'14~'16年とJRA最多勝利騎手&MVJに輝いた戸崎圭太騎手による、大井競馬在籍時代から続く
人気コーナー!トップジョッキーならではの本音、レースへの意気込みをお届けします!
12月16日時点1567勝
祝・皐月賞を勝利!東京開幕週は土日で19鞍!
2024/4/19(金)
中山最終週に行われた牡馬クラシック第一弾の皐月賞はジャスティンミラノと臨んで勝利!ジョッキー自身、2018年以来の皐月賞制覇となった。今週は開催替わり、続く東京でも人馬ともに怪我無くを第一に好結果を期待したい。
藤岡康太騎手と共にという思いで臨んだ皐月賞
——今週はまず、こちらから取り上げさせていただこうと思います。ジャスティンミラノと臨んだ今年の皐月賞(G1)。さまざまな思いを背負って臨んだと思います。
そうですね。やっぱり(藤岡)康太のためにも、という思いを持って臨みました。先週も話題にしましたけれど、2週前の追い切りから乗って状態面を事細かに伝えてくれましたからね。
競馬なので一つ間違えれば大事故になりかねないことは常々、肝に銘じていますが、こんなことになってしまうとは、当時も気持ちの整理がつかない中での騎乗でした。
実際、康太は栗東所属だったし、僕も地方競馬から来た立場ですからね。以前であれば会えば挨拶したり、という間柄だったんです。それがジャスティンミラノから急に接点ができていて。今回の騎乗にあたって僕にとっては力になりました。
——いくら厩舎の調教に常日頃から参加しているとはいえ、自ら伝えにきてくれる、ということは藤岡康太騎手らしいエピソードですね。
報道などを見ていても感じていただけるとは思いますが、やっぱり康太が周りに愛されているだけの人柄なのでしょうね。
——公の場で涙を流すことが少ない戸崎さんですが、随分、久しぶりにそんな光景を目にしました。
今までにない経験だったとも言えます。整然とした状態でいようとも思ったのですが、こみ上げてくるものはあったんですよね。レース後に厩舎の方々も皆が「康太のおかげだ」とも言っていたので、本当に結果が残って良かったです。
——レース前の馬の気配はどうでしたか。
パドックでは前走より落ち着きがありましたね。馬場入り、返し馬は相変わらず元気でしたが、体重が増えていたのも筋力アップでパワーアップしていたと言えると思います。
——映像で見る限り返し馬でおろした後の行きっぷりをみると、レース前に見たら心配になりますね。
基本的にあそこだけなんですけどね。待機所、ゲート裏ではぜ~んぜん大人しいんです。馬場入場と返し馬だけは若さを見せるところがあって。言うならイキがってるような感じですかね。
——他馬のアクシデントもあり、ゲート裏では少々待たされましたね。
そこは全く問題なかったですよ。あとはスタートさえ決めてくれれば、という感触でした。
——前回は超がつくほどのスロー。そこからの流れの変化に対応できるか、と懸念される見方もあったと思います。
ゲートは準備していたと言いますか、意識はしていましたね。それでも普通に出てくれました。共同通信杯のようだと競馬は組み立てづらくなるだろうとは考えていたのですが、自分の感覚としては普通に運べるんじゃないかと感じていました。
——この点はお話を伺っている限り、確かににそこまで不安視されているように感じなかったですね。
新馬も普通に立ち回れていましたからね。おそらくスイッチみたいなものだと思います。2戦目はスイッチがボヤけてしまっただけで。今回はゲートを出てくれたし、二の脚の勢いもあり、楽にいい位置につけてくれましたね。
——道中の感触はどうでしたか。
ペースは流れていると思いましたね。前に(川田)将雅がいて、いい位置につけられた感覚はありながら運べました。後ろにも有力馬が控えていることは感じていましたが、速い流れの中でリズムは作れたと思います。
——前が離して流れて、後ろにも人気馬がいる。難しいところもあったと思いますが、それにしても3、4コーナーの手応え。せっかくあの速い流れに対応したのに、もうダメになってしまったのかと一瞬感じてしまいましたね。あのあたりの原因はどう感じられましたか。
東京の2000m、1800mとコーナーが3つあるコースを経験しているものの、実質的にはワンターンに近いようなコース形態ですからね。そこに戸惑っていました。性能的にはこんなところで一杯になる馬じゃない、そう思っていました。
それでもああいう戸惑いがあった時にヤメてしまう馬もいるんですよ。いくら脚があっても、こちらの思い通りにはいかないことはありますからね。何とか気持ちが切れないようにとは意識しました。
自分も昔、そういう経験則もあったのでね。ロジータ記念が行われたりする川崎の2100mって1周半のコース形態じゃないですか。ほとんどの馬が全く経験することがないコースなので戸惑う馬もいましたから。
——今年も春の中山は特にコーナーが荒れて、芝の塊がバンバン飛んでいた状態でしたが、馬場が原因ではなかったんですね。
