圧巻の前走!満を持しての重賞初参戦エイシンヒカリ
2014/12/7(日)
-:坂口先生は競馬ラボ初登場になります。まず、チャレンジC(G3)に出走するエイシンヒカリ(牡3、栗東・坂口則厩舎)を、先生が最初にご覧になったのはいつの頃なんですか?
坂口正則調教師:先代の(馬主)栄進の会長が「見に行ってこいや」と言ったのが、まだ生まれて4~5カ月ぐらいかな。「まだ小さいらしいから」と。でも、そんなに小さくなかったんやわ。
-:最初の印象はどんな感じだったんですか?
坂:やっぱり良い馬だったよ。小さくもなかったと思うけどね。ただ、周りの人が見て「小さい、小さい」と言っているだけで。
-:ディープインパクト産駒だから、ある程度の小ささは覚悟していたと。
坂:それは思っていたから、それが逆に大きくなったんやで。
-:それで、2歳のデビュー前を迎える訳ですが、その頃には印象はだいぶ変わっていましたか?
坂:だいぶ大きくなって成長期に入っていたから、この馬は弱くてデビューが遅れたんや。やっぱり成長していたから、無理はできなかったんやね。今でも、まだちょっと本格化してないけどね。
-:どちらかと言うと、成長自体は遅いと。そういう馬というのは、大概トモが緩かったりしますよね。
坂:まだ、馬が完成していないし。遅いね。全体的にまだ緩いのよ。
-:これまで5戦5勝で完璧な結果ですが、この間のレースというのは、初めての輸送競馬も幾らか不安に感じました。
坂:左回りは初めてだったけど、そんなに行く馬でもないんやけどね。むちゃくちゃバカつくとかもないし、ただ自然と行っただけで。
-:でも、自然と行った割には、見た目にはファンには相当な……。
坂:外ラチまで行ったからな、ハハハ(笑)。
-:途中までもけっこう離していたじゃないですか?
坂:サイレンススズカみたいに、あんなに逃げて残るのだったら良いとはいえ、あれはちょっと行き過ぎたな。
-:上がってきて、横山ジョッキーは何か言っていましたか?
坂:そんなにどうしようもないわというような感じじゃなかったからね。自然と行っただけで。コメントは冗談やろうけど「馬場の良いとこを走ってきました」というような感じです、フフフ(笑)。あれが頭数でも多かったら、ああいう競馬も……。まあ、外にいたらできるんやろうけど、内にいたらそんなことはできへんし。
-:もう1回左回りを走っても、ああいうことになる可能性は?
坂:ならん、ならん。ならへん。そんな行く馬じゃないもん。
-:今度は再び右回りの阪神競馬場に戻ります。
坂:右回りでも、いくらか右にモタれるところはあるけど、どうしようもないというモタれ方じゃないから。全然問題ないです。
-:あとは能力的にどこまで?
坂:そうやね。今までは段階を踏んでいるところで、そんなに大きなところにぶつけてきてないし、重賞相手でこれからやな。
-:元々、500万を勝った時も、京都新聞杯やトライアルを使う予定はなかったわけですか?
坂:使う気はなかったもん。段階を踏んでいった方が良いかと思ってね。
-:ジックリここまで相手関係とか、レースの間隔を見て使ってきた。先生の腹の中では、ようやくここらで強敵相手とぶつけてみようかなと?
坂:これからやわ。今度使ったら、大体そういう力が分かるんちゃうの。通用するかどうか。まあ、オープン相手やったらペースも速くなるし、あの馬には却って良いんとちゃうかなと思うんやね。
12/3(水)、CWコースで西谷誠騎手が騎乗。
一杯に追われて6F78.9-63.9-50.5-38.0-12.4秒をマークしている。
-:新馬戦では別にハナに行っている訳ではないので、もちろんハナ以外の経験もある訳ですね。
坂:控えて行っても、ちょっと掛かり気味だったけど……。
-:オープン馬相手に、ある程度流れるペースで道中2~3番手という可能性はありますか?
坂:あるね。その方が、あの馬には良いと思うわ。
-:何が何でも逃げていないと落ち着かないという場合は?
坂:いや、折り合いが付けば、行かん方が良いと思う。まあ、オープンだし、結構ペースが速くなるから、折り合いは付くと思うけどね。前みたいに、そんなに行かんでも。
-:全体的に緩さがある状況というのは、阪神競馬場とか東京競馬場のような絶対的な能力が求められるところで、しかも最後に坂があるコースというのは不向きじゃないですか?
