ビワハイジの系譜を受け継ぐロッテンマイヤー 若きトレーナーといざ樫へ
2016/5/15(日)
勝利への下地があった忘れな草賞
-:前走の忘れな草賞はテン乗りの川田将雅騎手が騎乗して、展開的には労せずハナに立ち、ペースもスローで落ち着きました。最後も上がりはメンバー中上位の脚を使って、直線で突き放しましたね。先生の目から観て、ロッテンマイヤー(牝3、栗東・池添学厩舎)のレースぶりをどう評価していますか?
池添学調教師:結果的に勝ったので、レース運びは騎手の好判断だったと思います。勝たないとオークスは視野に入れられなかったですからね。そして、勝った上に楽な競馬だったことも、馬にダメージが軽かったので良かったです。その後の疲れも感じられなかったですから。
-:体の面では、前走が470キロで前走比プラス8キロと増えていましたが、この後に向けて(東京競馬場への)輸送もありますが、馬体重はどれくらいの見込みになりそうですか?
池:もともとあれくらいの体重があっても良いくらいの馬格がありますから。新馬の時はちょっと細くて、クイーンCの時は毛ヅヤも今ひとつでした。まだまだシッカリできてないなという感じがありましたが、馬も環境に慣れてきて、カイバ食いも忘れな草賞の前には全く問題なかったですし、毛ヅヤも良くなっていました。体重はもう気にせずに、もっとレベルアップを図れるような調教をした上で、前走ないし、増えている分には全く問題ないですね。
-:「2走前は毛ヅヤがもう少しだった」という話がでましたが、時季的に2月ということで気温のせいなのか、状態がもうひとつだったのか、その辺りはいかがですか?
池:新馬の時に、北海道から直接入厩だったので、まだ真冬で冬毛がかなりある状態で入れて、馬も初めての環境で色々と特徴を掴むまで時間が掛かってしまって。それに2歳の春にトモの種子骨を骨折して、本当はそれがなければ、早い内からデビューできるくらい馬は仕上がっていたのです。だから、春はその時点で、デビューは遅くなるだろうなと思っていましたが、牧場の調整がすごく上手くいったので挽回できました。
-:デビュー前に故障していたのですね。しかし、1月に初出走ながらも、遅れた分を取り返すほどの勢いですが、尚且つそこまで無理使いをさせずに、色々な条件を経験できていることは素晴らしいですね。
池:無理せずに使っていったら、新馬とクイーンCの走りが良かったので、これならひょっとしたらと思っていました。そんな中で前走を勝ってくれたので良かったです。
キャリア3戦も全て違ったレース運び
-:父がクロフネでアグネスタキオンの肌で、母系はブエナビスタやジョワドヴィーヴル、アドマイヤジャパンやアドマイヤオーラのいる素晴らしい血統です。前走は瞬発力が光る競馬でしたが、適性と言いますか、この馬の方向性としてはどういうタイプになって行きそうですか?
池:体を見ている上では、マイルから2000mが良いかなと思うので、先々はそうなってくると思います。
-:なるほど。脚質的な問題としてはキレ味とか、パワータイプなのかというのはいかがですか?
池:調教を見ていても、何か父と母の両方の良いところを持っている雰囲気はします。力もあるし、瞬発力もある。クイーンCの時のように中団から渋太く脚を使えますし、忘れな草賞みたいにヨーイドンの競馬でも対応できる。オールマイティですね。3走とも全部違う競馬をしているので。
-:キャリアは浅いですが、操縦性や万能性の高さは闘う中では強みになりますね。
池:そうですね。3戦とも内容が濃かったので、良い経験をしながら使えるなというのは良かったです。
「今度は2400mですが、スタートも上手ですし、ジワッと行って良いところを取って、前に馬を置いてジッとしていれば、折り合いに関しては恐らく大丈夫だと思います」
-:逆にオークスに向かうにあたっての課題を考えられるところはありますか?
池:馬に気持ちを乗せ過ぎないことですかね。けっこうカッカッするので、前走もパドックでチャカチャカしていましたからね。そこまでの心配はしていませんが、今回も体調が良い分、そのイレ込みだけが懸念材料といいますか。しかし、東京は前日輸送なので、1日置いて落ち着くと思うのでね。あとは、レースで上手に競馬をしてもらうだけですね。
-:気性面の課題を挙げられましたが、前走も前半64秒というスローながら、許容範囲内といいますか、それでも折り合って競馬ができていたように見えましたね。そこはより距離が延びても強みになりますね。
池:あれだけのスローペースですから、多少(ハミを)噛むところがありましたね。今度は2400mですが、スタートも上手ですし、ジワッと行って良いところを取って、前に馬を置いてジッとしていれば、折り合いに関しては恐らく大丈夫だと思います。
-:ジョッキーはフォーリー騎手が2戦、前走は川田将雅騎手。今回はトミー・ベリー騎手となりますが、ある程度こういう競馬をして欲しい、という思惑はありますか?
