ミッキーアイル、逃げ切りで2年半ぶりのG1勝利! 【平林雅芳の目】

ミッキーアイル

16年11/20(日)5回京都6日目11R 第33回マイルCS(G1)(芝外1600m)

  • ミッキーアイル
  • (牡5、栗東・音無厩舎)
  • 父:ディープインパクト
  • 母:スターアイル
  • 母父:Rock of Gibraltar

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ミッキーアイルが、一人旅で実に3歳時のNHKマイルC以来のG1勝利を収めた。と書いたらスンナリと逃げ切った様な表現になるが、実に後味の悪い勝利となってしまった。 ゴールへ後すこしのところで右ステッキをふるう浜中J。ところがミッキーアイルがそれに反応して左へヨレる。最後の抵抗をしていたネオリアリズムを外へ押しやり、外から追ってきていたイスラボニータが壁となってしまい、後続の馬の進路をなくしてしまう。サトノアラジン、ダノンシャークと、その間にいたディサイファが一番ひどい被害で、もう少しで落馬まである様な現象となった。スンナリでも逃げ切っていただろうが、見ている多くのファンでさえも、すごいアクシデントだと判るゴール前。長い審議の末に『降着はありません!』の場内アナウンスだけが異様に響き渡っていた…。

ミッキーアイルが楽に行ける流れで、誰も絡まない、の見立ては誰でも思う事実。そして昨日からの渋い馬場コンディションで、凄い脚を使えない設定となっていた。それを見越してかRムーアJのネオリアリズムが2番手。最内のディサイファも出して行っていた。当然の読みであろう。驚いたのはシュタルケJのマジックタイム、何でこんな後ろにいたのか判らない。前のレースで審議になって意気消沈していたのだろうか。 浜中Jの造ったペースは前半3Fが34.4で46.1~57.5。1000mを57秒台はこの10年では速い方から3番目の流れだが、このレースとしては単騎逃げでマイペースであろう。

イスラボニータが4番手の外。RムーアJのネオリアリズムが、4コーナーで並びかけに行く。その後ろのサトノアラジン、ディサイファも当然にいい手応え。直線でどれだけ伸びるのかワクワクしながら観ていた。前の2頭が並んでの追い合い。すぐ後ろのグループもジワジワと前を詰めていく。 双眼鏡から肉眼に切り替えた瞬間に、そのアクシデントが起きた。2列目のサトノアラジン、ディサイファそしてダノンシャークの3頭が手綱を絞る。特に武豊Jは、左へと弾かれてディサイファが頭をあげたぐらいで、思わず《アッ!》と声が出た。過去に何度と嫌な思いをしてきた落馬事故を経験してきている。何とか最悪のケースは免れたけれども、勝負どころで手綱を引くのがどう言うことになるのかは、結果で判ろう。

検量室前は異様な空気になる。枠内に入れないで、後ろで鞍を脱して引きあげてきた武豊J。『勝っていた・・』と、憮然として検量室内へ入って行った。後で『3着は完全にあった。あそこからジワジワと伸びてくる馬だから・・』と。騎乗していて被害を受けなかったジョッキーからも『降着がない制度でスッキリしないよね』、『やり得くだよね・・』の声が聞こえる。PVを何度見ても、本当にあそこで引かねば躓いていただろうディサイファと武豊J。ネオリアリズムも、外へ押されて最後は追えていない様に見受けた。それでも場内放送の『それがなければ、被害馬が先着したとは思えない』が流れる。浜中Jの一切、笑顔なしのインタビューが終わり、ミッキーアイルに跨って馬場内での記念撮影へと去って行った。

パドックでじっくりと馬を観た。実はこんな馬場で前有利な流れになるのが必至で、後ろからでは届かない、の気持ちがどんどんと強くなり、絶対に先行馬だけの決着になると確信してきていた。関東から来た7頭(栗東在厩舎のロードクエストも関係なく括りで入れた)の中で、マジックタイムが一番有利と見ていた。それがパドックで見た第一印象では、実にガッカリ。牝馬なのに一番ソワソワしている。ドシっと落ち着いていてこそやれる舞台なのにである。 いい馬、雰囲気のいい馬を周回する度に〇をつけていった。ミッキーアイルもいい。ダノンシャーク、イスラボニータも悪くない。馬場へ入ってネオリアリズムに◎をつける。ロードクエスト、ヤングマンパワーの2頭は最後まで〇が並んだ。だが2頭とも後ろで競馬をしていたし、マジックタイムこそこんな位置でレースをする馬ではないと思っていただけに、今日のパドックの雰囲気ではダメだったのかも知れないと後で思う事であった。

火曜朝、坂路上監視小屋で音無師が『ごめんね~、迷惑をかけてしまってね~』と開口一番の言葉であった。その後にいろいろと話が訊けた。ミッキーアイルの初勝利は2013年11月2日にRムーアJで挙げたものだったが、その時に浜中Jのアドバイスをした様だが、音無師は『ムーアが浜中が言っていた方でなく、外へもヨレた。どちらでも行くと言っていた』と。検量室内の話なのか当時の話なのかは判らないが、そんな会話があったのは事実。

そして『香港から香港マイルCのへ招待が来たんだが、オーナーに確認したら行きませんとの事で、香港側にお断りをした』と最新ニュースも教えてくれた。また『ミッキーアイルは、阪神カップ(阪神7日目、1400芝・G2)へ使うことになった』と。『別定の57キロで出れるし、浜中Jもそこなら乗れるのがプランの最優先であろう』と、すでに次の戦いへが始まっている。

日曜の事は、もう過去の出来事なのである。新たな明日へ向けて、馬の業界は常に動いているのである…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。