坂:いや、却って緩いくらいの方が、逆に馬はシッカリしてくるよ。最初からガチッとした馬は、あんまり良くなる余地がないもん。それは問題ないよ。
-:3戦目の三木特別など、そんな遅れた状況でも勝っているじゃないですか。そういう結果はこの馬の伸びしろを現している気がするのですが。
坂:まだ、可能性があると思うし、この馬は古馬になってから良くなってくると思う。まだ、体を見たら牝馬みたいでしょ。薄いし、筋肉も付いていないし、馬を見たらどこで走るんやろか、という感じなんやな。
「ゲートだけはセンスやしね。良いのはずっと良いし、出遅れることはないもん」
-:蹄もディープ産駒らしくすごく薄いですか?
坂:やっぱり血統の良い馬は蹄が薄いからね。蹄形でも薄いし、ちょっと何かするとやっぱり蹄を痛めるんやわ。
-:蹄の薄さというのは、色々悩ましい面でもある訳ですが、この馬は雨が降った馬場というのは滑りそうですか?
坂:でも、この馬は丸っきり(道悪が)下手ではないと思うで。
-:1週前追い切りは明日(12/4)される訳なんですが、普段の調教やレースで乗り難しそうなタイプというのは、どういう風に調教されているのですか?
坂:そういう難しいところはないもん。ただ、競馬で掛かる程度で。掛かるというのか、スタートが良いから行ってしまうんやわ。出遅れ気味に出るんやったら、違う競馬もできると思う。何しろ出っぱが良いから行ってしまうんや、この馬。
-:その辺は持って生まれたセンスですからね。
坂:ゲートだけはセンスやしね。良いのはずっと良いし、出遅れることはないもん。
-:この馬にとってベストの距離はありますか?
坂:今のところは、1800~2000までとちゃう。折り合いが付くようになれば、距離も対応できるやろうけど、今のところああいう競馬だったら、長いところは持たんわ。
-:このまま順調に使って宝塚記念とかを目指す考えですか?
坂:それは、これからの成績次第やろうけど、今度見たら大体分かるんとちゃう。でも、これから伸びしろがあるよ。良くなってくると思うよ。まだ、全然筋肉がないもん。
-:ディープインパクト産駒は、見た目の良さというより、軽さが良いタイプではないでしょうか?
坂:あれは、やっぱり血統で走っているんだわ。キズナなんかが同じ配合やろ?
-:ちなみに坂口正則厩舎と言ったら、結構短距離色が強いイメージがあります。
坂:何でやろな、長い距離を持つ馬がいない(笑)。
-:それは、先生がご自身で好きな?
坂:いや、そんなことはない。偶然そうなっているだけで。まず長距離馬というのは、今までにいないわ。短い距離で前に行く馬。だから、そういう馬は長続きはせんわな。
-:この馬は、久しぶりの中距離馬と?
坂:うん、距離も持ってくれればね。要は折り合いや。折り合いが付くんであれば、距離も保つんやろうけど。
-:でも、折り合いが付いているとは言い難かったアイルランドTがあの結果ですから。
坂:あれは折り合いというよりも、行き過ぎやわ。1000m58秒ぐらいで行ってたやろ。
-:でも、あの競馬をさせたら、後ろの馬はしんどいですね。追い掛けて行ったら、自分が止まりますしね。
坂:だから、あの馬にはああいう競馬もあうのかも分からへんし。
-:もっと体力が付いてきたら、終いまで真っ直ぐ伸びれるようになるかもしれないですね。まずはチャレンジCを楽しみにしています。
坂:そうですね。どういう競馬をするかが楽しみ。
-:この後の成長は楽しみですね。
坂:この馬は、何しろエンジンが良いんやわ。おそらく心肺が。他はどこも不安なところはないし、まだ体がちょっと緩いというくらいで。
-:それも伸びしろのひとつということで。ありがとうございました。
坂:はい、どうも。こちらこそ、ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦、競馬ラボ特派員)
プロフィール
【坂口 正則】Masanori Sakaguchi
昭和23年9月2日生まれ。引退し、現在は競馬解説者の坂口正大元調教師とはいとこの関係。1967年に伯父の坂口正二厩舎で騎手見習いとなり、1974年に騎手となる。1981年騎手免許を更新せず調教助手に、1983年に調教師免許を取得し、調教師に転身した。思い出に残っている馬は、湯浅三郎元調教師が目を付け、縁あって入ってきたという外国産馬のエイシンバーリン。「スピードの絶対値で何しろハナに行くしかなかった。無理してでも行って、バテても行くという感じの馬だった」。
同じくスピード馬のエーシンダックマンもお気に入りで「重賞は勝てなかったけど、大きいレースでも2着があるしね。あの馬もハナに行くしかなかったなぁ。逃げ馬に縁がある」。定年まで4年というところで、待望の中距離馬であるエイシンヒカリが出現。じっくりと成長を促しつつ使っており、古馬になっての大成を確信している。
1948年宮崎県出身。
1983年に調教師免許を取得。
1985年に厩舎を開業。
初出走:
1985年7月13日 2回小倉3日目9R コスモフィールド
初勝利:
1985年7月28日 2回小倉6日目11R コスモフィールド
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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