『そして、みんなの愛馬になった』キタサンブラックが好発進! 【平林雅芳の目】

キタサンブラック

17年4/2(日)2回阪神4日目11R 第61回大阪杯(G1)(芝2000m)

  • キタサンブラック
  • (牡5、栗東・清水厩舎)
  • 父:ブラックタイド
  • 母:シュガーハート
  • 母父:サクラバクシンオー

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年度代表馬キタサンブラックの今年の初陣。それもG1昇格となった大阪杯と朝からファンが集う大声援の中で、61回大阪杯がスタートを切った。
マルターズアポジーが逃げに出てロードヴァンドールが2番手、キタサンブラックが3番手の流れで推移する。4角手前で、キタサンブラックがロードヴァンドールの外に並びかけていく。その後をステファノスが忍び寄っていく。マカヒキにサトノクラウンはその動きについていけていない。
ラスト300を前にステッキを入れ、マルターズアポジーを交わして先頭に立って行く武豊J。それに応えて伸びるキタサンブラック。それに喰らいついていくのはステファノスだけ、ヤマカツエースが追い上げて行くが3着まで。その後マカヒキ、アンビシャスと続いたが前とは差があった。
武豊Jは、ゴールに入る時に右ステッキで小さいアクションをしていた。嬉しい勝利でもあり、着差以上の勝利でもあった…。

朝から場内の混み具合が違っていた。そもそも8時半の開場なのであるが、私が競馬場に到着した9時少し前には、3階のいつもいる席はもう満杯。そして人が多い。その人が時間が経つほどに増えていっている。売店も列が長くなっている。パドックの廻りは、歩くのに大変なぐらいだ。春休みでもありお天気もいいので、家族連れが多い。
大阪杯のパドックを、もちろん馬が入る前から待って見つめる。サトノクラウンは体型なんだろうが太く映る。腹がボテっとしていて、これでマイナス12キロには驚く。ヤマカツエース、アンビシャスにマカヒキと、目の前を通る。マカヒキが一番細く映る馬体は前から承知しているが、何か小さく見える。ひいき目に観てもキタサンブラックが気合、馬体ともに一番である。後は問題は流れなんであろうの素人の思考力であった。

場内ではレース全体が見えない。だから開催委員長室前のカメラマンブースのところで立ち見である。双眼鏡で必死に眺める。それにしてもテラスは真っ黒の頭、頭、頭で埋めつくされた。
何やらサトノクラウウンがゲート内でうるさくて、立ちあがりかけた時にゲートだった様に見えた。キタサンブラックもいつもほどに早い出ではなかったが、すっと前に位置を取りに行く。中からロードヴァンドール、外からやっぱりマルターズアポジーが出て、一番前に収まる。驚いたのは、サクラアンプルールがキタサンブラックを外から被せる様に最初のカーブに入ったこと。《ノリちゃん、またかよ~》と思わず心の中で語る。同じ言葉が、レース後に武豊Jからも聞けた。並んで最初のカーブを過ぎ去った。

2コーナーを廻っていく馬群を観ていて、《エエッ!》と驚いたのがマカヒキ。掛かっている姿を観た気がした。後でPVで観ると、確かに廻ってすぐに外で頭を振る姿があった。どの馬も折り合っているのに、マカヒキだけが辛抱たまらんとばかりの気負いだった様だ。
アンビシャスも後ろにいる。福永Jだけに、中団ぐらいで我慢させているイメージで観ていたのだが、思っていた位置より後ろだ。前はマルターズアポジーが4馬身ぐらい離して逃げ、ロードヴァンドールが2番手、1馬身少しぐらい後ろにキタサンブラックで、その後ろにステファノスとサトノクラウンが並んで追走の形だ。
けっこう縦長の隊列で進む向こう正面だ。3角を過ぎてマルターズアポジーは軽快に逃げていくが、べらぼうに速いペースでないのは確かだ。内廻りを意識するあまり流れが速くなって、終い差す馬に有利な展開が多いのであるが、このレースは淡々と進んでいる。

3角を過ぎて4角が近づきラスト600のハロン棒にかかるあたりで、武豊Jが股の下から後ろを確認するのが見えた。このシーンはけっこう多い。そしてまた結果がいいのも記憶している。ロードヴァンドールがすでに追いだしているが、キタサンブラックがあっさりと交わす勢いだ。4番手のサクラアンプルールが下がっていき、ステファノスが前に出て前を追ってついていく。サトノクラウンも続く。

最後のカーブに入って前を行くマルターズアポジーとの差が一気になくなったキタサンブラック。直線に入ってマルターズアポジーが内で粘っているが、武豊Jは右ステッキを1発、誰よりも先に入れて仕掛けて出る。ステファノスが外へ出して前を追う。後ろにいたヤマカツエース、マカヒキ、そしてアンビシャスと前を追うが、前との差がけっこう出てしまった。キタサンブラックは少し内を開けて馬場の真中あたりを選んで走っている。その外へとステファノスだが、前を交わす勢いにはならない。むしろ後ろからのヤマカツエースの方が勢いはありそうだ。だがもうゴールまでの距離がなさ過ぎた。

前売りから、ゆるぎない1番人気の支持をキタサンブラックにとする大勢のファン。専門紙や新聞でも圧倒的支持をしていない感じなのに、競馬ファンは黙って支持をしてくれる。そしてその声に押されて、キタサンブラックがちゃんと応える。誰が凄いって、大勢の競馬ファンの目が一番肥えているのである。
JRAのポスターの『そして、みんなの愛馬になる』は素晴らしいコピーでもあり、言い得て妙なのである。競馬って本当に奥が深いな~、なんて思う瞬間でもあった。

枠場を周回しているキタサンブラックの傍にいて、気がついた事があった。これだけの仕事をしてきたのに、キタサンブラックの鼻息がまったく聞こえない。息を荒げてもいないのだ。まったくスラっとして歩いているのである。まるで何事もなかったかの様にだ。
馬を引いている辻田厩務員さんにそれを尋ねても、『いや~、本当ですね~』とブラックと同じ様にサラっとしていた。この強心臓、心肺能力が優れているのが凄いと思ったものであった。

火曜の朝一番、厩舎廻りでもう1頭の担当馬を引いている辻田さんを見かけた。どうやらキタサンブラックは後で乗るのだろうと思える。
坂路で馬上の押田助手達には感謝の声をかけた。監視小屋では友道師には逢えずじまいだったが、音無師が『ミッキーロケットは、ゲート内で潜りこもうとしていた。あれでは走る方に集中できないよね。やり直しだね』でありアンビシャスについては、『この後をどこへ向けるか、まだオーナーと話してもいない』とのこと。戦いを終えた馬の今後のローテーション等は、これからおいおい判ってくることでしょう。

そうそう、ライバルのサトノダイヤモンドが、あのG1ゼッケンを着けて火曜朝も軽快に坂路を登っておりました。その愛馬を遠くから見守っている池江師の後ろ姿も、監視小屋から見えておりましたぞ。『ライバルよ待っていろよ!』と、エールを送っておきました。
まずは、この嬉しい勝利での幸福感を少しだけ味わせていて欲しい。そんな火曜の朝でありました。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。