プリークネスSは逃げたオックスボウが優勝[和田英司コラム]

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メリーランド州ボルティモアのピムリコ競馬場に場所を移して行われた米三冠の第2戦、第138回プリークネスSは小回りコースで行なわれる距離9.5ハロン戦、9頭立ての競馬は不良のケンタッキーダービーを鮮やかに捲り追い込み勝ちしたオーブが1.7倍の圧倒的1番人気に支持されたものの、ニ冠奪取は失敗に終わった。

雲が切れて晴れ上がった空の下、プリークネスSはスタートした。ゴールデンセンツが好スタートを切ったが、真ん中からゲイリー・スティーヴンス騎乗のオックスボウが先行態勢に入る。1番枠に入ったオーブは前に行くかと思いきや下げて内の6番手にポジションを取った。その前に、タイトルタウンファイヴ、イッツマイラッキーデー、デパーティングがいる。

リーズナブルなペースで前半の4ハロンは48秒60、ダービーとは全く逆のスローペースになった。従ってバックストレッチからオーブも動いて2番手の内まで上がる。そこへタイトルタウンファイヴも押し上げた為、挟まれて6番手まで下がった。外ではイッツマイラッキーデーも捲り上げ、オーブが下がると今度は外からマイルートが捲って行く。

直線オーブはそれでも空いたインを突いて5番手まで上がって来たが、動きが重い。対照的に逃げたオックスボウは余裕の走りでゴールに一直線で飛び込んだ。1馬身4分の3差2着に残り250ヤードで2番手に上がったイッツマイラッキーデー、半馬身差3着に外からマイルートが上がり、その後ろは6馬身4分の3差でオーブがやっと4着した。

単勝16.4倍のオックスボウは、驚異的ハイペースのダービーで先行馬壊滅の状況の中、1頭6着に粘った。スローペースならこれだけの走りは可能だったかも知れないが、逆にオーブの出来が悪過ぎたとも言えるだろう。今年は早くも三冠馬の夢が消えてしまったが、オーブはそれでも最終戦のベルモントSの準備に入っている。

勝ったオックスボウを管理するのは77才の殿堂入りトレーナーのルーカス調教師。これが1999年カリズマティック以来の優勝で6度目、タイ記録まであと1に迫り、三冠レースの優勝は14回目になった。鞍上の50才ゲイリー・スティーヴンス騎手は、今年の1月に7年振りにカムバックしたばかり、プリークネスSはシルヴァーチャームとポイントギヴンに続き3度目となった。

夜の部はシンガポールのクランジ競馬場でナイトレースとして行われた2つの国際G1競走。グローバルスプリントチャレンジの第4戦にあたるクリスフライヤー国際スプリントは左廻りの芝1200m戦、日本からダッシャーゴーゴーが出走したが、中団の外で追走したものの直線に向いてからは伸びを欠き10着と大敗した。

勝ったのは香港のラッキーナイン、前を追う2頭を追って内3番手から直線に向き、外に出して残り200mで抜け出すブレット・プレブル騎手の頭脳プレイが光った。前々からの組み立ては馬場を考えてのもの、内に入れたのは左廻り対策、直線外に出したおかげでエメラルドヒルの残り250mでの落馬事故を避けることも出来た。

勝ちタイムの1分08秒71は、2009年のセイクリッドキングダムのタイムを100分の97秒短縮するレコード、3馬身差2着に豪州ベルスプリンターが追い込み、アタマ差3着に地元のスーパーイージーが踏ん張った。プレブル騎手は、セイクリッドキングダム、グリーンバーディーに続いてこのレース3度目の優勝である。

2000mで行なわれる総賞金300万シンガポールドルのシンガポール航空国際カップは13頭立てで行なわれ、こちらも香港ミリタリーアタックが勝ち、3馬身4分の1差の2着も香港ダンエクセルが豪州マウィンゴのラチ沿いの強襲をアタマ差凌いで残り、シンガポールの国際G1は香港勢の完全制覇になった。

こちらもウェイショーン・マーウィング騎乗のダンエクセルとザック・パートン騎乗のミリタリーアタックが内枠から出て前々での組み立て、バックストレッチに入るとミアンドレが中団から先行態勢に入った為、ダンエクセルは内の3番手、ミリタリーアタックは内の6番手にポジションを取り、ミリタリーアタックが直線300m残して抜け出し、同時に2番手に上がったダンエクセルとのワンツーを決めた。

対照的にオリビエ・ペリエ騎乗の人気のパストリアスはダンエクセルの外で競ったが。4コーナーで手応えがなくなって失速、レッドカドーは後方から半ばで中団まで上がったがおっつけ通しが響いて伸びを欠き、ゴドルフィンのハンターズライトも中団追走で脚を使ったせいか伸び悩んだ。やはり外枠の馬はポジション取りに泣いた感じがする。

香港馬2頭を管理するジョン・ムーア調教師は、2011年イリアンで3着、2012年ザイダンで2着と順位を上げて今年のワンツーを達成した。勝ちタイムは1分59秒58、グロリアデキャンペーオ以来の2分を切った。ミリタリーアタックは3週前のQEⅡカップに続くG1連勝、目下重賞4連勝である。香港に移籍する前は英国で走っていたが、英国で走っていた馬の優勝はこれが初めてとなった。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。