2年目の決意を初めて公に。昨年3月にデビューを果たした富田暁騎手(栗東・木原厩舎所属)。今年は26勝(10月28日時点)を挙げ、順風満帆にキャリアを積んでいるようにも思えるが、更なる飛躍のため、密かなる誓いがあるという。また、今秋、調教師試験を受験した四位洋文騎手が「(調教師になって)早く富田の足を上げたい」と語ったことも話題に。気になる四位騎手とのエピソードも含め、ロングインタビューを行った。

目標であり、師と仰ぐ四位洋文騎手

-:今年は昨年以上に勝ち星を挙げていますが、今夏は小倉を中心に活躍されていましたね。振り返っていかがでしたか?

富田暁騎手:小倉までの阪神、中京で2カ月くらい勝てていなくて、小倉1週目のシャルルマーニュという馬で久々に勝たせてもらいました。この夏は1週間に1勝のペースでしたけど、自分の中で成長出来た夏だったと思います。

-:レースを観させてもらうと、下半身が強そうに観えますね。

富:いえいえ、僕の中では下半身の弱さを感じているので、もっと鍛えなきゃいけないと思っています。ただ、僕の下半身は、学生時代にサッカーをやっていたことは基礎体力として多少あるのかなと思いますけど。一流の方々はもっともっとブレないですし、やっぱり乗っていても、まだまだ下半身が使えなくて馬を動かせないところもあります。ズブめの馬でプッシュしなきゃいけない時に、まだ馬の助けになれていないですし、動きの邪魔をしてしまっていることもありますから。

富田暁騎手

▲イケメンで女性人気も急上昇中の富田暁騎手

-:フォームはどういったところを意識されていますか?レースを拝見していると、ステッキを多用しない印象も受けるのですが。

富:そうですね。あくまで鞭はゴーサイン、合図としての意味に考えています。僕はもともと四位(洋文)さんに教えてもらっていて、四位さんが一番の見本ですし、目標としています。四位さんは綺麗だし、ダイナミック。あんな騎乗ができるようになりたいです。それに今は(ジョアン・)モレイラさん、(クリストフ・)ルメールさんなどの外国人騎手が沢山いて、取り入れたいこと、参考にしたいところはたくさんあります。ただ、根本的なところは「美しく、なおかつダイナミックに」を目標に、色々な技術を吸収して、自分の形に出来たらと思っています。

-:四位さんも先日、調教師試験を受けられて、富田さんの名前を挙げられていましたね。トレセンの人なら知っていることでしょうが、驚いた方は多いのではないでしょうか。

富:沢山の方にもその話をされましたね。四位さんには、競馬学校生の頃からずっと見ていただいていていました。当時は武英智さん(元騎手、調教助手→現調教師)も厩舎にいて、(所属厩舎の)木原厩舎の大仲で、缶の上に乗りながら騎乗姿勢をとるというトレーニングをずっとしていました。不安定なバランスの中で、騎乗姿勢をとるところを見ながら指導をしてくださっていて、本当にそれが今の僕の基礎にもなっています。そこまで言っていただいて、本当に嬉しいといいますか…僕も、もっと乗せていただけることが相応しいジョッキーにならないといけないですし、四位さんが厩舎を開業されるその時までに、僕も成長していたいと強く思いましたね。

-:下半身の強さ、バランスも必要ですよね。

富:最初はずっとグラグラしていて、脚もパンパンになりました。正直、僕の競馬学校時代は成績もビリだったので、そのトレーニングがなかったら、もっと乗れない馬もいたと思います。ただ、そのトレーニングを毎日やったことで、ちょっとずつ自分の中で自信がつきましたし、乗りこなせなかった馬に乗れたりするようになりました。騎手としてのバランス感覚も教えていただいて、本当にそのお陰です。

富田暁騎手

▲デビュー前の富田暁騎手

-:主に四位さんと元ジョッキーの武英智さんに教わっていたのですね。

富:そうですね。四位さんは、今でも分からないことを聞いても教えてくださいますし、その周りの古川(吉洋)さんや(松田)大作さんにも大仲で教えていただきました。たくさんの人のお陰で、今の僕があるなと思っています。それは木原(一良)先生の人柄があってからこそだと思いますので、本当に恵まれていましたね。

-:若くしてそこまで周りに感謝できるというのは素晴らしいですね。

富:いや、本当に今まで人にだけは恵まれてきたというか、それだけは自信があります。小、中学校でも素晴らしい先生にも出会いましたし、高校の時もそうだったし、競馬学校の時も本当に人に恵まれて、今があります。

-:「トレーニングをしている」という話だったのですが、レースを観たりする部分も大事ですよね。

富:もちろんレースは毎回観ていますし、乗る馬だったら、馬の癖も他のジョッキーに聞いたり、映像も観ます。相手関係も把握するように務めています。週末のレースを全部振り返ったりもするようにはしていますね。

