"ムチ"の世界は奥が深い!簡単ではないステッキワーク事情【永島まなみ騎手コラム】

まなみの学び

先週の福島競馬最終週は枠にも恵まれなかったまなみ騎手。今週から始まる新潟競馬で巻き返しを狙います。そんなまなみ騎手が今週教えてくれたのは、先週土曜に話題となった"ムチ"に関する話。厳しい制約に対するスタンスや苦労、ムチに関するエピソードなど、今週も盛りだくさんでお届けします。

新潟競馬スタート!切り換えて挑む春の越後路

——今週からは新潟開催がスタートしますが、開幕週は土曜4鞍、日曜4鞍の計8鞍となりました。いつものように実戦、追い切りで騎乗経験のある馬を中心に伺いますが、まずは土曜の2R・3歳未勝利のクインズモナカ、こちらは3月のデビュー戦に続き2度目の騎乗となります。

チャカチャカしている女の子なのですが、前回は後ろからになってしまっても最後はいい脚は使ってくれました。2戦目でもう少し馬群についていけたらなと思います。

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※PN.水無月さんご提供

——この日の5R・3歳未勝利ではデビュー戦となるリラゲイルに騎乗されます。中間追い切りに騎乗されています。

先週、先々週と乗せていただきましたが、まだ自分からというところはなく子どもっぽさは若干残っています。ただ追うごとに少しずつ動けてるようになってきていますね。

今週(田口)貫太が乗ってくれていたのですが、終いもだいぶ反応してくれるようになっていました。実際競馬に行くとたぶん促し促しになるとは思いますが、時計も少しずつ出るようにはなってくれていますし、上手く流れに乗っていければなと思います。

——ブリックスアンドモルタル産駒ですが、芝1400という条件はいかがでしょう。

距離はこれくらいかなぁと思います。芝でも、ダートでもやれそうです。

——いよいよ来週はスリールミニョンと挑むNHKマイルCです。現在ボーダーライン上ですが、ミニョンの状態はいかがでしょう。

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そうですね、補欠ではありますが、状態はいいと思います。今週の追い切りではちょっとハミを噛んでしまうところがあったので、レースに行って折り合ってくれたらなと思います!

——先週末の福島競馬は2度の5着が最高着順でした。そのうちの一つが日曜、福島10R・尾瀬特別で、8番人気のスマートプレシャスに騎乗し、果敢にハナを切って粘るという内容でした。

調教師の先生からも行けたら行ったほうがいいとアドバイスはいただいていました。ハミ掛がりが良く、自分のペースで行けましたね。3、4コーナーでは凄い風を受けるなど風が強い中でしたが、自分のペースで行けた分頑張ってくれました。

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※PN.水無月さんご提供

——砂煙がかなり舞っているあたり風も強かったようですが、風が強いとどのような影響があるのでしょうか。

そうですね、風が強い時は前に馬を置いてその後ろに入れれば風除けにもなるのですが、逃げていると思い切り風を受けることになります。

スマートプレシャス自体しっかりしている子なのでヨレたりはなかったのですが、トモが弱かったり力が足りない子だと風にあおられて、スーッと外に流されたりすることも時にはあるんです。

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※PN.きゃべつ太郎さんご提供

——先行馬も多いメンバーでした。2番手のサンドブラストにつつかれる展開でしたが、まなみ騎手の想定していたペースと比べて少し速かったのでしょうか。

風のことも考えるともう少しゆっくりでも良かったかなとは思います。ただそれでも最後の最後まで頑張ってくれました。

——直線では粘るも、少しずつ外に動いていって戒告という裁定がありましたね。

最後直線に向いてから物見しながら少しずつ外に行ってしまって…。私も真っすぐ走り切らせられないところがあり、反省点です。

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※PN.水無月さんご提供

——物見していたとおっしゃっていましたが、この場合何を見ているのかは大体分かるものなのでしょうか?

今回の場合は抜け出してからフワフワしてしまったんです。ずっと後ろに付かれた状態だったのですが、抜け出して1頭になったところで…。私も集中させきれないところがありました。

——その中で厳しいペースを粘って5着に入るあたり、力のある馬ですね。

そうですね、このように自分の形に持ち込めれば頑張ってくれると思います!

