サトノダイヤモンドが最後の1冠、菊花賞を制覇【平林雅芳の目】

サトノダイヤモンド

16年10/23(日)4回京都7日目11R 第77回菊花賞(G1)(芝3000m)

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54,820名の入場だったそうだが見上げるスタンドはそれこそ人、人、人で埋め尽くされていた。生演奏のファンファーレに併せて手拍子と、いつもの盛り上がりで菊花賞を迎えた京都競馬場。曇天の空にはヘリコプターが、ちとうるさいぐらい。3000mの長丁場の菊花賞なのであるが、ライブで観戦しているとあっという間の3分間だ。
これだけ長い距離を戦ってきているのに、ゴール前ではクビにハナ差の熾烈な戦い。だが勝者のサトノダイヤモンドだけは、涼しい顔でその先を悠々とゴールしていた。

今にも降るのではないかと、黒い雲まで出てきている淀の空。暑さも涼しさもちょうどいいぐらいに感じる。しかしスタンドの熱気はかなりで、今かいまかと待つうちに、ファンファーレが鳴る。3コーナー手前からのスタートでスタンドの歓声が届かないのだろう、静かにゲートインしていく。誰しもが自分の買った馬を中心に据え、レースを見る。サトノダイヤモンドなのかディーマジェスティなのか。

その2頭が前後の位置を形成していく。エアスピネルがちゃんと内に潜りこみ、それも好位置で目の前を通って行った。さすがな乗り方だと、今更ながらに感心する。しかし1コーナーから向こう正面まで、だいぶ掛かっている。その向こう正面では内をスルスルと上がっていくシュペルミエールの姿。ディーマジェスティがサトノダイヤモンドの外へ出して、3コーナーを下っていく。その後ろにレインボーラインがいたのは、後でPVで知った。坂の下りでディーマジェスティと蛯名Jが、サトノダイヤモンドを外から被せる様に、まるで閉じ込めるかの様に動く位置取りをしていく。

だがサトノダイヤモンドの勢いは、微塵も乱れない。内でエアスピネルがいい手応えで最後の仕掛けを待っている。
4コーナーへ直線へと馬群は入ってきた。内を突いて勢いのあるエアスピネル。外ではサトノダイヤモンドがディーマジェスティを振り切って、なお伸びの良さが目立つ。後にPVで見ると、ルメールJはラスト200m付近まで何もしない。200mを過ぎたあたりから、渾身のステッキを3発。そしてゴールを過ぎて左手を真横へスタンドへ《どうだ!》とばかりにかざしたのであった。
エアスピネルが2着かと思えた瞬間に、外からレインボーラインが際どく迫り、勢いで交わしたのが判った。ディーマジェスティもその後に来ていた。カフジプリンスもレッドエルディストも掲示板にも乗れず。ミッキーロケットと、あのインから上がろうといたシュペルミエールの2頭が、写真判定で5着を争った。

皐月賞は《速い馬が勝つ》と、ダービーは《もっとも運のいい馬が勝つ》と。そして3冠最後の菊花賞は《一番強い馬が勝つ》と先人の教えである。
語った言葉が多少は違うだろうが、意味合いはだいたい合っていると思う。名伯楽の武田文吾師だったか、もう遠い昔のことで記憶がさだかではない。でも昔の競馬人、先輩達の言う言葉は、ひとつひとつ含蓄があった。どの時代にでもあてはまる事実である。マカヒキがいない3冠目の菊花賞、マカヒキと死闘を繰り広げたサトノダイヤモンドがきっちりと勝ったと言えば簡単な結末であるが、そこに決着するまでにはいろんなドラマもあったのかと思う。何せ、大きな観点で見てもこの馬が勝って良かったと思える一人でもある。

ルメールJが珍しくガッツポーズをしていた。ゴールに入る瞬間に左手をスタンドの方へ突き出した。そしてその後、ゴールに入った少し後で、今度は右手のこぶしでガッツポーズと、今までにない派手なアクションだった。
検量室前で待っている家族の中で、夫人が涙を拭いていた。いつも陽気な人であろうに、珍しく感極まったのだろう。誰もが喜んでいた検量室前だった。
入口のいつもの席で待ちぶせをしている私。ルメールJが入ってきた時に思わず握手を求めた。彼も嫌だったかも知れないが、握手をして返してくれた。迷惑そうだったと、家でTVを見ていた家内に言われてしまった。でも思わず出たものだから許して欲しい。いちファンとしての行為であると…。

表彰式からポツポツと引き上げてくる関係者。吉田俊介氏にも思わず《良かったですね~》と声をかける。『本当ですね~、ありがとうございます…』と返してくれた。池江師にもすんなりと、《おめでとうございます》と言う。先ほどの敵は、もう祝福に値する勝者なんであるから…だ。
次のレースの馬を待つ間、武豊Jらとも話をする。『賭けだからね~。掛かってしまったのは仕方がない。枠が内ならジワっと行けたんだけど、出して行かねばならない枠だったしね…。本当、判らなかったかも知れないよ、内枠だったら…』と振り返ってくれた。でも皐月賞4着、ダービー4着。そしてもっとも距離が向かないと思えた菊花賞で、あれほど掛かっての競馬内容で、直線半ばではもしかしての伸びまであったエアスピネル。これで来年は中山金杯か京都記念から始動と、火曜朝に笹田師から聞いた。

すでに次なる戦いへの第一歩が始まっている競馬サークル。日曜の菊花賞は、もう過去のことなのである…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。