池江師「もっと状態をアップさせていく」…平松さとしの現地レポート

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快晴のパドックに日本の2騎、すなわちオルフェーヴルとアヴェンティーノが現れたのは、他馬の騎手達がすでに各馬に跨った後だった。

池江泰寿調教師自身が引くオルフェーヴルに、C・スミヨン騎手が跨る。それほどイレ込んだ感じもなく、良い雰囲気にみえたが、池江師はかぶりを振る。

「実は馬運車に積み込む時からうるさい素振りをみせていたんです」

それが、これほどまでに普通にパドックを周回できるようになったのは「アヴェンティーノのお陰」だったと語る。

「アヴェンティーノが前を歩くことで、オルフェも落ち着いてくれました」

僚馬のサポートはそれだけではなかった。いや、むしろゲートが開いてからも大きな仕事が待っていた。

「誰も行きたがらないようだと折り合いを欠く可能性がある」(池江師)オルフェのために、アヴェンティーノがハナへ行く。オルフェはスミヨン騎手がなんとかなだめて最後方へ。

「前半は大分、掛かるような感じでしたね。でも、難しい馬だということをスミヨンに分かってもらうためには、あのくらい行きたがってくれて良かった」と池江師。

後半はグンとラップが上がった。オルフェは内を突いて前を窺う。

「初めてのコースにも戸惑うような感じはなかった」とスミヨン騎手の鼓舞に応え、先頭に踊り出ると、ミアンドルら欧州勢の追撃を振り切り、異国の地での初戦を飾った。

「スローペースは予測できたこと。前半もよく我慢してくれたよ」とスミヨン騎手。これに対し、池江師は渋い表情のまま口を開いた。

「先頭に立った時は正直、もっと突き放せると思いました。やはりヨーロッパではそう楽には勝たせてくれませんね」

そして、続けた。

「今回と同じパフォーマンスでは凱旋門賞を勝つことは出来ないと思います。もっと良い走りが出来るよう、あと3週間で更に状態をアップさせていきます。頑張ります」

まずは第一関門をクリアしたオルフェ。しかし、次こそが本当の目標であって、今回とは数段違いの難関でもある。叩かれて、更にパワーアップすることは、勝つための必要最低限の条件となる。

(続く)




平松さとし
ターフライター。1965年2月生まれ。
昭和63年に競馬専門紙「ケイシュウNEWS」に就職。その後、2紙経た後、フリーランスに。現在は雑誌や新聞の他にテレビの台本書きや出演、各種イベントの演出などを行う。毎年のようにブリーダーズCや凱旋門賞、ドバイワールドCを観に行くなど、世界中を飛び回る。そのお陰もあって、欧州におけるJRA所属馬のG1全17勝(平成24年現在)のうち16勝をライヴで目撃している。