——この日の4R・3歳未勝利ではラッキーカムカムに騎乗され、外目の好位からレースを進めてしぶとく伸びての5着でした。

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※PN.きゃべつ太郎さんご提供

丹内さんから「かなりイレ込むところがあって、ウルさいところがある」というお話は事前に伺っていたんです。ただチャカチャカはしましたが、そこまでイレ込んではいなかったんです。

レース前に返し馬が終わってポケットにいるところで、丹内さんから「だいぶ前とは違うよ」と言ってくださるくらい落ち着いていました。最後のもうひと踏ん張りが欲しいところではありますが、いいスピードを持っている子です。

——前年夏の札幌以来の芝のレースでした。現状ダートより芝向きなのでしょうか。

そうですね、芝のほうがいいのかなと感じました。

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※PN.水無月さんご提供

——まなみ騎手の理想のポジションはもう1つ前、2番手の小沢大仁騎手騎乗のグリフォンのポジションだったのでしょうか?

理想を言えば逃げていたら違ったかなとは思いますが、外枠だったのもあったので…。

——小沢騎手といえばまなみ騎手と同期で仲良しとしても知られていますが、先週は5勝2着4回と大暴れでしたね。

そうでしたね、私も同期に負けないようもっと頑張らないとと思いましたし、励みになりました!

——先週末といえば土曜、福島メインの福島中央テレビ杯で騎乗していたモズトキキがゲートの中で座ってしまい、左後肢挫創を発症したため競走除外となるアクシデントがありましたね。

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※PN.きゃべつ太郎さんご提供

すごく申し訳ないことになってしまいました。元々ゲートの中でソワソワするところはあったんです。身体が大きい分窮屈なのか、ゲートの中がより怖いのかもしれませんが、しっかりレースに挑めず申し訳ないです。

——昨年の中京でも一度コンビを組まれています。その時もこのような素振りはあったのでしょうか。

その時もソワソワしていましたね。ソワソワしていて、前回乗っていた古川(奈穂)さんにも「レース前にゲートの中でちょっとソワソワするよ」と聞いていたんです。それもあって気を付けてはいたんですが、ゲートに入ってからすぐに後ろに行ってそのまま座ってしまいました…。

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※PN.水無月さんご提供

——このように座り込んでしまった場合、明確な対処法などはあるのでしょうか?

もうそうなる前にトモが座らないように駐立させるのがジョッキーの仕事なんです。駐立させられなかったことが申し訳ないです。

座ってから立ち上がる馬もいるのですが、キキちゃんの場合完全に座ってしまって…。元々おとなしい子ではあるので、ずっと静かに座ってしまいました。

——アクシデントといえば、先週末は香港で痛ましい事故がありました。亡くなったリバティアイランドはトレセンでもよく見かけていた存在だったのではないですか?

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そうですね、トレセンには角馬場が3つ並んでいるところがあるのですが、同じところではなかったものの、朝、馬場を出る際によく観ていました。この場を借りてご冥福をお祈りします。

——今週末も人馬共にアクシデントがないことを祈るばかりです。福島開催も終わりましたが、PN.ソトワクノカズオさんから「まなみん福島春開催お疲れさまでした。たくさんまなみんの勇姿を見れて良かったです。今年の福島春開催を終えての率直な感想をお聞かせ願えますでしょうか」というメッセージをいただきました。

たくさん乗せていただいたのですが、私がまったく上手く乗れなかったところもあり、もっと見つめ直さないといけないなと思いました。

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※PN.ソトワクノカズオさんご提供

——まなみ騎手にとっては2週間だけとあっという間の開催でしたが、次また毎週参戦するのは秋ですかね?

そうですね、次は秋の予定です。

——また福島のまなみんの方の前で勝利する姿を見せられることを願っております。

はい、頑張ります!

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新潟で勝利のサインが増えることを祈って
※PN.えりさんご提供

ムチの使い方は難しい!奥深いステッキワークの世界

——先週のコラムでは高橋康之厩舎の可愛らしい面々を紹介していただきました。サムハンターのニックネームは反響があり、「サム太郎というニックネームが可愛い」というご感想をいただいております。

サム太郎、担当の古谷さんがずっとそう呼んでいるんですよね。ちょうど今日サム太郎の甥っ子のマテンロウコマンドが兵庫チャンピオンシップを勝ちましたし、勢いに乗って東京の芝で頑張ってほしいです!

