関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

音無秀孝調教師

5戦連続の単勝1倍台、5連勝でNHKマイルCを制したミッキーアイル。初めてだった府中のマイル適性には賛否両論あったが、陣営が安田記念参戦の決断を早期に下したあたり、古馬相手でも勝算アリということなのだろう。その真意を確かめるべく、今回も音無秀孝調教師に独占取材を敢行。30分を超えるロングインタビューで、持論と古馬撃破に向けての展望を熱く語っていただけた。

NHKマイルCの勝ち方をどう見る?

-:安田記念に出走するミッキーアイル(牡3、栗東・音無厩舎)について伺っていきます。まずは5連勝でのNHKマイルC制覇、おめでとうございます。想像していたよりも、外から差してくる馬がいて、先生もヒヤヒヤのゴール前だったと思いますが、その時の感想を聞かせて下さい。

音無秀孝調教師:ありがとうございます。ジョッキーも言っていましたけど、直線は長かったですね。これまでのレースでは、最後の残り1ハロンで「勝ったな」という印象を受けていましたが、今回に限って言えば、そんなことは全くなかったです。ゴール板を過ぎるまで全く分かりませんでした。その理由は色々ありますけど、一番に挙げられるのは“トップスタートを切れなかった”ということですね。

何故そうなったのかと言われれば、2ヶ月半の休み明けでしょう。返し馬に行ったと同時にスイッチが入るから、テンションを上げてしまって、さらにゲート内でも少しうるさかったようなので、落ち着きがなかったんだろうなと。「トップスタートを切れていなくてもハナに行けたのだから、別にいいじゃないか」と言うかもしれませんが、そこでのアドバンテージがこの馬にとっては大事なんです。リズムが違ってくるので。一応ハナには行きましたけど、自分のリズムで運んでいる時には後ろを2、3馬身は置いていっていますからね。特にこの前の2戦、アーリントンCとシンザン記念は尚更そうでした。


-:これまでのレースと違ったのは、もちろんG1ということもありますし、ホウライアキコの徹底的なマークを受けていましたよね。個人的な感想としては、今までのレースの中で一番強かった内容だと思うんです。

音:見方を変えれば、そうかもしれませんね。



-:2、3着馬は追い込みでしたし、時計はある程度速かったとはいえ、馬場状態は若干スタミナのいるような馬場でしたから、着差はともかく追い込み馬の追撃を封じ込めたという点で、今までの内容よりは数段、力を出し切った走りだったのではないでしょうか。仕上げも上手く行って、能力を最大限に出せたレースだったと思うんです。

音:2ヶ月半ぶりの実戦でも、僕はひいらぎ賞と同じ馬体重にしたかったんです。ピッタリ一緒だった(478キロ)から、それは上手くいったんですよ。それでも、余裕がありすぎたかもしれません。当日の9Rに、同じ距離で1600万下のレースがありましたよね。マイルC後に言われているように、そのレースよりも時計がちょっと遅いんです。当日だから馬場状態もそれほど変わらないわけですが、そのレースは1分32秒台の決着(1分32秒8)だったんですよね。けれども、テンに引っ張る馬がいて、先行馬が総崩れ。後ろから来た馬だけで決着しました。

ですから、“そんな速い時計にしてはマズイな”という思いがレース前にはありました。理想的には(1分)33秒台で決まればいいなと思っていたら、案の定そうなったんですよ(1分33秒2)。その中で1枠の2頭は中団より後ろから差してきて、もうちょっとで届きそうな展開だったので、必ずしも行った馬が有利ではなかったと思います。


-:確かに、あの週の馬場は傾向としては、どちらかと言えば差し有利でした。その中で、道中を見ていた時に若干行き過ぎているかな、というきらいはありました。以前の取材で、「最初に脚を使わされたら、ゴール前の脚が持つかな」と心配されていたと思いますけど、まさにその流れになったのにもかかわらず、あの長い直線を押し切れたということに、鳥肌が立ったレースでした。

音:ですから、あのクビ差をどう捉えるかですね。

中3週の安田記念出走を決めた理由

-:前回の取材の中で「中3週」というお話が出ました。ひいらぎ賞からシンザン記念の中3週を、先生はすごく気にされていましたよね。ウインフルブルームに半馬身まで追い上げられたという話をされていたので、まさかNHKマイルから安田記念という、中3週のローテーションで、古馬との対戦を組まれるとは意外でした。

音:その部分で言うと、シンザン記念からアーリントンCと続けて出て、放牧を挟んだとはいえ、さらに体重が減って470キロになったんですよ。それでも、いま思えば意外と強かったですよね。あの馬はガレたように見えて、それでもちゃんと走るんだな、ということがその時にわかりました。だからこそ、今度はひいらぎ賞のような体重で出したいなという発想が生まれたんですね。レースはやっとこさ勝っているし、これ以上仕上げられないなというくらいに。アーリントンCから放牧含めて2ヶ月半使っていないでしょ。そこで間隔がとれているので、次はひと叩きの効果があるんじゃないかなと思っています。

ひいらぎ賞と同じ馬体重であっても、中身に少し余裕があったから、ヒヤヒヤしたレースになったのかなと。トップスタートを切れなかった理由も休み明けの分だとしたら、今度はもう少し落ち着いてくれるだろうし、ゲートの中もうるさくないだろうから、今度はトップスタートを切ってくれるんじゃないかと。さらに、今回は古馬より4キロ軽いです。トップスタートを切ること自体がすごいアドバンテージだと思うんですよ。それに加えて4キロ差があるわけで、またイーブンペースで走ってくれたら、もっと強い競馬をしてくれるんじゃないかと思うんですよ。


