歴史を塗り替える!勝負にきた女王サンビスタ
2015/2/15(日)
名門厩舎の見立てを覆した馬
-:フェブラリーS(G1)に出走するサンビスタ(牝6、栗東・角居厩舎)ですが、過去の成績を見ますと1700mが一番短くて、大体が1800mになっています。チャンピオンズCで4着しているように牡馬に混じっても能力は足りると思いますが、今回は東京のマイル戦ということで、芝スタートになります。その辺りはどのように感じていますか?
前川和也調教助手:芝に関しては問題ないと思います。芝のレースを使ってみたいなというぐらいなのでね。ソエや痛いところがあってダートを使い出したのですが、走らせてみたら意外とやれて、いつかは芝に戻そうかな、という感じを持っていました。ただ、どんどん勝ってくれたので戻すタイミングがないんです(笑)。
-:その辺りはお父さんのスズカマンボや弟たちが、芝の長いところを走っているので、芝というイメージがあったのでしょうか?
前:最初からスピードがあったので、もっと距離は短い方が良いのかなと思っていました。でも、ダートのレースは短くすると1000とか1200になってしまうので、“そこまで(短い距離)は?”というイメージがありました。それなら距離を延ばせるように馬作りをしていったほうが良いのかなと。
-:若い頃、ソエが痛いという状況でダートを使うというのはクッションの効果でありますが、パワーの面ではより力強さが必要になってくる条件になります。それでもこなせたということは、本質的にはしっかりとした子だったのですか?
前:どちらかといえば、弱い感じだったと思います。体調も崩していましたし、腰や背中にも負担の来やすい子でした。
「ガラッと変わったのは去年の夏頃ですが、基本的にはジワジワ良くなってきた印象です。それから、いつも朝に厩舎を出るときに硬く感じていたところが、去年の夏ぐらいからなくなって、良さそうだなと思っていたら、好走するようになりました」
-:そのサンビスタがいつ頃から変わってきたのでしょうか?
前:ガラッと変わったのは去年の夏頃ですが、基本的にはジワジワ良くなってきた印象です。成績が上がるにつれて、と言いますか、500万を勝つ状態、1000万を勝つ状態、準オープンを勝つ状態、というようにゆっくりと上がっていった感じでした。それから、いつも朝に厩舎を出るときに硬く感じていたところが、去年の夏ぐらいからなくなって、良さそうだなと思っていたら、好走するようになりました。
-:それはマリーンSやブリーダーズGCの頃ですか?
前:ブリーダーズGCの時が一番ですかね。その時が一番歩様も良かったと思います。その良い状態が今も続いていますね。
-:それは夏場のおかげとかではなく、気温が下がっても状態は維持できていると。
前:そうですね。意外に保っているというか、むしろ良くなっている感じもします。
初の芝スタートは対応可能
-:これまでのレースを見ますと、先行する力もあって、終いもしぶとく頑張る馬だと思うのですが、今回の1600mはどうなると見ていますか?
前:チャンピオンズCもそうだったのですが、ゲートの中で入れ込んで暴れたりして、立ち遅れたりすることがあるので、そこを解消できるようにゲート練習をみっちりやっています。今日もクリスチャン(デムーロ騎手)に乗ってもらって、追い切りの後にゲート練習もやりましたよ。
-:ゲート練習をしたクリスチャン・デムーロ騎手はどのような感触を持っていましたか?
前:「ノープロブレム!(問題ない)」と言っていましたよ。あとは速く出られるかが問題だと思います。
-:そして、ダート馬というのはダートでのスタートに慣れていて、芝スタートに戸惑うということはないですか?
前:芝の調教に関しては問題ないのですが、芝ゲートは初めてなので、そこはどうなるんですかね。
-:失礼な言い方になりますが、チャンピオンズCで4着に入ったことは、ファンとしては意外だったと思います。担当されている前川さんとしてはいかがでしたか?
