夏のマイル王にムーンライトクラウド[和田栄司コラム]

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11日、フランス北西部ノルマンディーの避暑地ドーヴィル、その観光保養地にあるドーヴィル競馬場で行なわれたジャックルマロワ賞は、1998年に日本調教馬のタイキシャトルがスタンド沿いを逃げ切った思い出のレースです。今年は5歳牝馬のムーンライトクラウドがティエリ・ジャルネ騎手を鞍上に、中団から早めに抜け出しレースレコードで優勝しました。

6頭のG1馬を含む13頭立て。人気はマイル戦に的を絞った仏ダービー馬アンテロ、先週のモーリスドゲスト賞3連覇を含むG1・4勝馬ムーンライトクラウド、2000ギニーを含むG1・4勝馬ドーンアプローチ、吉田照哉氏が所有するG1・4勝馬イルーシヴケイトの順で10倍を切るオッズで続いた。ドーンアプローチはここでもペースメーカーのレティモアを使って来た。

レースはそのレティモアがスタンドサイドから先行する。スタンドサイドは5頭、センター寄りに8頭が馬群を形成、アンテロはスタンドサイドグループの3番手、ムーンライトクラウドはセンターグループの中団、ドーンアプローチはセンターグループの2番手、イルーシヴケイトはスタンドサイドグループの4番手、後方から2頭目がバリードイルのデクラレーションオブウォー、最後方がオリンピックグローリーの展開である。

ペースは速く、1000mの通過が58秒34、これを残り400mでドーンアプローチが交わしてイルーシヴケイトが続いた。しかし、それも束の間、今度は残り300mでドーンアプローチのファーサイド寄りから一気にムーンライトクラウドが抜け出す。ドーンアプローチとイルーシヴケイトの間からはアンテロも割って伸び、更にファーサイド寄りからオリンピックグローリーが追って来た。

抜け出したムーンライトクラウドは危なげなくボン表示(良)の馬場1分33秒39のタイムで優勝、これは2009年にゴルディコヴァがマークした当時10分の1表示の記録1分33秒5を更新するレースレコードとなった。因みにレースの後半600mは34秒95、400mが23秒47、200mは11秒90だった。

終わってみれば短頭差まで詰め寄っていたオリンピックグローリー、ドラッグ裁定から復帰したフランキー・デットーリ騎手の最初のG1騎乗であり、2歳時にG1ジャンリュックラガルデル賞を勝ち、1番人気に推されながら仏2000ギニーでは11着敗退、ここは91日振りのレースだった。1馬身4分の3差3着アンテロ、アタマ差4着にはデクラレーションオブウォーがスタンド沿いから追い込んだ。

ドーンアプローチは4着デクラレーションオブウォーから6馬身差の5着、99日間で5走しているだけに目に見えない疲れがあって当然である。イルーシヴケイトは速い時計がないだけに厳しかった。それにしても勝ったムーンライトクラウドはドーヴィルで4つ目のG1を勝ち、G1勝鞍は5勝、連闘での挑戦で通算成績は18戦11勝、2着1回となった。

優勝トレーナーのフレディー・ヘッド調教師は「この勝利で彼女もドーヴィルの伝説となったミエスクやゴルディコヴァの仲間入りを果たしたと思います」と語った。師は騎手時代にミエスクに乗り、調教師としてゴルディコヴァを育てた。この後は、ムーラン賞、QE2、そしてその後は当然ブリーダーズカップマイルが考えられる。

昨年8着に敗れたBCマイル、そのBCマイルを勝ち年度代表馬になったワイズダンの方も、今季G1メーカーズ46マイル、9ハロンのG1ウッドフォードリザーヴターフクラシック、G2ファイアークラッカーH、10日にサラトガ競馬場で行なわれたG2フォースターデイヴHを連覇して目下重賞8連勝中、G1勝鞍も6に伸ばして他を寄せ付けない強さを見せている。ワイズダンはキーンランド競馬場で行なわれるシャドウェルターフマイルを使ってサンタアニタ競馬場に向かう予定。早くも11月2日の本番が楽しみである。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。