などが付きすぎて見えないから道中で外すこともありますが、今回の4コーナーで外したのは馬の後ろにつけなくても交わすだけだという意図が見えました。その上、悪い馬場が得意なステラヴェローチェにとっては皆が嫌がる内の荒れた所を気にせず走らせることができるため、隼人君にとっては内の選択しか頭になかったと思います。案の定、迎えた直線では馬場の緩い内から鬼のような脚で差し切り、見事な勝利を挙げました。
2着には波乱の立役者として期待していたレッドジェネシスが、3着には上手く乗ったモンテディオが入り、ここまでの3頭に菊花賞への優先出走権が出ました。4着に敗れたシャフリヤールにとっては想定外のレースとなってしまいましたが、この馬場では仕方ありません。なおかつ、以前までの掛かる素振りからすると少し馬もおとなしすぎた気がします。更に少し疲労が心配になるレースになってしまったため、次走は非常に難しい選択になると思います。今回は適性での敗戦となりましたが、次の一戦でシロップのように放牧で寝かせた筋肉が、熟成した甘味へと変わってくれていることを願います。
今週から秋のG1が開幕します。道中でヨカヨカのショッキングな引退もありましたが、スプリンターズSに集まった精鋭たちが楽しみで仕方ありません。注目を集めるのは香港ぶりのレースとなるダノンスマッシュでしょうね。ぶっつけ本番ですが、最近の傾向からもそこは心配ないでしょうが、それでもファンはステップレースを見れていないために予想が難しいと思います。
その意味では前回控えた競馬で勝ったレシステンシアはモズスーパーフレアとの兼ね合いを考えても面白いレースになるのか楽しみです。ジャンダルムの穴馬感、ピクシーナイトの更なる成長など、楽しみがいっぱいのレースになります。その他にも、癖馬に乗せたら右に出る者はいない池添君とメイケイエールのコンビがどんなレースをしてくれるのかに注目してみたいと思います。2021 秋G1開幕戦!是非、お愉しみに!!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。