ノンコノユメ 計算し尽くされたチャンピオンズC挑戦への過程
2015/12/2(水)
58キロを背負って制した武蔵野S
-:チャンピオンズC(G1)に出走するノンコノユメ(牡3、美浦・加藤征厩舎)について聞かせてください。まずは武蔵野Sを勝った後からお願いします。
加藤征弘調教師:前走勝った後も、特別に疲れた様子もなく、普段よりも1日早く乗り出したくらいですよ。あんまり休ませると、今度逆に緩んできちゃったりするのでね。
-:以前のジャパンダートダービーでも間隔を詰めて使っていましたので、中2週というのはあまり気にならないですか?
加:この間は青竜Sから1カ月(ユニコーンS)と中1週と3日ぐらいでJDDだからね。その時よりも今の方がかなりシッカリしているのでね。そういう状態での中2週と、まだか弱いというか、成長段階での中1週と3日と比較すると反動がね。しかも、ああいう脚をちょうど使い始めた頃でしょ。その頃は、疲れがそれなりに出て、その疲れを取って上の段階に、ということだから。それを経て4カ月休んでいるので、ある程度疲れが残らなくなってきているから。JDDの後はやっぱり酷い馬場だったので、ソエがちょっと出始めたこともありましたし、腰や股関節にだいぶ疲れが残っていたので。今回は、ソエにしても一切なくて、背腰の疲れは、あれだけ走ると、どの馬にでも出るもの。それは、競走馬としての範囲内ですよね。
-:股関節も大分シッカリしてきたということですね。そういう疲れは、武蔵野Sの前くらいからあったのですか?
加:JDD使った後もそこまで反動が来なかった。一番辛かったのはユニコーンSの後だね。あの時が一番辛かった。実は(出走を)止めようかと言っていたくらいだから。
-:ジャパンダートダービーの頃はキツい過程を経て、先生としては、どれぐらい手応えを感じていたのですか?
加:でも、使うと判断してからは、もうこのままで行けば間違いなく状態が上がっていくという判断で使ったのだから。使えるというか、それなりの結果が出せるという状態ですよ。
-:前走のラストは58キロと休み明けの分もありましたか?
加:最後伸びあぐねたというか、坂を上ってからユニコーンSのようないつもの切れがなかったというのは、やっぱり斤量だと思います。直線に向いて反応が鈍かったというのは、久々の分だと思っていますよ。
-:それでも、必ず最後は来ますものね。
加:馬が分かっているみたいね。直線を向いたら、一気に噴き上がるというのは馬が覚えているんだよ。
-:前半ちょっと置かれていたのは、股関節の影響があったのですか?
加:そうですね。スタートですっと速度が乗らないというのは、腰のせいがあったと思うんだけど。
-:しかし、前走はちゃんとスタート出ていますよね。
加:出てるね。JDDの時もシッカリ出ている。だから、もしかしたら芝スタートがあまり好きじゃないというのもあるかもしれないよ。ダートスタートの時はけっこう出てるからね。そういう可能性もある。
-:そういう意味では、今度の中京のダートはむしろ歓迎材料ですね。
加:ダートスタートだからね。ダートスタートだとそんなに速度が乗らないから。そういう部分もあると思うけど。
-:改めて4連勝のレースを含めて見直したら、負けた3回のレースは大外を回してしまったり、伏竜Sの時は詰まったり……。要するにスムーズな時は負けていないですよね。
加:そうだね。そういう時以外はシッカリ脚を使っている、上手く捌けた時は大丈夫だね。まあ、石川君が乗った時はちょっとかわいそうな時が1回あって……、木幡君が外にバーンと外に急に出て来て、あれはちょっとかわいそうだったけどね。でも、動くところじゃないのに動いたからそういうアクシデントに巻き込まれただけの話で、あそこは前の馬に併せて、コース変更しないで併せていくところを、あえて抜き去って行こうと外に出した進路を取ったミスだから。そのミスが重なって、自分のミスと相手にされたミスと。
勝利を確信していた新馬戦
-:この馬を預かるようになったのはどういう経緯でしたか?
