第4章 チャンピオンズCに堂々の出走 ダート界の新星ロワジャルダン
2015/11/29(日)
-:続いてチャンピオンズCのロワジャルダンについてお伺いをしたいのですが、改めてみやこSはおめでとうございました。
戸田博文調教師:ありがとうございます。
-:この馬もダートでデビューされているのですが?
戸:そうですね。新馬はダートで勝って欲を出して、1回ゆりかもめ賞という2400mの芝を使って、全然ダメで、これはやっぱりダメだな、と戻したら次に勝ってくれて。
安藤勝己騎手:デビュー前からダート向きの感じだったの?
戸:いや、兄弟(ゴールデンチケット)がダートで重賞を勝っている血統なので、ダート色が強いのだと思います。でも、新馬を勝つと、ちょっと時季的にクラシックを意識しちゃうから、1回使ってみようかなと思って使ったんですけどね。でも、すぐ次にダートで勝ってくれたので。
安:でも、ある意味、早くに適性が掴めて収穫だったんじゃないの?
戸:そうですね。そこでダメだったらダート1本で行こうと思っていたので。ただ、オープンを使った時に膝を骨折しちゃってね。この子がエライところは、骨折休養明けでも落ちないで、良いパフォーマンスを見せてくれたので。馬の成長力もあって、この馬は、ウチはダートと言うとシビルウォーでしたが、次の馬が出てきてくれて嬉しいなと。骨折休養していたので、幾らか完成までにはちょっと時間が掛かるというか、僕の中ではまだ伸びしろがあるんじゃないかと思っているんです。
3歳1月にデビュー勝ちを収めたロワジャルダン
安:すごく安定してる馬だよね。
戸:ダートにしてからは掲示板を外していないんですよね。だから、本当に堅実というか、すごく真面目ですよね。
-:2走前のブラジルCが久々で4着に敗れているんですが、あの時の状態はどんな感じでしたか?
戸:状態としては悪くなかったんですが、以前クリスチャン(デムーロ)に乗ってもらった時に、分かっているようにすごく上手なジョッキーなんだけど、ミルコ(デムーロ)とかと違って、ちょっと若い分、「イケイケ」なんですよ。休み明けはそのイケイケが良くて勝ったんですが、その後はイケイケ過ぎちゃって、ちょっと前に行き過ぎというか、ドッシリ構えていれば良いのに攻め過ぎちゃって、最後脚が垂れちゃって……。この馬は、微妙に2100mは長いんですよ。でも、勝っているので、全然ダメということではないと思うんですが、そこは乗り方一つだと思うんですよ。
春先に1000万で勝って準オープンに行った時も同じような競馬をして負けて、その後はルメールで②着して。ブラジルCではクリスチャン、負けた時と同じような乗り方をしたんだよね。一応、それに気を付けてくれ、と通訳の方に言ったんだけど、多分あんまり通じてなかったんだと思うね(苦笑)。でも、逆に言えば、そこを負けたから京都の勝ちがあったというか、勝ったら手堅く浦和記念に行こうと思ったの。負けたらみやこSに行くしかないなと思っていたので、あとは、ただ入るか入らないかの賭けだけであって、勝ったら手堅く浦和記念もしくは、名古屋グランプリとかに行こうかなと思っていたので。
逆に負けて勝負に出たというか、ここは登録しておかないと賞金的にまだ低い馬だから、ダート路線は層が厚いので。幸いにも頭数が意外と少なくて、これは行くしかないと思ってね。これも面白いことに、たまたま浜中君が空いていて、これも巡り合わせというかね。浜中君なんか、ウチの馬にあんまり乗ったことがないからね。昔、ワールドスーパージョッキーズシリーズでアメリカンウィナーを出していて、たまたま抽選で浜中君になって勝ってもらって、それからもポツン、ポツンとは乗ってもらったけど、正直あんまりイメージがないんですよ。ただ、この時はたまたま空いていたという偶然の感じで。結局、本番も乗ってもらえるようになったので、良い流れのまま行きたいなとは思っているんですけど。
安:「みやこSは出走までが勝負だった」という話だけど、状態に関してはどうだったの?
戸:夏に福島で2連勝した時に、ちょっと暑さもあって若干疲れがあったのを、すぐに放牧に出して、本当はもうちょっと早い段階で戻してレースを、という話もオーナーサイドからあったんですけど、放牧に出していた山元トレセンのスタッフと相談したら「ちょっと疲れがあるので、我慢した方が良いと思うんです」と。僕もそう思うということで、少し楽をさせて仕切り直したので、ひと叩きしてすごく良い状態ではあったと思います。
安:道悪のあの馬場で内から良い脚を使っていたからね。
戸:2キロ軽いというのと、浜中君が初めて乗った割にはすごく上手に乗ったなというイメージでしたね。
安:良い流れで本番を迎えられるのはいいね。チャンピオンズCに向けて状態はどうなの?
