第5章 戸田博文厩舎を知り尽くす イチオシの注目馬とフェノーメノ
2015/11/29(日)
-:戸田厩舎はすごく勢いがあるので、ファンも注目していると思うのですが、最後に先生が期待している2歳馬、3歳馬、古馬とそれぞれ1頭ずつぐらい、これを追い掛けていれば夢が見れるぞ、という馬を挙げて下さい。
戸:ウチの2歳は、まだそんなに勝ち上がっていないのですが、メートルダールという馬が次は葉牡丹賞を使うんです。そこをアッサリ勝つようだと面白いかなと。ここのところ、ゼンノロブロイの大物は出ていないと思うのですが、奥のありそうな雰囲気を醸し出しているので、ちょっと注目してもらえると面白いかなと。一応、勝っている馬を優先してお話する中で、アメリカンヘブンという馬が、前走の2戦目でおかしくなっちゃったんですよ。パドックで汗がダクダクになってしまって、返し馬に行って輪乗りになっても1回も歩かなくて、それで6着に来たの。あれが落ち着けるようになったら、ちょっと面白い。パドックで汗ダクにならないで、落ち着いて歩いてたら、多分走ってくれると思う。確かに普段からちょっとそういうところがあるのですが、新馬の時は見せなくて、中山で強い勝ち方をしたんですよ。東京でも期待していて、新馬の時が岩田君で2戦目は(福永)ユーイチ君に乗ってもらったんだけど……。馬能力に関しては二人とも評価してくれているのでね。
3歳は牝馬のアールブリュットですかね。これからオープンに行って、頑張ってもらいたい馬です。デビュー戦がすごく強い勝ち方をして、2戦目も人気になったんですよ。ところが道悪が良くなかったのか意外とダメで、その後に膝を軽く骨折しちゃって。でも、この子もあんまりパフォーマンスが落ちないで、休み明けはあまり良くなかったのですが、能力はあるので夏の新潟でユーイチ君に乗ってもらって強い勝ち方をしてくれました。この間の休み明けの1000万は負けてしまいましたが、そんなにパフォーマンスが落ちている馬じゃないので。この間もちょっと道悪になっちゃったんですね。昔ならあそこまで追い込めなかったのでしょうが、すごい脚を使って②着だったので、あれが良馬場だったら差し切っていたような感じの競馬だったと思うんです。れから古馬になってオープンまで行って、ゆくゆくは重賞で活躍してくれるような馬になってくれれば良いなと思います。当然、グランシルクも競馬も教えながらの段階ですけど、G1戦線での活躍を期待しています。
やっぱり古馬は、現状としてはロワジャルダンですよね。一応、これが頑張ってもらえるような馬になればなと。古馬の中では重賞も勝っているし、ウチの厩舎の次の看板馬になってくれればと思っています。
-:戸田厩舎で活躍されたフェノーメノについても、何かエピソードはありますか?