加:2歳の夏に「動きが良い」と言うので、牧場に行ったのです。馬主さんから直接電話をいただきまして。オーナーからは数年前にプリンセストロイという馬を1回お預かりしたことがあるのです。
-:血統もあるのでしょうが、この馬は初めからダートという見立てでしたか?
加:いや、そんなことはない。元々、この馬は連勝したら芝を使おうという話で。
-:それは、調教の動きから見ても芝でやれると。
加:本馬場の動きがすごく良かったのです。ダート戦からじゃあもったいないので、芝から行くかと。石川君を乗せたあのレースというのは、関西でG1があって、ジョッキーが非常に手薄だったんですよ。と言うことは、レース選択としては馬が集まらないということだから。一番弱い馬が集まる中でやるんだったら、いるジョッキーが限られていたので。それだったら、減量騎手でより一層勝ちに近付くからね。
-:「そこは自信がある」という話をしていたと聞いたのですが?
加:もう装鞍所で石川君と握手したんだよ。見習ジョッキーは必ず自分で鞍を持ってくるんだけど、その時に石川君に「手を貸して」と言って「この馬は間違いないから握手しとくから。大丈夫だから、何も迷うことはない」と伝えたんです。北馬場のCコースで追い切りをやったんですよ。ウチはたまに新馬を下ろす時に、ダートの1600mから下ろす馬は当該週や、その前の週に必ず北のCコースで、同じようなコース形態でやるのですが、その時の動き、脚の使い方がすごく良かった。直前の北馬場の動きが全然違かったもん。
-:ただのダート馬ではなく、芝でも行けそうな感じがしますが?
加:新馬戦の前の週の金曜日に本馬場に入れた時に、非常に跳びとストライドが良かったの。そして、北Cコースの追い切りを見たら、ちょうど馬の後ろに控えていて、そこからスッと内に入り込むような調教をしたんだけど、その時の馬の反応というか、脚の使い方が、手前を換えてハミを取ってからの格好がまさしくすごかったんでね。道中の折り合いは全く問題ない馬だったし、逆に調教の時は嫌々走っているところもあるんだよね。
「もう装鞍所で石川君と握手したんだよ。見習ジョッキーは必ず自分で鞍を持ってくるんだけど、その時に石川君に『手を貸して』と言って『この馬は間違いないから握手しとくから。大丈夫だから、何も迷うことはない』と伝えたんです。直前の北馬場の動きが全然違かったもん」
-:今の話を聞いていると、ちゃんと調教とレースが結びつく馬なのかなと。
加:いや、調教とレースはあまり結びつかないね。70-40ぐらいで一杯一杯だからね。
-:最初調教をやり出した時に、先生が「レイジーだ」と言って、ルメールも「ゼンゼンダメ」と言っていましたね。
加:2週間前ぐらいに「ゼンゼンダメ~」と言っていたもんね。ルメールは調教に乗ったことがないから、ビックリしちゃったんじゃない。レースのイメージでビュンと動くのかと思ったらとんでもない。
-:元々、そんなに稽古は動かない馬ですか?
加:最初の時は馬の後ろから行ったから。ただ、1週前追い切りだったじゃないですか。あれは逆に逃げたからね。前に全く馬を置かないで先導させたので、その時はある程度動く。警戒心が強いというか、馬を前に置いて付いていくと安心するというか、おとなしく付いていく。抜きたがらないところがある。
-:レースでは抜くのに不思議ですね。
加:レースでは離したりするからね。でも、馬込みに突っ込んだ時は抜かなかったからね。
-:外に出したら伸びるんですね。
加:おそらく。この間もちょうどチャーリーブレイヴがいて、そこの間を割るまではちょっと時間が掛かったけど、出たからはいつも通りだったからね。でも、そこを抜くまでというか、そこの間に入った時にクリストフはまだ強いムチを使っていなかったからね。肩ムチくらいしか使ってなかったから。一瞬並びかけて出る時に初めて右からゴーを出したからね。
-:それは性格的なものですか?
