キズナ、悠々とダービーへ!…平林雅芳の目

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13年5月4日(土)
3回京都5日目11R 第61回 京都新聞杯(G2)(芝2200m)


キズナ
(牡3、栗東・佐々木厩舎)
父:ディープインパクト
母:キャットクイル
母父:Storm Ca
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ひとつ前のレースの時には俄かに空の黒雲が集まりだして、ついに堪え切れずに空は泣きだす。しかし、レースを終えて多くの人が見つめるパドックの頃には、もう雨も上がっていた。さすがにメリハリのある空模様だ。

けっこうな人に驚く。そしてスタンド前からのスタート。
やや出が鈍かったキズナ、1角を最後方で廻る。前がウインアルザスキングデザイヤーがけっこう飛ばす流れ。しかし縦長の後方のキズナ、3角から少し順位を上げるが、坂の下りではまだ後ろから数えた方が早いぐらい。ポツンと離れた3番手を進むペプチドアマゾンが絶好の位置にいるのは誰の眼にも確か。4角を廻って追いこんでくるキズナ。しかし前とはずいぶんと差がある。届くのか~とヤキモキする気持ちが恥ずかしい様な最後の伸びで、見せムチの余裕でゴールを通過。晴れてダービーへと進む事が出来た…。

『見えてきたね~…』と語る武豊J。最終レースの馬がトンネルを潜って出て来るのを待つ検量室前での言葉である。もちろん、意味は判るはず。そう!5月26日、府中のあのレースを指すものだ。廻りに誰もいない時の言葉だ。ところが私にだけ語ったと思っているフレーズを、翌日の新聞でけっこう観る。元々がオープンなんだ~と理解している。でもこの言葉は悪くない。

ではレースを振り返ってみる。当然にキズナを中心に観ている。ゲートの出が早い方でもないキズナだが、隣りのサトノキングリーがすぐに右に寄ってきて狭くなり、手綱を引く。瞬間の出来事だ。後ろにはリグヴェーダしかいない。外枠の3頭が前へと出て行った。その中では一番内のウインアルザスが押して押して先頭となる。隣りのキングデザイヤーも同じように押して行く。ヒルノドンカルロと3頭が先を急いでいく。

最初のカーヴに入った時には、ウインアルザスが内ラチ沿いでキングデザイヤーが1頭分開けて外、ヒルノドンカルロは控えて3番手、その内をペプチドアマゾンがラチ沿いを廻る。キズナはと見るとリグヴェーダの後ろ、最後方で廻った。
次のカーヴではキングデザイヤーが1馬身下げて2番手。3番手ペプチドアマゾが3馬身後ろ。キズナは最後方、前に15頭がいる。
向こう正面に入るまでに、外へ出して1頭交したキズナ。前はと見ると、3番手ペプチドアマゾンとの差を開いた先頭グループ。けっこう流れているペースだ。《向こう正面中間点を通過、1000メートルは59秒2です!》の場内アナウンスが聞こえる。これが速いのか遅いのかは瞬時には判断できない。しかしけっこうな流れだと。
やがて坂を迎えて下り出す。ここで前の2頭はまた差を縮めはじめる。ポツンと3番手のペプチドアマゾンが絶好の位置に思えてならない。前はさらに並び出す。ウインアルザスの外へキングデザイヤーが馬体を併せにかかる。後続馬もグーンと差を詰めて、最終コーナーヘと入っていく。

少し順位を上げたキズナだが、前にはライジングゴールドがいる。その前は馬群がかなり外へと広がっている。ライジングゴールドの外へ出してカーヴを廻ってくるキズナ。少し前にハッピーモーメントがやや外へ膨れ加減。その外へヒルノドンカルロがいる。その外へ出してくるのかと見ていた。しかし武豊Jはヒルノドンカルロの内、ハッピーモーメントの外を選択した。前はと見やる。
残り300のオレンジ棒の傍を、内ラチ沿いを白い馬体、ジャイアントリープがウインアルザスの横をスルリと潜り抜け、前に出るのが見えた。ウインアルザスの外を、ペプチドアマゾンがステッキを揮って前を追う。と、そこへキズナの勢いが前を呑み込むものだとハッキリと判るほどに加速して伸びてくる。ペプチドアマゾンの横を、もうステッキを納めた武豊Jが真っ直ぐに前だけを観る姿勢で、ゴールへと入っていくのが見えた。

パトロール・ビデオを見上げる。直線でのキズナを観る。武豊Jの左ステッキが入った途端に前との差をグーンと詰めた。最初の1発が入った時の伸びが凄い。計5発入った様だったが、後半はもう勢いがついた時で叱咤激励の意味だったはず。最後は流し気味で12.0。

検量室前で周回して表彰式を待っているキズナと田重田厩務員さんの傍へと行く。キズナはもう息が入って普通である。明らかに前回とは違う。完全燃焼したものであろう。
東軍の勢いを止めてやると、頼もしくも見えたものでありました…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。