不屈のヴィルシーナ 宿敵との最後の一戦はGPの舞台に
2014/12/21(日)
敗因が明確なエリザベス女王杯
-:有馬記念(G1)でラストランになるヴィルシーナ(牝5、栗東・友道厩舎)ですが、前走のエリザベス女王杯は5ヶ月休養明けのレースで、中間の雰囲気はもうひとつかなという印象がありましたが、ご覧になっていていかがでしたか?
安田晋司調教助手:確かにそのとおりですね。府中牝馬Sを回避したのは腰に疲れが出たからでして、帰って来てからも悪かった時よりかは良かったのですが、ちょっと不安はあるなという感じでした。攻めきれず、加減しながらの調整になってしまいました。それでも競馬までは行けましたし、実際に行ってみて、内田さん(内田博騎手)は「思ったより悪くなかった。むしろ良かった」と言ってくれました。馬も無事に帰って来ましたし、次に繋がるレースにはなったと思います。
-:競走馬としては腰に疲れが出たというのは、けっこう長引くパターンでもありますが、筋肉の奥深くに疲れが溜まっていたりして、箇所が特定できない、難しいパターンもあると思います。ヴィルシーナの場合はどうでしたか?
安:腰に仙椎という骨があるのですが、その部分が少しズレていました。それは厩でやったものだと思うのですが、ダクに行っても良かったですし、ハッキングに行っても悪くはありませんでした。それで坂路に行ったら、やっぱりどこかおかしくて。それからは治療の日々になってしまいました。
-:腰に疲れのある馬にとって、坂路は過酷だったと思います。
安:女王杯の前は坂路に1回も入れていません。やっぱり競走馬、アスリートにとっては腰を痛めると、治療の方を優先しなければならないのでね。
-:しかも、痛みなどの肉体的なものにプラスして、精神的にもしんどいですよね。
安:女王杯の前は急仕上げ気味にやったのですが、いつもと調教パターンが違いましたし、馬も精神的に堪えたみたいで、軽い胃潰瘍みたいになってしまって。精神的にイライラしていたと思います。
-:普段は大人しい馬なのに運動場で暴れたりとか、精神的なイラつきがそういった仕草に出ていたのでしょうか?
安:精神的には落ち着いていなかったのですが、身体的なところで暴れるに暴れられなくて。おそらく馬も気にするところがあったのではないでしょうか。そういう意味では馬も加減して暴れていたのかなと思います。
-:レースを使い、無事に走った後の内田博騎手の感触も思っていたより良かったと。使った上積みというのはあったのでしょうか?
安:使った効果は大きいと思います。
-:どんな調教をするより、1度レースを使う方が負荷が掛かりますよね。
安:ウッドチップとかで(調教を)やると、負担も大きくなるのでしょうが、獣医の方は「レースに行ったほうが楽そうだね」と言ってくれました。意外とレースの方が楽なのかもしれません。
-:それだけヴィルシーナにとっては調教というのは、肉体的にも精神的にも苦しいメニューなのですね。
安:そうなんだと思います。
宝塚記念3着という実績を信じて
-:今回の有馬記念ですが、宿敵のジェンティルドンナも出てきます。
安:今まではだいぶやられてきましたが(笑)、宝塚記念では先着することができたので、良かったなと思います。あとは最後なので、実績的には向こうの方が上ですが、もうひとつ成長したヴィルシーナが戦ってみて、なんとか一矢報いたいな、とは思っています。
-:馬場で見ると今の中山はややソフト目に作ってありますので、ジェンティルドンナにとってもベストの馬場ではないと思います。ヴィルシーナの方が馬場適性の幅は広いのではないでしょうか?
安:中山自体は走ったことがないので、馬場も走ってみないと分からないところがありますね。
-:ただ、宝塚記念と有馬記念は同じ馬が好走することが多々あります。
安:コース形態は似ていると思います。
-:時期的にも馬場がそんなに良くないところも似ていますよね。
安:宝塚記念みたいな馬場で3着まで粘れるのなら、今回もヴィルシーナの持ち味を活かした粘り強い走りができれば好結果に繋がるのかなと思います。
「ペースとしては掛かるような馬ではないですし、内田さんもヴィルシーナのことは良く分かっていますので、スローで折り合ってくれれば、最後まで粘ってくれるのではないかと思いますけどね」
-:しかも宝塚記念で勝ったのは凱旋門賞帰りのゴールドシップで、2着のカレンミロティックは香港に行きました。展開次第では面白い1頭になるのではないでしょうか?
安:展開次第ですよね。ペースとしては掛かるような馬ではないですし、内田さんもヴィルシーナのことは良く分かっていますので、極端なハイペースになることはないと思います。スローで折り合ってくれれば、最後まで粘ってくれるのではないかと思いますけどね。
-:4コーナーを先頭で回ってきて、アッと言わせることも十分あり得ると。
安:そうですね。2500mをロスなく走れればベストかなと思います。
-:そのためには前回の調教からプラスアルファをしなければならないと思います。帰厩して間がありませんが、前走の時から良くなっているところを教えていただけないでしょうか?
安:腰の状態も今は不安ないですし、馬にやる気があって活気に満ちています。
-:落ち着きはいかがですか?
安:落ち着きもありますよ。走る方にしても良い頃の状態になっていますし、全てにおいて良い頃のヴィルシーナに戻ってきていると思います。
-:5歳牝馬という衰えはないのでしょうか?
安:ええ、ないと思います。
ヴィルシーナ・安田晋司調教助手インタビュー(後半)
「2歳時から引退まで変わらない仕草」はコチラ⇒
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プロフィール
【安田 晋司】 Shinji Yasuda
高校卒業後、信楽牧場に約8年勤務。厩務員過程を経て、友道厩舎へ。 信楽時代はエプソムカップを制したアドマイヤカイザーを担当。友道厩舎では、持ち乗りと、攻め専を経験。12年の6月からはヴィルシーナの一頭持ちとなった。 攻め専時代、自分の調教技術を向上させてくれた思い出の馬は「全頭です(笑)。でも、ウチの厩舎はけっこういい馬が多いんで、そういういい馬の背中を教えてもらうっていう面でも、すごく勉強になっているかと思います」。その中でも印象に残った馬はサクラローズマリー。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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