JC&香港国際競走[和田栄司コラム]

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ブリーダーズカップも終わり、世界の競馬の主戦場は極東に移った。11月25日に東京競馬場で行なわれるジャパンカップ、12月9日に香港シャティン競馬場で行なわれる香港国際競走、この2つのビッグイヴェントに世界の目が注がれることになる。

25日のジャパンカップには5頭の外国招待馬が決まった。凱旋門賞馬のソレミアは、今月初旬にJC出走を決め、今日(13日)にも仏国を出発する。英国のジャッカルベリーとレッドカドーの2頭は6日のメルボルンカップを走る前から招待受諾のニュースがJRAを通じて紹介された。天皇賞(秋)にも登録していた英国のスリプトラも同じタイミングで招待受諾リストに掲載され、既に12日日本に到着した。

1番最後になったのは同じ英国のマウントアトス。豪州フレミントン競馬場で6日行われたメルボルンカップの翌日の7日、ルカ・クマーニ調教師は、メルボルンカップ5着のマウントアトスにジャパンカップ、僚馬でメルボルンカップ10着のマイクエストフォーピースを香港ヴァーズ、2頭を振り分けて使うことを決めた。

5頭の中では凱旋門賞馬ソレミアが大将格。ソレミアがJC参戦を決めた後を受けて、オルフェーヴルがJC出走を決め、2頭のリマッチは世界も注目することになった。オルフェーヴルは、不良の凱旋門賞で最後の600m、400mのラップを、出走馬の中では突出したタイムを記録したが、レースの上り200mでは、オルフェーヴル13秒50に対し、ソレミアの上りは13秒07と推測出来る。一捲りで決着が付いたように見えた凱旋門賞が、最後の200mでクビ差の大逆転に繋がったのはこの時計差が全てを物語っている。

ポリグロート産駒の4歳の牝馬ソレミアは、5月サンクルー競馬場のG2コリーダ賞で稍良の馬場にも拘らず、前年の凱旋門賞2着馬シャリータをハナ差で差し切って重賞初制覇している。しかし、前哨戦のG1ヴェルメイユ賞では稍良の馬場でシャリータに2馬身の差を付けられて3着、凱旋門賞はやはり得意な道悪だったことが最大の勝因だろう。通算成績は13戦5勝、2着3回、3着2回。

同じ4歳の牝馬で1993年に不良の凱旋門賞でホワイトマズルの追撃をクビ差凌いで勝ったアーバンシー(ガリレオ、ブラックサムベラミー、シーザスターズの母)は、ジャパンカップでレガシーワールドの4馬身4分の3差8着に終わっている。G3・2勝馬だったアーバンシーが8着なら、G2勝馬だったソレミアの方が上との見方も出来るが、高速馬場のJCで前について行けるかどうかも疑問である。加えて主戦ジョッキーのオリビエ・ペリエ騎手が、日本での騎乗が可能かどうかも不透明である。

メルボルンカップ3着のジャッカルベリーは2010年のG1ミラノ大賞典勝馬、格的には外国馬のナンバー2的存在である。ストーミングホーム産駒の6歳の牡馬は、伊国から英国に移籍、今季は春先のドバイでG3ナドアルシバトロフィー(芝2810m)3着、G1ドバイシーマクラシック(芝2410m)で3着と善戦したものの、ロイヤルアスコットのG2ハードウィックSは5着と波に乗り切れなかった。8月には米国シカゴのアーリントンパーク競馬場に遠征、ステークス競走の国際競走アメリカンセントレジャーS(芝13.5F)に出走してG1馬の格の違いを見せつけた。

秋は豪州メルボルンへ遠征、初戦となったコーフィールド競馬場のG1コーフィールドカップ(芝2400m)で6番手から後退して13着と大敗したが、6日のG1メルボルンカップ(芝3200m)では中団の後ろ14番手から追い込んで勝馬から2馬身4分の1差3着と健闘した。通算成績は26戦10勝、2着2回、3着4回。

メルボルンカップで3馬身4分の1差5着のマウントアトスは、昨年まではハンデキャップ戦しか勝鞍がなかった。今季はニューマーケット競馬場のハンデ戦(14F)、準重賞シルヴァーカップ(芝14F)、G3ジェフリーフリーアS(芝13F61Y)を3連勝した後、2ヶ月半余の前走がメルボルンカップの遠征だった。通算成績は21戦7勝、3着1回。

メルボルンカップで5馬身4分の3差8着のレッドカドーは、昨年のメルボルンカップで2着、その後のG1香港ヴァーズでも3着に入った。カドージェネルー産駒の6歳のセン馬は、今季2戦目でG2ヨークシャーカップを勝ち、続くG1コロネーションカップでもセントニコラスアビーの2着と健闘した。前走のメルボルンカップは4ヶ月近く空いた久々のレースで、スノーフェアリーを使えなかった分もエド・ダンロップ調教師が期待をかけている。通算成績は31戦6勝、2着8回、3着5回。

2009年のG2ギョームドラーノ賞勝馬スリプトラは、今季も2つ目のG2勝ちを収めた。オアシスドリーム産駒の6歳の牡馬は今季初戦ケンプトン競馬場のポリトラックで行われた準重賞を勝ったが、伊国遠征のG1共和国大統領賞(芝2000m)6着、帰国後ロイヤルアスコットのG1プリンスオブウェールズS(芝10F)5着、サンダウン競馬場のG1エクリプスS(芝10F7Y)7着の後、ヨーク競馬場のG2ヨークS(芝10F88Y)を勝った。しかし、8月のG1ジャドモントインターナショナルS(芝10F88Y)はフランケルから15馬身半差の6着に終わった。通算成績は29戦7勝、2着4回、3着2回。

初めての臨戦過程となるメルボルンカップ直行組が3頭、対照的にカナディアン国際Sからの出走馬はなくなった。凱旋門賞1/2着のリマッチにどうしても目が行ってしまうが、メルボルンカップから臨む3頭にも注目してみたい。外国馬にとっては高速馬場への対応が全てである。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。