戸:今のところ、馬は道悪の速い馬場を走った割にはダメージもなく、順調に来ているので、このまま良い状態で出走できるようにとは思っています。先々週あたりなんかも、速いところに行っても全然調子落ちしている感じがないし、今週は1週前追い切りになるので少し強めにやって、もう休み明け3戦目なのでガリガリやることはないと思うんですけど、ちょっと強めにやって、後は維持できれば良い状態で行けるかなと思っています。
安:中山でも結果が出てるけど、見てると左回りの方が良さそうやね。
戸:そんなイメージがあるかもしれないですけど、何だかんだで右回りも勝っているんですよ。あともうひとつは、福島で2連勝してくれたのですが、福島の小回りの右回りを経験したということはちょっと器用さが出たのかなと。何か、あまり器用さのないイメージの馬だったのですが、あの小回りコースでも走れたので、器用さもちょっと出てきたのかなと。明らかに、ルメールが乗った時とノリちゃんが乗った時の馬の行きっ振りや道中の感じがVTRを観ると違うんですよね。そこで馬が学習してくれたのかなというイメージもあって、それで、今回も右回りで良かったんじゃないかなと。しかも、器用にあの狭い所を割ってくれたので、学習してくれたのかなと。
安:そういう意味じゃ、中京も合うんじゃねぇの?
戸:元々、左回りは悪くないと思っているので。中京は、競馬場的には良いんじゃないかなとは思っていますね。
「初のG1挑戦だし、本当に挑戦者でどこまでやれるかというところだと思うのですが、状態だけは良い感じで行けそうなので、少しでも古豪と強力なG1馬に、何とか一矢でも報えるように行けたらなと思います」
-:安藤さん、ロワジャルダンが対戦する今のダートの相手関係についてはいかがですか?
安:けっこう揃っているのは揃っているよね。だけど、大物喰いという感覚もする馬だから。
戸:でも、本当に今のダートって、何だかすごいですよね。良い状態で、ある程度ピシッと仕上げていかないと全然お話にならないようなことになっちゃうので、キッチリ馬をつくっていきたいなと思うんですけどね。本当にダートは層が厚いですよね。ホッコータルマエもまだまだ強いしね。
安:また下からも来てるし、みんな健在だから。この間のノンコノユメ、コパさんの馬も強いし。あれがスンナリ行ったら、強いよ。
戸:本当に強いので、ロワジャルダンに関しては初のG1挑戦だし、本当に挑戦者でどこまでやれるかというところだと思うのですが、状態だけは良い感じで行けそうなので、少しでも古豪と強力なG1馬に、何とか一矢でも報えるように行けたらなと思います。
安:ここで力関係が読めるね。
戸:ただ、ジャルダンはまだちょっと完成の域には足りない部分も……。4歳と言っても、1年近く休んでいて、成長という意味ではまだこれから伸びる部分もあるので。馬って、大きいレースで潰れちゃうか、そこで覚醒して、さらに力を付けるというところがあると思うんですよね。今回、良い経験をして、さらに力を付けていってくれると期待はしているのですが。中にはちょっと無理使いして、G1馬に押し潰されちゃって、ダメになっちゃう馬もいなくはないですけどね。
-:ダート馬は息が長いから、4歳のこの時期に賞金を持って、まだ伸びしろがあると思うとまだまだ先が長いですね。
戸:そうですね。G1は勝てなかったですが、シビルウォーなんかも9歳まで頑張ってくれて、その分、層も厚いというのもあるのですが、この馬もダート界の有力馬に仲間入りできるような馬になってくれて、息の長い活躍をしてくれればなと思いますけどね。
安藤勝己×戸田博文「名馬は一日にして成らず」(第5章)
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【戸田 博文】Hirofumi Toda
1963年10月1日生まれ、茨城県出身。
美浦トレーニングセンター所属の調教師。
専修大学馬術部出身で、1991年に高木嘉夫厩舎の厩務員としてキャリアをスタート。同年11月より八木沢勝美厩舎の調教助手となり、1995年に大久保洋吉厩舎へ移籍。2000年に調教師免許を取得し、翌年6月に厩舎を開業する。
2002年、トーセンリリーがエーデルワイス賞を勝って重賞初制覇。2006年のフラワーCをキストゥヘヴンで制してJRA重賞初制覇、同馬で続く桜花賞も制してG1初制覇を挙げた。以降もコンスタントに勝利を積み重ね、2013、14年春の天皇賞をフェノーメノで連覇。シビルウォーがダート重賞を5勝、何度も休養を余儀なくされたシンゲンで重賞を3勝。11歳まで現役で活躍させるなど、高い手腕を発揮。11月8日のみやこSではロワジャルダンが重賞初勝利をマークし、更なる躍進が期待されている。
プロフィール
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身。
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1・22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。