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下唇ユルユルサム太郎 ※まなみ騎手ご提供

——今後も高橋厩舎の面々の素顔を紹介していただければと思います。さて、今週はゴールデンウィーク特集を予定していたのですが、少し予定を変更し、先週土曜の青葉賞について伺おうと思います。青葉賞、ご覧になりましたか?

あ、見ました!

——PN.ピアノマンさんからのご質問です。「初めてメッセージ送らせていただきます。青葉賞で佐々木騎手が鞭の制裁で22万円の過怠金を取られました。佐々木騎手のファンなのですが、なぜここまでの過怠金を取られたのか分かりません。教えていただけると嬉しいです」というメッセージをいただいています。確かに、話題を呼んだニュースでした。

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話題となった佐々木大輔騎手

まず世界的にムチの基準が厳しくなって、それに沿ってJRAもムチの規則が厳しくなっているんです。動物愛護の観点であったり、馬の保護であったりを理由に厳しくなっているのですが、そもそもムチの制裁は戒告、1万円、3万円、5万円、7万円、10万円、騎乗停止1日とどんどん増えていくんです。

今回の大輔の場合、今年に入ってからムチで戒告~3万円までは取られていたんです。ムチの使用基準という規則の中に"鞍より前で逆手でムチを使用してはいけない"というものがあり、今回は大輔がレースで逆手で肩ムチを入れてしまったんです。

以前は1つのレースの間にムチの制裁が複数回あっても、まとめて1つの制裁としてカウントされていたのです。ただ最近は全てカウントされるようになったので5万円、その後完歩は開けたんですがまたやってしまって7万円になり、最後にもう一度やってしまって10万円とどんどん加算されてしまったんです…

大輔は次またムチの使用基準に違反したら、1日騎乗停止になります。今回は3回の違反なので合計22万になりました。

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※PN.水無月さんご提供

——"頭やその付近への使用は禁止"は一目で理由が分かるものですが、今回も制裁対象となっている"鞍より前方への使用"が禁止されている理由が知りたいところです。

動物愛護の観点からというのもありますね。逆手でもお尻には叩いていいですし、順手なら肩ムチも入れられます。手綱を離して肩ムチを打つのはそもそもダメですが。

"肩より上方に腕を上げて振り下ろすのもダメ"という規則もあるので、逆ムチで肩より前を叩いてはいけないというのはそれもあるかもしれません。

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※PN.水無月さんご提供

——まなみ騎手も普段このムチの使い方に関して、レース中も意識されているのでしょうか?

そうですね、どんどんルールは厳しくなっていますし、海外だともっと厳しいところもあるので。より意識しておかないと最悪の場合騎乗停止になったりもしますしね。

——つい無意識に叩いてしまうこともあるものなのでしょうか。

ありますあります。気を付けていてもやってしまうことはありますが、なるべく意識するようにしています!

——規則には"ひ腹に打ってはいけない"という文言もありますが、これは馬のどのあたりのことなのでしょうか。

腹帯の付近ですね。お腹は叩いちゃいけないんです。

——これも間違えてお腹を叩いてしまったりすることは…?

大体みんなお尻を叩くのでたぶんないと思います(笑)

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自厩舎のデルマケプラーと

——ステッキといえば2023年からルールの変更がありました。連続でのムチ使用が10回から5回までとより厳しくなった形ですが、ジョッキーの皆さんからすると、このようなルール変更の際はすぐに対応できるものなのか気になります。

長年10回でやっているのを5回にするということで、ルールが変わる1年くらい前にJRAの裁決の方から「発表してから1年ほどは裁決は取らないけれど、今後気を付けてください」という発表があったんです。ここからは裁決は取りますという説明があったんですよね。

慣れる期間ではないですけど、ジョッキーにも対応できる期間はありました。いきなり変わって制裁を取られるようになったわけではないんです。

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※PN.水無月さんご提供

——それこそ直線、ステッキを叩く回数なども数えているものなのでしょうか。

私はあまりムチを使わないタイプということもあると思いますが、あまり数えてはいないです(笑)。多く使う方は意識されていると思いますね。

——大接戦になっている際などについ無意識に叩き過ぎてしまったりということも…?