先週は今開催を通して言えば、馬場は良い方でした。それでも実際のところ内目の方が乾いて良かったんじゃないかと思うくらいです。他の騎手らがどう思っていたかはわからないですけどね。それでも外目を回っていても盛り返せたように、あの馬場なら問題なかったですね。
——内の方が良いという感覚もありながら、今回は外々で良いからスムーズに立ち回らせることがテーマだったんですね。
そうですね。陣営ともそんな話はしていたので。
——それでもモタつきながらも直線を向いてからはしっかり伸びましたね。
ずっと追っているような状態だったので、勝てる感触が早い段階ではわからなかったですが、しっかり反応してくれましたね。強い内容だったと思います。
——ジョッキーカメラの内容ではモレイラ騎手や坂井瑠星騎手へ声を掛けられていましたね。
瑠星に?そうでしたっけ?記憶がないな……。モレイラ騎手にはちゃんと返事をできていたかどうかだけど、声を掛けられたことはわかっています。
——それだけゴールしてから、しっかり馬を収めることに集中されていましたか。
いやいや、それは普段からのことですからね。やっぱり勝てたことで涙が出てきましたね。勝てた興奮と康太への思いで。だから、ゴール直後は記憶にないです。瑠星に声を掛けられたことは今、聞いて驚きました。
——ガッツポーズなどもなかったですもんね。
普段からほとんどしないからね(笑)。
——それにしても、日差しが明るい時は黒いゴーグルをされていますが、引き上げてからもずっと外さなかったですね。
泣いている姿をみせるのもどうかと思っていました。それでも嬉しさと悔しさ、悲しさが入り混じって、(最初の)インタビューまでは我慢ができなかったです。
——今回は康太騎手と一緒に乗ったようなレースですね。
普段の競馬であれば、応援してくれるファンや知人、馬主さん、厩舎スタッフを意識しますけど、日常的なことではありますからね。今回はまた違った思いがありました。「康太の分も」と勝手ながら思わせてもらいましたけど、最後の差は後押ししてくれた、そう思います。
——人馬ともに順調に日々を送ることができれば次は日本ダービーです。
いよいよ来たな、と……。何度も経験させてもらっていますが、今年は違った意味で臨めると思います。
——こうして毎週、話を聞かせてもらっているので詳しくは改めてといったところですが、今回は本当に良かったですね。
ミラノに出会えたことに感謝しています。まだ競走馬としては始まったばかりですが、いい出会いでしたね。改めてダービーも康太と一緒に挑むと言いますか、力になってくれると思います。
東京開幕週は複数勝利の期待が膨らむ
——今週は土日ともに東京。次週は京都になりますね。今週の話題を伺うと、テイエムビッグサーはどうでしょうか。
久々なのでわからない面もありますが、いいところまで来ていますからね。あとは相手次第という段階ではないでしょうか。
——湘南Sのオメガキャプテンは昇級初戦です。
東京コースで安定していて、競馬の幅も広がってきていますよね。昇級でもやれていいのではと思います。今ならマイルでも走れそうな感触はあります。
——オアシスSのデシエルトは引き続き騎乗されます。
前走は少し忙しい競馬でロスの大きな内容になってしまいました。東京はレコードで走れている舞台なので改めて期待しています。どちらかと言えば脚抜きのいい馬場の方が合うのかもしれませんが、そこまで気にはしていません。課題を挙げるならば、モマれる形を経験していない点ですね。そこは枠順次第かと思います。
——ジャスリーは何度も乗られていますね。
状態は変わらずきていると思いますが、どちらかと言えばゲート次第といったところでしょうか。少し不安定さも残る馬だと思います。
——ダノンマカルーは新馬前の追い切りで乗られていた馬ですね。
ダートに替わってからがもう一つのようですが、不器用なところのある馬なんですよね。今回も実戦でどう影響するか、気を付けたいです。
——アルヴィエンヌは今回もダートですね。
どちらかと言えば芝の方が良いかもしれませんが、こなしてはいましたからね。クラスでは上位の存在でしょうから何とかいい勝負ができればいいのですが。
——アサクサヴィーナスは惜敗が続きます。
テンションや折り合いがポイントになると思います。上手に走れば勝っていい能力を持っていますよ。
——鎌倉Sのマーブルマカロン、フローラS(G2)のトロピカルティーと同馬主、同厩舎になりますね。
マーブルマカロンは自分が乗せていただいた時が強い内容でした。その後にまた勝ったこともあり、今回はクラス慣れが必要になりそうな感もありますが、どんな競馬にも対応してくれそうです。トロピカルティーは新馬の当時は追い切りより実戦の方が上向いてくれました。今回もそこからどれだけ変わっているか、もう一つ成長があればと思います。
——ウェイワードアクトは楽しみな存在ですね。
クラスは上がりますが、前走はいい走りでしたね。まだ良くなる余地もあるでしょうし、楽しみです。東京コース自体は走っていますからね。
1500勝の節目まであと僅かに
——その他のレースではカルネアサーダは4着でした。
