2頭のブラック秘話[和田英司コラム]

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13日、シドニーのランドウィック競馬場で行なわれたG1TJスミスSで不敗の6歳牝馬ブラックキャヴィアが豪州新記録の25連勝を達成、自らの記録を更新しました。これでG1・8連勝、G1優勝の数は15回となり、偉大なキングストンタウンの最多G1優勝記録も塗り替えました。

ランドウィック競馬場の右廻りの1200m戦、単勝1.14倍のブラックキャヴィアはルーク・ノーレン騎手を鞍上に1番枠からスタートします。徐々に前に押し上げて行き内の3番手の位置取り、3コーナーから外に出して行きますが、外からハイリストが来た為、2番手のハウマッチドゥユーラヴミーとハイリストの間に入り4コーナーに向かいました。

直線に入りブラックキャヴィアは3番手でしたが、気合を入れただけで馬場の中央から逃げるレインアフェアを残り200mで交わし優勝しました。タイムは1分09秒65、2011年に勝った時が1分08秒71でしたからもの足りなさは残りましたが、4コーナーで内を突いて残り100mで2番手に上がった3歳馬のエパウレットに3馬身差を付けて優勝したのですから圧勝と言って良い内容でした。

晴、デッド4発表の馬場でしたが、ラスト600mの上りは36秒09かかりました。重に近い馬場で、特に内の芝状態があまり良くなく、1番枠でその悪いところを走らなければならなかったことを考えますと、それでも勝ってしまう彼女は正に世界最高のスプリンターと言えるでしょう。1200mの距離はこれが18回目の挑戦でした。

ブラックキャヴィアは、日曜日にシドニーからメルボルンに運ばれましたが、ピーター・ムーディー調教師は、月末に組まれているオールエイジドSからブラックキャヴィアの回避を決めました。2週間で2度の旅を課せるのは牝馬に気の毒と言う配慮のようです。走る前から、ロイヤルアスコットへの招待も来ているブラックキャヴィアの気になる次のレースですが。

「彼女のホームグラウンドはメルボルンの競馬場です。抗炎症からの痛みと苦痛からカムバックした彼女の真の評価にはあと2、3日かかるでしょう」とムーディー調教師はシドニーのスカイ・スポーツ・ラジオのインタビューに答えました。ムーディー調教師は今週末まで待つつもりです。牝馬のオーナー達が短時間のチャットのやりとりでオプションを議論することになるようです。

「私が言えることは、今年のアスコットに行くならそれはゲームオーバーを意味します。彼女はそこからカムバックしたのです。昨年何が起きたのかもう一度参照して下さい。引退になるでしょう」とアスコット行きには否定的です。ムーディー調教師は、彼女が海外に出る必要は何もないと見ています。彼はむしろオーストラリアで彼女の走りを観たい考えなのでしょう。

「私の夢は、オーストラリアで彼女のキャリアを終えることです。来年のTJスミスで3度目、またライトニングS4連覇も狙えるじゃないですか。あまりにも遠いところに行く必要はないと思います」と続けています。オプションでは、北のブリスベーンに行ってBTCカップかアデレードでグッドウッド、ロイヤルアスコットに行って引退、数ヶ月パドックで来季の春のカーニバルに備える、3つの選択肢があるようです。

同日、日本の中山競馬場で行なわれた障害のG1、中山グランドジャンプではアイルランドの8歳セン馬ブラックステアマウンテンがルビー・ウォルシュ騎手を鞍上に最終障害飛越後に先頭に立って、ペガサスジャンプS(ブラックステアマウンテンは9着)勝馬リキアイクロフネの追撃を半馬身差退けて欧州馬初の優勝、賞金6500万円を手にしました。

管理するウイリー・マリンズ調教師は、10年前にG1・7勝を挙げたフロリダパールとG1・3勝のアレグザンダーバンケットの2頭で中山グランドジャンプに招待されました。しかし、2頭共中山競馬場の馬場に合っていないとの結論で回避することになりました。「私は所謂サマーホース(夏馬)が合っているとの考えで、十分な資質を持った馬を見つける為に数年かかってしまった」とマリンズ調教師は話しています。

「ペガサスジャンプSでのブラックステアマウンテンのパフォーマンスを観て、私は疑問を持ちました。しかし、ルビー・ウォルシュ騎手は肯定的な考えでした。帯同馬として連れて来たエメットとディルムッドの2頭も、レースに向かうブラックステアマウンテンに良い仕事をしてくれたと思います。私は今興奮しています。仮に次回も来れるとしたら、コンディションが合っているか、そんなことに夢中になってしまいます」と続けています。

「我々はペガサスジャンプSの後、ここを使えるか心配でした。しかし、距離が4250mに伸び、これまでの経験が彼自身を助けることになりました。最終障害の後、我々の外に馬がいなかったのも幸いでした。仮に外に馬が来ていたらパニックに陥ったかも知れません。しかし、それもなく、道中も望むところにポジションを取ることが出来ました」とウォルシュ騎手はしてやったりの表情でした。

「ブラックステアマウンテンは高速馬場が好きです。残念ながら、アイルランドでは過去2年間にこんな馬場を経験出来ませんでした。そこで我々は堅い馬場を求めて日本に来ました。彼は大きなレースでそれが出来ることを証明したのです」とマリンズ調教師は締めくくっています。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。