前:盛岡(JBCレディスC)で使った時に速い時計が出ていたので、「これなら牡馬相手でもいけるかな」という話は先生(角居勝彦調教師)としていました。どれくらいやれるのかと見ていましたよ。あまり人気していなかったので“そんなに力は違うものかな?”と思っていたのですが、あの結果だったので、僕らとしても驚きはありました。
-:チャンピオンズCはG1としては流れは遅かったですが、今回のフェブラリーSは流れると思います。今までに体験したことないペースになっても対応できそうですか?
前:いつも行きたがっているぐらいなので、ちょうど良いのかなとは思っています。1600を使うことは前から分かっていたので、今回は少しテンションを上げ気味にしています。
本番で好走するためのポイント
-:1週前追い切り(2/11)の話ですが、3頭併せの真ん中で、動きはいかがでしたか?
前:道中は行きたがっていて、「乗っている感じは遅い」と言っていたのですが、時計としては全然遅くなかったです。「終いは突き抜けてもらっても良い」とも言っていて、その通りにやってくれましたし、結構な時計も出ました。
-:写真を撮っている瞬間は分からないのですが、後で見返してみると、凄く瞬発力のある脚のたたみ方や伸ばし方をする馬ですね。レースを見ると長く良い脚を使って粘り込むような印象があります。ただ、抑えたら抑えたで、良い脚を使ってくる馬なのですね。
前:そうですね。乗り役に任せて馬を信じて乗ってもらうだけです。
-:写真を見ると、トモの筋肉もしっかりとしていて、グイグイ押している感じが伝わってきます。それを見ると芝でも、という気持ちは分かる気がします。もう一回、牡馬を相手にG1に挑戦することになりますが、意気込みはいかがでしょうか?
前:チャンピオンズCは良い物差しになったと思うので、今回は勝ちに行くつもりで2ヶ月前から仕上げています。
2/11(水)、CWコースでC.デムーロ騎手が騎乗
6F83.3-66.6-50.8-36.8-11.8秒をマークしたサンビスタ
-:そして、ファンの方々はサンビスタのことを競馬場でしか見れないので、厩舎での様子を教えて頂けないでしょうか?
前:乗る方としては指示に従ってくれますが、馬房では放牧明けは大人しいのが、追い切りの後などはイライラして噛み付いたり、蹴飛ばしたりといいうのはあります。特に休みの日などは体を動かせないので、凄くイライラしていますよ。
-:あと1週間になりますが、楽しみですね。
前:今はどこも悪いところがないのでね。あとはゲートだけ出てくれれば。クリスチャンも大丈夫と言っているので、そこもいけるとは思いますよ。
障害レースで名を馳せた元騎手の嘉堂助手とサンビスタ
-:相手関係を見ますと、ホッコータルマエがいないですから、コパノリッキーが人気になると思います。それ以外にも実力馬が揃いましたが、印象はいかがですか?
前:相手関係は未知数ですが、ゲートさえ出られれば勝負になると思いますし、他の馬もG1に出るので、それなりに仕上げてくるでしょうからね。
-:レース当日のパドックでは大人しくしているよりも、ある程度の気合乗りをしている方が良いのでしょうか?
前:大人しい方がかえって良くないかもしれません。ここ数走のパドックは元気が良いので、そうなってくれればと思います。
-:それでは、テンションが高くても、イレ込んでいるというよりはそういった仕上げでいると解釈したほうがいいのですね。
前:そうなりますね。
-:牝馬のフェブラリーS挑戦を楽しみにしています。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
プロフィール
【前川 和也】Kazuya Maekawa
トールポピー、アヴェンチュラで姉妹GⅠ勝利。菊花賞馬・デルタブルースがオーストラリアのメルボルンCに出走した際は、担当の瀧川助手がハットトリックの海外遠征と重複したため同馬の調教を担当。歴史ある海外GⅠの勝利に貢献した。
馬乗りとしてはまだまだ未完成で角居調教師には今でも怒られる、と話す。馬にはあまりベタベタしない主義と言うが、見てとれるほどの馬好き。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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