ありますね。私もつい6回叩いてしまって、戒告を取られたことがあります…。あの時は気づかなかったです。

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※PN.水無月さんご提供

——ステッキを打たないほうがいい馬というのはたまに聞きます。逆にステッキを打ったほうがいい馬もいるのでしょうか。

いますね。競馬だと2完歩開けないといけないですし、それ以上叩くと制裁になるので追うしかなくなります。ただムチ自体、複扶助でもあるので、ムチを使えば必ずしも動くわけではないと言われているんです。そこが難しいところです。

——レースが終わった後、戻ってくる際や検量室でジョッキー同士が「随分叩いていたね」などお互いのステッキの回数や叩き方の話になったりはするものなのでしょうか?

それはないんですが、やはりレースなんでタイトな馬群で回っていると、ムチを振り下ろしたら他の騎手に当たったり、後ろにいた馬の顔に当たったりすることがあるんです。

そういう場合は当ててしまったらその方のところにすぐに謝りに行きますし、他の方のムチが私に当たったらその時は「ごめんね」と言われます。

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——めちゃくちゃ痛そうな気がします。

めちゃくちゃ痛いです…。一回、瑠星さんが振り下ろしたムチが当たってしまったことがあるんです。私の腕に当たって。

その後たまたま瑠星さんとしゃべっていた時に笑いながら「あの時当たりました(笑)」と言ったら「あ、ごめん」と謝られました(笑)。みんな全力で追っていますし、分からないところはあります。

——このようにムチでの制裁がある場合、検量室ではパトロールビデオを見せられながら指摘されるのですか?

そうなんです、レース後裁決室に呼ばれて、映像を見せられながら「見ての通り6回叩いてます」と指摘されるんです。

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※PN.水無月さんご提供

——"2完歩あけることなく、ムチを連続して6回以上使用すること"は認められていません。「2完歩以上あけました」と抗議することは可能なのでしょうか。

映像であからさまに映っているので、完全に2完歩開けていなかったら私たちは何も言えないです(笑)

——よく「馬はムチで叩かれて可哀そう」というご意見が出ますが、ジョッキー視点からすると実際どうなのか聞いてみたいです。

もちろん動物愛護の観点はありますし、必要以上に打つことはないですが、最後の激励と言いますかもうちょっと頑張ってという意味を込めて打っています。

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友情出演 おねむなシュテルンロット ※まなみ騎手ご提供

馬たちは全力で走ってくれているので、正直どこまで痛いかは分からないのですが、叩く強さもミミズ腫れになるほど強く叩くジョッキーもいません。最後は馬も全力で走っていてしんどくなるところを、複扶助で"もう少し頑張って…!"とお願いするような感じで使っていますね。

——よく「フォームが綺麗」「追える」など騎乗フォームは話題になります。まなみ騎手から見て、"ステッキの使い方が上手いジョッキー"を挙げるとすると、どなたの名前が挙がるものでしょうか。

名前を挙げるのは難しいところがありますね。どのジョッキーの方も皆さん、パッパパッパと持ち替えて上手いんです。ただ新人さんと長年ジョッキーを続けてきた方で比べると全然違います。

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——まなみ騎手が現在ステッキワークに関して課題としているところがあれば伺いたいです。

鞭を打った中で追っているんですが、その中で手綱が緩んでしまうところがあるんです。しっかり馬とコンタクトを取りながら追わないといけないので、ムチを追いながら打つところがおろそかになっているところはあります。しっかり手綱を詰めて、馬とコンタクトを取りながら乗れるよう、より意識したいと思います!

——普段あまり話題とならないことを説明していただきありがとうございました!来週もよろしくお願いいたします。

よろしくお願いします!

※皆様、お写真のご協力いつもありがとうございます!

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G1出走を狙うスリールミニョンと

いつも永島まなみ騎手コラム"まなみの学び"をご覧いただきありがとうございます!コラム開始1年半、ここまでまなみ騎手に色々な質問に答えていただきました。

"ファンの皆様と共に歩む"コラムとして、これからもファンの皆様の質問を幅広く頂戴し、ご本人に聞いていこうと思っております。

競馬に関すること、そして日常生活について、永島まなみ騎手にこれだけは聞いてみたい!ということをぜひご応募ください。頂いたご質問、メッセージは上記のようにご本人に届けさせていただきます。

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