「まだギアを隠し持っている」全力出さず圧巻の連勝で本番へ アエロリット
2017/10/9(月)
「色々な選択肢があった中で、クイーンSを使ってみたいという気持ちがありました。まず右回りの4ターン。それと開幕週の馬場、洋芝、1800、古馬混合戦で斤量は軽い、そういう点ですね」
-:競馬ラボではNHKマイルCの前にインタビューを受けていただきまして、今回はその後ということで、時間を遡ってNHKマイルCを振り返っていただけますか?
菊沢隆徳調教師:春時点でのあの馬の状態は、桜花賞後も引き続き良くて、(状態を)維持して(NHKマイルCを)迎えることができました。得意の東京でということで、巻き返したい、さらに上を、とは思っていましたね。
NHKマイルCは2番手から押し切る堂々の走りを見せた
-:桜花賞(5着)は後ろから、NHKマイルCは前めからということでしたが、事前のレースプランはいかがでしたか?
菊:桜花賞は外回りでちょっと重い馬場だったので、おそらく先行策をとってもらおうと思えばとれたのでしょうが、まだ終いまで頑張りきるというようなパワーが揃っていないのではないかなと思っていました。桜花賞は得てしてペースも速くなって、最後の直線も長いので、もしそうなった場合、苦しい競馬というか、バテて無様にズルズル下がっちゃう、そういう競馬だけはしたくなかったんですよね。(横山典弘)ジョッキーには、出たなりで良いので直線に懸けて、といった感じで伝えました。まだ気性的にも、多分出していけば行っちゃったと思うのですが、それをやってバテちゃうことは、僕が一番避けたかったですね。
-:今後を見据えて、最後まで頑張れるレースを、ということですね。
菊:そうですね。僕の中ではそういう気持ちでしたね。
-:NHKマイルCの前は、ジョッキーとはどのようなプランを立てましたか?
菊:今度(NHKマイルC)は、ある程度、中身的なものもそうですし、メンバーや馬場形態を考えて、出たなりで良いです、というような指示をしましたね。
-:実際に正攻法で押し切られた訳ですが。
菊:そうですね。あそこまで好スタートを切っていくから、今度は折り合いが気になって、あんまりムキになって行かなきゃ良いなと思っていたのですが、本当に上手くいきましたよね。あの時は、馬場の内が掘れて悪くなってきていたので、良いところを走れたというのもありましたし、却って枠順(16番)も良かったですね。
-:完勝というレース内容だったと思いますけど、レース後の馬の状態というのはいかがでしたか。
菊:その後は、大きなダメージはなかったのですが、(ノーザンファーム)天栄に放牧に出て、そこから北海道に行って、最初に立ち上げるまでにちょっと時間が掛かりましたね。やっぱり全身の疲れがドッと出たような感じでしたね。
-:桜花賞、NHKマイルCとG1を続けて使ったということもありますしね。
菊:僕も軽く跨りましたけど、現場のスタッフに話を聞いても、ちょっと疲れていた感じはありましたね。
-:その後はクイーンSに進まれる訳ですけど、NHKマイルCが終わって馬の状態をご覧になって、秋に向けてのローテーションというのは、当時はどのように描いていらっしゃったのですか。
菊:牧場、オーナーサイドからの提案もあったり、色々な選択肢があった中で、クイーンS、ローズS、紫苑Sとあって、馬が無事なことを前提として、秋(の大目標)は秋華賞にするか、マイルCS、スプリンターズS、東京にこだわるかの選択肢がありました。
-:ステップの次もまた選択肢が色々とあったということですね。その中で馬の状態を見ながらということだったんですね。
菊:その選択肢の中で、馬の状態は別として、僕の中では試すという部分で、馬の状態さえ良ければクイーンSを使ってみたいという気持ちがありましたね。
-:その狙いはどんなところにありましたか?
菊:まず右回りの4ターン。それと開幕週の馬場、洋芝、1800、古馬混合戦で斤量は軽い、そういう点ですね。
-:そのあたりを魅力に感じて、クイーンSに決めたということですね。
菊:中間は(ノーザンファーム)空港牧場で調教を進めていたのですが、どこでクイーンS直前の調教をするかというのを考えて、函館にしようか、札幌にしようか色々考えて、函館にはウッドコースはあるけど、あの馬にとってはとてもコーナーがキツい。だったら間隔が短いけど、空港牧場のチップの坂路を利用させてもらって、そこである程度つくって、あとはダートなり、本馬場なり、環境に慣らすために札幌競馬場で調教をしようと思いました。
-:ほぼ全部空港牧場でつくっておいて、最後に環境に慣らすために(札幌)競馬場に入れたということですね。
菊:そうですね。環境の慣れと競馬に向けての立ち上がりというような感じですね。
クイーンS前も菊沢師が付きっきりで調整を行う
-:そういった形で仕上げて、当日の馬の仕上がりはどのようにご覧になられましたか?