初めての福永祐一厩舎ということで楽しみでした。いいスピードは持っていますが、本来はハナに行った方が持ち味は出そうですね。1番の馬は速いんじゃないかと思っていて控えましたが、折り合いももう一つ収まりきらなかったです。それだけに周りの馬に近づけるよりは、と少し離して走らせました。最後までバテきったわけではありませんし、馬の雰囲気は良かったです。
——ヴァナルガンドは安定しているものの、道中から行きっぷりがひと息でしたね。
持って運べると理想なんですけどね。相手次第の面もあるでしょうが、外枠から外々を立ち回れた方がもっといい走りができそうです。
——ヴェルトラウムのレースは勝ち馬がズバ抜け過ぎていましたが、ゲートを出た割にはひと息でしたね。
前々で走り過ぎていると言いますか、もう少し体を起こしては知れたら理想ですね。トモからのパワー、推進力が上手く掛からない走りになっていると思います。それだけにコーナーではハマりが悪くて、直線を向いたら盛り返していました、
——ホウオウバリスタは前回がハイペースであの手応え、今回は先行馬も少ないレースでした。
1コーナーの時点ではやったかと思ったくらい。上手に流れに乗れていました。あれだけ楽にいけたのにもうひと押しを欠いたのは本当にわからないですね。前走の疲れなどは感じなかったです。
——ショーマンフリートは距離を延ばしましたが2着でした。
もともと能力は感じていたので走って欲しい、という思いでした。リズムよく行けていますけど、アタマが高い走りが課題ですね。筋肉の質なんかは良いモノがあるのですが。
——ティニアは増えた馬体重も減って完勝でしたね。
返し馬の時点で明らかにデキの違いを感じました。トモのハマりがゆるいところもあるので手応えは悪くなるところもありましたが、しっかり走ってくれました。
——ナファロアはどうでしたか。
返し馬では硬めのタイプかと思いましたが、グイグイとした行きっぷりで、とてもいいフットワークを見せてくれましたね。昇級しても楽しみですね。
——タッカーバレットは引退の勝浦正樹騎手に敗れての2着でした。
勝ったかと思いましたが、この馬の形はとれたと思います。状態がもう一つだったからリズムよく行けたのかはわかりませんが、前走と違ってひと息ではいかなかったですね。
——今週は栗東トレセンにも行かれていたようですね。
天皇賞の追い切りに行ってきました。月曜は康太の葬儀もあって短い間に行き来するのも珍しい経験でしたね。
——喜びだけではない皐月賞だったと思いますが、G1の中でも注目度の高いレースだったと思います。仕事を終えられてからはレースを見返したりされたんですか。
いや、何度か。と言うのも、競馬場に行ったら連絡はできないじゃないですか。今回はお祝いのメッセージなんかもあったので、そちらを返したり。あとは予定も入っていましたからね。
——たくさんのメッセージが。
いや、全然。友達は少ないんでね(笑)。
——プロ野球選手などはプロ初勝利やドラフト指名で相当な連絡がきたなんて記事を目にしますね。
それの数分の1じゃないですか。今回は繫田(健一)とか(真島)大輔からは来ていましたけど。
——まあ、よく話題に挙がる南関東の方々ですね(笑)。しかし、勝っても負けてもレース映像を見返す頻度は変わらないですか。
いや、負けた時で何か修正すべきポイントがあったか、探し直したい時なんかはよくやりますね。最近で言えば(ダノン)キングリーじゃないですか。ダービーの時ね。
——そうでしたか。奇しくも前が流れて、後ろに人気馬がいる構図は今回と同じでしたね。次週は土日ともに京都での騎乗。その後の遠征の予定はまだなさそうですが、東京開催では勝ち星を重ねていってほしいです。今週もありがとうございました!
ありがとうございます。康太のことは非常に残念で悲しくもありますが、前を向いて騎乗を続けていきたいと思います。
プロフィール
戸崎 圭太 - Keita Tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。99年に大井競馬の香取和孝厩舎所属としてデビュー。初騎乗、初勝利を飾るなど若手時代から存在感を放っていたが、本格的に頭角を現したのは08年で306勝をマークし、初めて地方全国リーディング獲得した頃から。次第に中央競馬でのスポット参戦も増えていった。
11年には地方競馬在籍の身ながらも、安田記念を制して初のJRAG1勝ち。その名を全国に知らしめると、中央移籍の意向を表明し、JRA騎手試験を2度目の受験。自身3度目の挑戦で晴れて合格し、13年3月から中央入りを果たした。移籍2年目はジェンティルドンナで有馬記念を制す劇的な幕引きで初の中央リーディング(146勝)を獲得。16年も開催最終週までにもつれた争いを制し、3年連続のJRAリーディングに。史上初となる制裁点ゼロでのリーディングだった。19年にはJRA通算1000勝を達成、史上4人目のNARとのダブル1000勝となった。プライベートでは2022年より剣道道場・川崎真道館道場の総代表を務めている。