-:騎手として馬具や、道具へのこだわりはありますか。たとえば(鮫島)克駿騎手にも話を伺ったところ、こだわりがあると感じました。

富:僕はそんなにはこだわっていないのですが、鐙など色々試してみて、やっとこれが良いかなという考えが固まってきました。ただ、克駿先輩ほど拘りはないです(笑)。馬具もお金がかかりますからね。

乗馬未経験のサッカー少年が一念発起 関西でジョッキーへ

-:同期の川又賢治騎手にもお聞きしましたけど、二人はほぼ馬乗りの経験がない状態で競馬学校に入られたんですよね。

富:はい。川又とは一入学前の研修からずっと緒だったのですが、川又はすごくセンスがありましたし、競馬学校の成績も上位でした。僕はメチャクチャ悔しかったですし、試験の度に泣いていた思い出があります。ずっと負けていたので、今でも同期として尊敬していますし、アイツには負けたくないなという気持ちはずっと持ってやってきたので。

-:お二人ともライバル心はあるのですか。

富:いや、向こうはどう思っているか分からないですけど(笑)。僕はやっぱり関西は二人だけの同期なので、意識していないと言ったら嘘になるところはあります。もちろん普段から食事にいくこともありますし、仲はいいですけどね。やっぱり二人で切磋琢磨して、先輩方に食らいついていけたらと思っています。

富田暁騎手

▲2017年4月22日に初勝利(右は同期の川又賢治騎手)

-:高校の時はサッカー部だったということですが、元は関東の出身なんですね。しかし、関西のジョッキーになられたと。

富:美浦からは遠いのですが、茨城の水戸です。

-:茨城県でなぜ関西に?

富:もともと僕は栗東を希望していました。美浦の同期3人が全員関係者ですからね。彼ら(木幡育也・武藤雅・横山武史)がいるとなると、やっぱり栗東の方がチャンスはもらえるのかなと思い、ずっと希望していましたね。

-:それに関西の方が若手は育ちやすい環境がある印象はありますけどね。

富:そういう面もあり、こちらを選びましたね。学校の先生が僕を紹介してくれて、木原先生のもとへ来ることになりました。

-:競馬を志すキッカケというのはお父さんの影響なのですね。

富:もともと背も低かったので、親に小学校くらいの時から勧められていました。もともと父が競馬ファンで。

-:でも、身長は決して低くないのではないでしょうか?

富:今はちょっと高くなりましたね。その時は本当に小さかったので。僕はサッカーが大好きで、ずっとやっていたので、その時はまだ本気になれなかったのですが、本気で目指し始めたのは高校からです。高校に入ってから将来何になるのか、考える授業があって、そこで、僕もこのままズルズル行ったら、自分のやりたいことが出来ないなと思いたって、ずっと気にはなっていたジョッキーを目指してみよう、トライしてみようと。

「学校に入ってからはメチャクチャ大変だった気がしますね。訓練が終わった後にも、僕だけ追加で、障害を飛んだり。本当に馬にも申し訳なかったですし、できない自分に腹が立ちました…」


-:じゃあジョッキーを志す前はあまり騎手や馬について詳しかったわけではないですか。

富:本格的に競馬を見始めたのが高校くらいからなので、ユタカさん(武豊騎手)くらいしか知らなかったし、馬もディープインパクトくらいですね。やっぱり未成年でもあり、周りに競馬が詳しい人もいなかったですし、僕も騎手を目指し始めたことは、サッカー部の仲間にも言っていなかったです。受かって初めて言ったくらいで、それまではみんなサッカーを真剣にやっているので、僕だけ部活を抜けるのはやっぱり嫌だったので、真面目にやりつつ受験しました。

-:日々、学校もありながら受験の準備は大変ですよね。

富:高校の先生が、美浦の中野栄治先生とつてがあって、僕を紹介してもらった時に、色々な話を聞かせていただきました。それで、美浦の乗馬苑に行かせてもらって話を聞いた時に「癖がつくから、今から乗馬はやらない方が良い。入ってから乗って、敢えて未経験のまま消化した方が良い」と言われて。

-:では、最初はかなり大変だったのではないでしょうか。

富:そうですね。学校に入ってからはメチャクチャ大変だった気がしますね。訓練が終わった後にも、僕だけ追加で、障害を飛んだり。本当に馬にも申し訳なかったですし、終わったのにまた使ってやっていたので、その中でも自分に腹が立つというか、できない自分に腹が立ちましたし、ドンドン悪循環になったというか、その時は留年すると思っていたほどで…。

-:サッカーだったら、ボール1つあれば家に帰っても練習出来ますけどね。競馬は木馬があっても、やっぱり馬に乗る感覚との差はあるでしょうし、難しいところですよね。

富:こればっかりは馬ありきのことですからね。1鞍1鞍どれだけ意識を持ってやれるかだと思うのですが、この時はまだその意識も足りていなかったので、今思ったら、もっとやれること、できたことはあったなと思いますね。

2年目の決意 海外武者修行を準備中
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