
故オーナーに捧げたい一戦ローマンレジェンド
2015/2/15(日)
-:フェブラリーS(G1)に向かうローマンレジェンド(牡7、栗東・藤原英厩舎)についてよろしくお願い致します。期待した東京大賞典はまさかのゲートで出遅れました。残念な結果だったのですが、牧さんの感想を教えて下さい。
牧つばさ調教助手:本当にゲートが全てですね。ああいう馬場ですし、前につけないと競馬にならないと最初から思っていました。練習でどれだけ良くても、競馬場に行ったら一昨年と同じことになってしまいました。
-:馬は覚えていたということですか?
牧:そうですね……。
-:地方のゲートがダメなのではなく、大井を馬が覚えているのでしょうか。入ったら急にビクビクしだしたという話も聞きました。1年経っても忘れないものなのですね。
牧:まさにトラウマという感じです。
-:王者ホッコータルマエにどこまで迫れるかという気持ちで挑んだ東京大賞典だと思うのですが、帰ってきてからのダメージはそれほどなかったですか?
牧:中でバタバタした分、軽い捻挫くらいはありましたが、それ以外に大きな怪我はなかったです。不幸中の幸いだと思います。
-:チャンピオンズCで長期休養明けを3着と頑張り、東京大賞典を使って、また放牧に出てからのフェブラリーSになりますね。放牧でどれくらい体が緩んでしまったのか、良い休養ができたのか、気になるところです。休みから帰ってきた体はいかがでしたか?
牧:正直、パッと見て、張りが足りないというのはあります。
-:時間を掛けて日々のトレーニングをして、回復させていっているという状況ですよね。あと1週でどれくらいまで良くなりそうですか?
牧:今週(2/11)、岩田騎手が気合いをつける感じでやってくれたので、それでどこまで変わってくるかですね。
-:今週の追い切りは岩田騎手に乗ってもらって坂路コース、ということでしたが、感触に関してはどのようにおっしゃっていましたか?
牧:僕は良かったと思いますし、岩田騎手も良いと言っていましたよ。

-:初めての芝スタートに関してはどうですか?
牧:2回ほど芝を走っているのですが、その時はスタートでついて行けていました。最近はダートの1800でもあまり前に行けなくなっているので、それがどう出るか。ダート馬同士のスタートなので、今回もゲートが全てになるのではないかと思います。
-:東京大賞典前もゲート練習はされていて、そこはクリアしていました。今回もゲート練習をクリアしても、本番でどうなるか未知の領域ですね。
牧:前回のチャンピオンズCもそうですが、中央のゲートだと案外スムーズでした。ゲートさえ良ければ、流れに乗れると思います。
-:府中の1600といっても、ペースが速くなったり遅くなったり、一概にはいえません。そう考えると、あんまりペースが速くならない方がいいですか?それとも、前が止まる流れの方がいいですか?
牧:前が止まる流れですね。すんなりと追走はできないかもしれませんが、そちらの方がいいと思います。
-:枠についてはいかがですか?
牧:外の方がいいと思います。それも偶数枠を引けたらベストですね。

-:あとはどれだけ体の張りが戻ってくるかですね。
牧:今回は帰ってきてからの日が浅いので、それがどう出るかです。チャンピオンズCの前に比べたら、明らかに帰ってきてからの間隔が短いですから。
-:もちろん、ベストコンディションで持って行きたいという気持ちはあると思うのですが、去年の安田記念のグランプリボスのように、見た感じに痩せて肉が落ちている状況でも、あれだけ頑張るのが競走馬の精神力だと思います。今の精神状態はいかがですか?
牧:案外、ピリピリしてないです。ナイーブな感じはまだそこまでないですね。
-:意外に、見た目と違って繊細な馬なんですよね。
牧:大井に行ってあれだけ覚えていますからね。
-:しかも、好調時と疲れている時とで、体に出る気がします。その辺りはファンも、パドックで見たら分かると思いますか?
牧:分かると思います。良い時の張りというのが、この馬にはあります。
-:歳とともに体は変わると思いますし、現状で走れるだけの体にはなっていますか?
牧:なっていると思います。あとは気持ちがしっかり入って、切れなければ。