菊:1週前(追い切り)から、速いところだけ稽古に乗りに行っていたのですが、動きに関しては問題なかったので、あとはテンションと脚元だとかにダメージがないかというのだけ心配していましたけど、幸いそういうのはなかったですね。(+18キロの)馬体重に関しては、追い切り後くらいから急に膨らんでいっちゃったんですよね。計測体重の496というのはちょっとビックリしたかなという感じでしたね。ただ、牧場にいる時点から510とか、そういう状況になったりしていた馬だったので、許容範囲というか、結構動けてはいたからね。
-:稽古を積みながら、カイバを食べて増えていったということですね。
菊:そうですね。厩での様子も本当にジッとして、無駄な動きや神経質なところも見せなかったので、そういった意味でも身になっていっちゃったのかなと思いますね。
-:レース内容自体はいかがでしたか?
菊:枠順(2番)が出た段階で、あとは馬の状態を見て、ジョッキーにはスタートで普通に出るようだったら、アエロリットのペースでハナ行っても良いですよ、という気持ちで言いました。
「(大逃げを打ったクイーンSは)4コーナーにかけて、ノリさんも溜めたというか、後続が迫ってきた時にどよめきましたけど、ノリさんらしいなと思って観ていたんですけどね」
-:実際に、そのまま押し切りという形になりましたけど、道中の走りをご覧になられていかがでしたか。
菊:アエロリットのスピードなら、普通だったらハナに行くだろうと思ったのですが、後続が結構離れていたのでね。ただ、走っている姿はそんなにムキになって走っていないな、と思って観ていたんですよね。それで、1000m通過のラップが58.3秒だったのですが、あの気持ちとこれくらいのラップだったら、そんなに無様な競馬にはならないだろうなと思って観ていましたね。4コーナーにかけて、ノリさんも溜めたというか、ジッとしていたというか、後続が迫ってきた時にどよめきましたけど、ノリさんらしいなと思って観ていたんですけどね、ヘヘヘ(笑)。止まった訳でもないし、ハナに行って、1回一息入れたということですね。ハナに行く競馬は、どこかで息を入れなきゃダメなのでしょうが、息は入っているものの、さらに3~4コーナーで息を入れているような、後続の人は慌てて行かなきゃいけない状況になっていましたね。その辺は上手く、コーナーを回った辺りで、これは勝ち負けになるな、というレースだったのでね。
-:それだけシッカリ脚も溜まって、直線に向いたということですね。
菊:そんなに溜めてビュッと切れる訳ではないのですが、持続力というかね。ただ、最初からハナに行ったというのは初めてだったので、そういった面でちゃんとシッカリ走れよ、としか思っていなかったですけどね。
実績ある古馬達に影を踏ませない圧逃劇を見せた
-:中には、フワフワしちゃう馬もいますからね。
菊:そうですね。この馬は特になりやすいタイプなのでね。
-:そこら辺もシッカリ勝ち切ったということですね。クイーンS後の馬の状態はいかがですか?
菊:その後は、またノーザンファーム空港に放牧に出して、回復具合は良かったですね。ダメージもさほど見られず、秋華賞直行ということになったので、ある程度、牧場で馬を見た判断で、あまり早く連れて帰って来てもまだ暑いので、ローズSが終わるか、終わらないかくらいのタイミングで連れて来たら良いかなと。
-:美浦が涼しくなった頃にということですね。
菊:そうですね。ローズSに向かう馬は暑い中、ローズSに向けて仕上げて大変だろうから、こっちはその分、ノンビリさせてあげようかなという感じで思っていましたけどね。
-:ユッタリとした調整過程をとれるように、北海道でもシッカリと。
菊:そうですね。ユッタリというか、北海道でもちゃんと乗っていましたし、輸送前の速いところも観に行って、もう十分だなという話になっていましたね。スタッフの感触も「またさらに凄くなっている」とビックリしていたので、またグーンと良くなっているというので、早く美浦に手放したい状態だったようで、ハハハ。もうこれ以上僕らでは……というような。
-:こちらに戻って来て、先生が跨られて馬の成長というのは。
菊:最初の3~4日は長距離輸送の疲れというか、やっぱり向こうとはちょっと違うな、という感じだったので、その辺は徐々に様子を見ながら。
-:焦らずに立ち上げていったということですね。
菊:そうしたら日に日に良くなってきたので、やっぱりこの馬の回復力というのはすごいなと思ってね。