池:ジョッキーも百戦錬磨ですし、跨ってくれたらどういう馬かというのも分かるでしょう。特にこちらから「こう乗ってくれ」というのはないですね。僕自身が競馬で乗ったことがないので、普段もジョッキーに乗ってもらう時に注文を出したりしないので。ジョッキーもみな勝ちたいから研究しているでしょうし、とやかく言うことはないです。1週前に併せ馬で調教に乗ってもらうので、そこでコミュニケーションはとりたいと思っていますが。
11日の追い切り後、T.ベリー騎手と打ち合わせする池添調教師
-:今年は牡馬ばかり話題になっていましたが、牝馬も桜花賞上位組はなかなかレベルが高いのかと思います。先生から見て、未対戦の馬たちとの力関係はどう感じていますか?
池:戦績からしたら、こちらは胸を借りるというか、やっぱり相手は一線級なのでね。ただ、今後のレースの選択肢として、現状でどれくらいやれるかという指針になるはずです。
-:前走を使って状態面が上がると想定すれば、今回も楽しみですし、キャリア的にも3戦でしたら、まだまだ伸びしろがありますから、今後も楽しみですね。
池:そうですね。もちろん今回のレースも大事ですが、先の長い馬ですから。秋に向けて、良いレースをしてほしいという思いです。負けていいというわけではありませんが、何が何でも勝つ!という意識ではなく、まずは無事に回ってきてくれれば。先々が楽しみな馬ですからね。
-:昨年も、厩舎としては素晴らしい船出を飾られまして、いよいよG1という舞台にも挑む訳ですが、大きな舞台に管理馬を送り出す心境はいかがでしょうか?
池:そこまで、自分自身ではイレ込むものはないですね。というのも、全レース気負っていますから、ハハハ(笑)。全てのレースで、この馬はどうやったら良い仕上げで行けるかな、と日々考えながらやっているので、G1だから特別なことをすることもないですし、どんなレースでも良い状態で向かうということだけですね。
-:若くしてすごく冷静で客観的ですよね。
池:いやいやそんなことないですよ(笑)。まだまだ先も長いですし、自分の引き出しを増やしていくためにも、大きいレースを経験するというのは経験値も上がると思います。この世界で失敗は許されないことですが、失敗してもそれを糧にして自分自身がレベルアップしていければ、と。今年ももうひとつ成績が上がっていないですが、去年よりも中身は濃いと思っていますし、馬も上のクラスで頑張ってくれているので。自分の経験になっているのかなと思います。
2歳世代に良血馬がスタンバイ
-:最後にもう1点だけ伺いたいのは、時期的にも2歳という話題が出てくると思います。早目に入ってきそうな馬を何頭か教えていただいて良いですか?
池:5月中には3頭くらい入ると思いますよ。レティセントガールの14(サーカムスタンス)、ドリームスケイプの14、フリーティングスピリットの14(ゼニステレスコープ)、その3頭が早いんじゃないかと思いますね。
-:ブエナビスタの14(コロナシオン)はどのくらいをメドにしていますか?
池:秋くらいです。ジックリ成長を促しながら、初仔ですし。
-:ファンの期待が相当に高いでしょうからね。
池:高いでしょうね。それはそうですよね、(僕で)大丈夫でしょうかね(笑)。どんな馬もしっかりと受け入れられるように、もっとレベルアップできるように頑張ります。
-:期待しています。ありがとうございました。
プロフィール
【池添 学】Manabu Ikezoe
父は池添兼雄調教師、一つ上の兄は池添謙一騎手という競馬界サラブレッド一族に産まれる。当初は騎手を目指すが、体格面を考慮した末に断念。父と同じ調教師を志す。
学生時代に馬術の勉強を始め、明治大学では馬術部のキャプテンを務めるまでに、その名を馳せた。2008年から父の元で厩務員となり、調教助手を経て、2013年に調教師免許を取得し、15年に開業。自身の調教スタイルも馬術で培った技術を遺憾なく発揮。新進気鋭の厩舎として、多方面から注目を集めている。兄の謙一騎手は「弟の管理馬でG1を勝つという夢が出来ました」と語るように、JRA初となる騎手、調教師の兄弟コンビが誕生。夢の兄弟G1制覇へ向けて、日々、精進を続けている。