-:今回に向けて、気持ちを切らさないために何か前回と変えたところはありますか?
牧:(追い切り後の調教を)やり過ぎないほうが良いと思っています。
-:ファンとしては最終追い切りをどのように見ればいいのですか?
牧:追い切り自体は問題ないのですが、長距離輸送があるのでね。その分も踏まえた調教にしたいとは思っています。
-:レース直前の調教でもあまり速い時計を出さない方が良いと?
牧:おそらく水曜日に追い切りをすると思うのですが、その時点で気は入っていると思います。そこでやり過ぎてしまうとピークを過ぎてしまう可能性があるのでね。
-:木曜日に追い切りをするのではダメなのですか?
牧:土曜日に輸送をすることになるので、それだと疲れが残ってしまうんですよ。
「時計が速くなり過ぎると厳しい闘いになるかもしれません。ただし、1700mのエルムSでも結構な時計でも走ってくれているので、対応は可能なのかなと思っています」
-:難しいのですね。あとは馬場ですが、この時期は湿っていたり、乾いていたりと様々ですが、府中の1600mでスピードを求められる状況になった場合、どのような馬場を望みますか?
牧:時計が速くなり過ぎると厳しい闘いになるかもしれません。ただし、1700mのエルムSでも結構な時計でも走ってくれているので、対応は可能なのかなと思っています。
-:むしろ、スローペースから上がり勝負になるよりかは……。
牧:それよりは良いかもしれないですね。チャンピオンズCもスローでダメだったのでね。
-:ただ、流れの向かないチャンピオンズCでも3着に粘り込んでいて、差されなかったというのを見ると、ある程度リズム良く運べれば最後はまとめてくれるのかなと思うのですが?
牧:その通りです。
-:今回はどれぐらいの馬体重でレースに臨む予定ですか?
牧:輸送はありますが、理想は506キロですね。
-:現状ではその理想の体重で出られそうですか?
牧:どうでしょうか。510キロぐらいになるかもしれません。本当は切って欲しいのですが、今はそうなるように努めています。ただ、カイバは減らしません。馬の精神状態もありますし、ここまで来て減らす必要もないですから。この時期は汗取りを付けて無理にでも汗をかくようにします。代謝を良くすることに努めますよ。
-:人間と一緒で年をとると代謝は悪くなるのかもしれませんね。
牧:放牧から帰ってきたら10キロぐらい重くなっていたので、現実的にそれが3週間ぐらいで絞り切れるのかというところは分かりませんが、長距離輸送で減ることになるので、良い方に向かうのではないのかなと思っています。
-:残念なことにオーナー(太田美實氏)が亡くなられて、名義が奥様に変更されているとのことですが、そういったことも考えると、ここは何としてでも頑張ってほしいところです。
牧:弔い戦のようになるので、何としてでも勝ちたいですね。
-:厩舎としてもエイジアンウインズなどを管理して、縁のある方でしたからね。
牧:余談になりますが、19日に太田先生の告別式に出たのですが、調教ゼッケンが"19番"なんですよ。僕だけかもしれませんが、運命じゃないかなと思っています。
-:まだ中央のG1には手が届いていないので、ここは獲りたいところですね。オーナーも見たかったと思います。
牧:それに関してはオーナーには本当に申し訳なく思っています。何回もG1を勝つチャンスはあったと思うのですが、結果を出せなかったというのは。僕もお通夜に行かせてもらったのですが、その時に手を合わせて「すみませんでした」と謝りました。
-:そうしますと、天国から見守ってくれているオーナーのためにも、という気持ちになりますね。
牧:何とかしたいです。そのためには、とにかくゲートをしっかりと出るというのが重要になりますからね。この馬のスタート地点はゲートですから。

奇しくも19のゼッケン番号が与えられたローマンレジェンド
-:岩田騎手もオーナーの思いを胸に秘めてレースに挑むわけですね。
牧:岩田さんは熱い男ですからね。
-:最終追い切りはどこで行う予定ですか?
牧:おそらくCコースになると思います。そこで結構な行きっぷりを見せていたら状態は上向きになっていると思います。抑えきれないぐらいの手応えで走って、というのが良い時の攻め馬なので、変に折り合うよりはそうなっていた方が良いと思います。
-:Cコースの走り方というのはいかがですか?ダート馬の中にはあまり時計が出ない馬もいるのですが。
牧:正直、この馬も時計は出ません(笑)。でもその行きっぷりというところを見て欲しいです。「凄い行きっぷりだな」と思える方が結果は出ているのでね。
-:馬の走る気持ちを優先して見た方がいいのですね。
牧:やっぱり気持ちですね。レースに向けてどれぐらい気持ちが乗ってくるのか、というところだと思います。
-:ローマンレジェンドの気持ちに何とか火を付けてもらいたいです。そうなるように頑張ってください。ファンも応援していますし、このメンバーだとチャンピオンズCの最先着馬になりますからね。東京大賞典では泣かされたファンも多いでしょうから(笑)、その方々に向けてメッセージをお願いします。
牧:僕らとしてもゲートであんなことになるとは思っていなかったので、今度はしっかりとゲートを出られるように日々頑張っています。これからも応援されるように、忘れられない馬であり続けるように、そう思っていますので、今回も応援してください。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)

プロフィール
【牧 つばさ】Tsubasa Maki
大阪府出身。競馬を好きになったきっかけはマヤノトップガンが勝った1995年の有馬記念で、馬と携わる職業に興味を持ち始めたのもこの頃。観光で行った鳥取の大山乗馬センターで「ここに来たら馬術の大会に出してやるぞ」と言われ、高校入学と同時に鳥取へ行くことを決意。高校3年時の国体では入賞を果たした。
卒業後は栗東ホース倶楽部に移り、競馬学校を志すも挫折。元々、牧場勤務への関心の方が強かったため、トレセンへの思い入れはそれほどなかった。しかし、牧場で勤めていた際に出会った藤原英昭調教師に「ウチに入ってみないか」と誘われ、もう一度競馬学校を目指すことに。
競馬学校修了後は師の言葉通り、藤原英厩舎に所属し現在に至る。ローマンレジェンドは自身が担当した中で、初めて重賞勝ちを収めた思い入れのある馬。栗東トレセン勤務7年目で、モットーは「誰が乗っても乗りやすい馬を作ること」。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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