-:先生が気にされていた「中3週」を改めて振り返ると、ひいらぎ賞からシンザン記念の間には、正月休みがありましたよね。変則開催と平常時では、同じ「中3週」でも違う意味合いがあるのかなと思います。今回はあの時ほど厳しくなく、リズムよく調教が消化できるのがプラスですよね。

音:さらに言うなら、アーリントンCが何故470キロになったのかと言うと、放牧期間も1ヶ月未満と短かったし、480キロで帰ってきて、そこから2本追い切って仕上げたから、ということもありますが、もうひとつは、シンザン記念の前週の追い切りは失敗したんですね。やりすぎてしまいました。かといって、当該週もやらないわけにはいかないから、そうしたら馬体重が減って、それが影響したのかアーリントンCでもさらに減らしてしまいました。個人的には、調整失敗にもめげずによく勝ってくれたなと思うんです。いま考えるとね。今回は思ったとおりに調教ができています。今日(5/28)は坂路で54~55秒で、という時計を単走でやっているし、来週にジョッキーが乗ってサッとやれば、ちょうど良くなると思っています。


「前回の東京輸送はほとんど減っていないんですよ。ひいらぎ賞の時も減っていないんです。前の日に量った時と、輸送自体では減らないんです。だから476キロで輸送を積んだとしても、そのままになっている可能性が高いです」


-:そう考えると、東京への2回目の輸送ということもありますし、先生こだわりの馬体重は472キロくらいが理想ですか?

音:474キロくらいだね。470キロになってもちゃんと走ってくる馬なので、反対に重たいのはダメかなというのはあります。昨日体重を量って、482キロなんですよ。今日追い切りをやったので、ひょっとしたら480を切っているかもしれないけど、まあ480キロくらいだと思うんですよね。これでまた来週追い切ったら、ちょうど478キロくらいになって、輸送して476~4キロという風に見ています。前回の東京輸送はほとんど減っていないんですよ。ひいらぎ賞の時も減っていないんです。前の日に量った時と、輸送自体では減らないんです。だから476キロで輸送を積んだとしても、そのままになっている可能性が高いです。

-:ただ、体重だけの話ではなくて、一回使った後の締まりとか、シルエットの変化は絶対に出てきますよね。

音:出ますね。立ち写真と今の馬体を比べてほしいのですが、前回は明らかに腹が上がっているんですよね。アーリントンCやシンザン記念もそうです。

-:どちらかと言うと、ディープ産駒の中でもボディの筋肉量はある程度あって、ムチムチしたところがあるから、それをいい感じで締め込んでやるとよりシャープになりそうですね。

音:そうですね。血統背景もいろいろ考えてみたんだけど、こんなにボリュームのあるディープはいないですね。デカいのはいますよ。ただ、コンパクトにボリュームがあるのはこの馬しかいないですよね。このくらいの大きさだと、どちらかと言うと薄い馬が多いです。



-:では、ある程度ボリュームもあって、コンパクトさもあって、軽さもスピードももちろんあるということですね。

音:この馬が薄かったら、当然ダービーを目指しています。薄くないからこうなったんでね。

-:こうなると、ちょっと守備範囲が足りないと言いますか。

音:ただね、この馬を見ていると、道中は遊ぶじゃないですか。だから、それを逆手にとって距離を持たすという考え方もあるんですよね。例えば2000mを使ったとして、追いかけてくる馬はいないでしょう。トップスタートを切ってポーンって出ているわけだから。それでフワフワフワフワ走っていったらどうかな、っていう考え方もあるんですけどね。

-:それは、秋に向けてのお楽しみですね。

音:多分、1800mか2000mになると思うんでね。毎日王冠か天皇賞(秋)ですね。G1を勝っちゃったから、もうG3は使えないですから。

-:前回の取材時よりも、ポンポンと言葉が出てきますね。

音:休み明けはやっぱり辛かったですよ。レースも辛いレースになったからね。今回は古馬が相手だし、どう考えたって1番人気はジャスタウェイで、人気もあんまりないから、気楽にいきたいなと思っています。

-:でもジャスタウェイにとっては怖い相手なんじゃないですか?斤量や展開の利がありますよ。

音:どうなんでしょうね。その辺は馬が喋れんから、尚介(須貝調教師)に聞いてみるといいかもしれないですね(笑)。

ミッキーアイルの音無秀孝調教師インタビュー(後半)
「今回もトップスタートが前提」はコチラ⇒

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【音無 秀孝】Hidetaka Otonashi

1954年宮崎県出身。
1994年に調教師免許を取得。
1995年に厩舎開業。
初出走:
95年6月24日 3回中京3日目12R キーペガサス
初勝利:
95年7月23日 2回小倉4日目11R イナズマタカオー


■最近の主な重賞勝利
・14年 NHKマイルC/アーリントンC/シンザン記念(共にミッキーアイル号)
・13年 ジャパンダートダービー(クリソライト号)


1979年に騎手デビュー。1985年のオークスをノアノハコブネで制したが、通算は1212戦85勝と決して振るわなかった。脚光を浴びるようになったのは厩舎を開業させてから。開業年にイナズマタカオーで重賞を2勝。 以降も坂路を主体とした調教方法で実績を積み重ねると、オレハマッテルゼ、ヴィクトリー、オウケンブルースリ、カンパニーらのG1馬を輩出。常にリーディング上位に名を刻む栗東のトップステーブルとして、地位を固めている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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