加:性格的なものだね。最初から追い込み馬で行っているくらいだから。
-:行く気になった時に行き方はすごいということですね。
加:最後にその気になった時、その辺の動きは良かったね。
-:期待通り勝って、その後はレースのアヤみたいなのがあって、勝てなかったですが、その当時でも先生の期待というのはいかがでしたか?
加:本当は2回目で勝つと思ったけど、外に振られちゃったからね。3回目で負けちゃったのはちょっと意外だった。東京の1600mで負けたのは何で、という感じで。
-:それでも大外をブン回していますよね。やっぱりソツなく乗った方が……。
加:ある程度競馬をソツなく乗っておいて、外に出すという形にする方がやっぱり馬は楽だわね。
「鈍ることはないと思う。1800の方が道中でもう一息入るから、逆に切れ味が増すと思うんだけど。だから、大井の2000の時も全然不安じゃなかったからね。逆に楽だろうなと思ったんだよね」
-:その辺はルメール騎手と合いますよね。やっぱり上手いと思いますね。
加:彼はレース中熱くならないし、すごく冷静なんでね。4戦目でクリスチャンが乗った時も「この馬は間違いなく最初はユックリ行くけど安心してくれ。その代わり最後はすごい脚を使うから」と言って、1枠1番を引いた時もかなり自信を持って乗ってくれて、あの時は手応えが違ったもんね。あの時が一番強かったんじゃないかな。馬なりでグゥーと上がってきて、2着のバスタータイプも走る馬なので。先週も1000万で5着だったでしょ。あの馬を馬なりで抜いていったからね。
-:最内はあの時くらいなのですが、枠も差すイメージだから外枠の方が良いのかなと思ったのですが、そういう感じでもないですか?
加:ええ、枠は特に拘らないね。
-:中山で2ターンも一応やっているじゃないですか。そうすると、条件も別に東京のマイルじゃなきゃ全然ダメという訳でもないですしね。
加:むしろ馬には、東京のマイルは少しせわしないと思うよ。1800くらいの方が逆に楽だと思う。
-:1800mで最後の脚が鈍るということはないですよね。
加:鈍ることはないと思う。1800の方が道中でもう一息入るから、逆に切れ味が増すと思うんだけど。だから、大井の2000の時も全然不安じゃなかったからね。逆に楽だろうなと思ったんだよね。
-:こんなに走るような馬になると思いましたか?
加:それはある程度驚きですよね。全然とまでは思わなかったけど……。
加藤征弘調教師インタビュー(後半)
「東京マイルに拘ってきた理由」はコチラ⇒
1 | 2
プロフィール
【加藤 征弘】Yukihiro Katoh
1991年に加賀武見厩舎の厩務員としてキャリアをスタート。その後、二本柳俊一、相川勝敏、内藤一男厩舎の調教助手を経て、2001年に調教師免許を取得。翌年厩舎を開業すると初年度から2ケタの12勝を挙げる活躍を見せ、2年目26勝、3年目32勝と瞬く間に関東リーディング上位の常連となった。その後も順調に勝ち星を伸ばし、11月15日にはJRA通算400勝を達成した。G1タイトルは2007年にシャドウゲイトで制したシンガポール航空インターナショナルCとノンコノユメで制した今年のジャパンダートダービーの2勝。意外にも中央でのG1勝ちはなく、ノンコノユメには悲願でもあるJRAG1初制覇の大きな期待も込められている。
1965年 東京都出身。
2001年に調教師免許を取得。
2002年に厩舎開業。
初出走:
2002年3月3日 1回中山4日目 8Rエビスイーグル(3着)
初勝利:
2002年6月2日 4回東京6日目 3Rソプランマンボ