安:見ていると、何か難しいところがあったのかなと。状態を維持するのも難しい馬なのかなという感じがしてたのですが、勝つ時はすごい強い勝ち方をして。
戸:それこそあの馬は、安藤さんが現役バリバリの時にあの馬が現れてくれてたら、すごく嵌まった馬じゃないかなというイメージが、僕はありますね。ステイゴールドの子が競馬に行って、ゴールドシップやオルフェーヴルのようなヤンチャな面はなくて、競馬に行ったら真面目なのですが、普段はちょっと気性的にきついところがあって、やっぱり最後の方の良くない時は噛み合わなくて、意外とエッみたいな負け方をして。あれはヤンチャな面を出さない部分があったから、そういう風に見られなかったのですが、やっぱりステイゴールドってそういうところがあるんだな、という一面じゃないかなと思いますね。
青葉賞で当初はエビちゃんが乗れなくて、昔の井上君だったら「安藤に乗せていただきます」となっていたと思うんだけど、たまたまエビちゃん(蛯名正義騎手)が、国枝厩舎で京成杯を勝った馬でベストディールが使えないことになって、それでポッカリ空いたんでエビちゃんになったんですが、その前の弥生賞では岩田が道悪で挟まって、後ろに下げられちゃったんですよね。最後は追い込んできたけど全然ダメだったので、岩田はディープブリランテに乗っていたし、ユーイチなんかもワールドエースで、ジョッキーがみんな埋まってて、どうしよう、どうしようと言っていたんだよね。安藤さんを呼び戻すかと、本当にそういう話もしていたんですよね。もう安藤さんしかいないよと。
安:見た目もカッコ良い馬やったからね。
戸:もうちょっと活躍させてやりたかったんですけどね。僕らも、そういう難しいところを補いきれなかった部分があるかなと反省もあります。
安:産駒が楽しみやね。
戸:何とか子供はもう少しね。血統的には母系がデインヒルだし、結構面白いと思うので、種馬としてね。しかも、ロングディスタンスしか勝っていないのですが、DNAの検査だと、血統的には基本中距離の血統になっているので、それだったら種馬としては違いが出て、期待できるかなと思いますけどね。
安:競馬が上手やから3200mを勝っとるけど、2000~2400mの方が強い競馬しとったからな。
戸:イメージは、僕もそう思っているんですけどね。ただ、去年とかは脚部不安とかもあって出れなかったり、使ったけど噛み合わなくて、ちょっとジョッキーが二転三転しちゃったのが、僕的には上手く噛み合わなかった部分かなと思っているんですけどね。
-:今日は色々と聞かせていただいてありがとうございました。これからの戸田厩舎に安藤さんからメッセージをお願いします。
安:やっぱり見ていて、息の長い馬をつくっているから、それだけ馬を大事にしてるんだなと思ってね。そういう部分が競馬って大事だと思うの。最初だけ良いとか、そこを狙ってというのじゃなくて、将来を見据えて馬をつくっていくという、そういう基本に忠実な部分をずっと続けて欲しいというかね。やっぱりその時だけじゃなくて、例えばシビルウォーみたいなこれからも息の長い馬をつくって欲しいね。
戸:安藤さんが言われるみたいに、僕も本当に、そういう風になりたいなと普段から思っていて、どうしても今の仕組みだと、やっぱり成績を上げるには目先をパッ、パッとやらないと成績が上がらないと思うんですけど、競馬ファンって、馬が出てその馬が長く活躍すればするほど追っ掛けてくれるんでね。
安:馬にファンが付くというのが基本だからね。
戸:そうなんですよね。息の長い競馬をさせてあげることを前提に、そういう馬のつくり方が大事かなと常日頃から思っています。
-:本日は貴重なお話をありがとうございました!今後も戸田厩舎のご活躍をお祈りいたします。
戸:こちらこそありがとうございます。
【戸田 博文】Hirofumi Toda
1963年10月1日生まれ、茨城県出身。
美浦トレーニングセンター所属の調教師。
専修大学馬術部出身で、1991年に高木嘉夫厩舎の厩務員としてキャリアをスタート。同年11月より八木沢勝美厩舎の調教助手となり、1995年に大久保洋吉厩舎へ移籍。2000年に調教師免許を取得し、翌年6月に厩舎を開業する。
2002年、トーセンリリーがエーデルワイス賞を勝って重賞初制覇。2006年のフラワーCをキストゥヘヴンで制してJRA重賞初制覇、同馬で続く桜花賞も制してG1初制覇を挙げた。以降もコンスタントに勝利を積み重ね、2013、14年春の天皇賞をフェノーメノで連覇。シビルウォーがダート重賞を5勝、何度も休養を余儀なくされたシンゲンで重賞を3勝。11歳まで現役で活躍させるなど、高い手腕を発揮。11月8日のみやこSではロワジャルダンが重賞初勝利をマークし、更なる躍進が期待されている。
プロフィール
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身。
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1・22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。