注目のルーキーが幸先よく初勝利一番乗り。2013年のジョッキーベイビーズを優勝し、競馬学校でも騎乗技術が最も優秀な生徒に贈られるアイルランド大使特別賞を受賞したルーキー・斎藤新騎手。父がG1トレーナーの斎藤誠調教師、安田隆行厩舎所属ということもあり、デビュー前から話題を呼んだが、早速小倉開催2日目に2勝を挙げ、その名を更にアピールした新星を早速直撃した。

焦り、戸惑いのデビュー当日 小倉で7鞍に騎乗

-:デビューイヤーに2勝を挙げられた斎藤新騎手ですが、おめでとうございます。まず、クーファピーカブー(牝3、栗東・浅見厩舎)に騎乗したデビュー戦を振り返っていただけますか?

斎藤新騎手:本当に緊張と不安しかなくて、下見所に集合した時から緊張感がバッと来て、返し馬を終えてポケットで回っている時も緊張していましたね。ゲートに入ったら、もう集中モードに入ったのですが、やっぱりゲートを出てからは、デビュー戦が1000mだったこともあって忙しくて、何が何だか分からない内にゴールを切っていたような感じでした。

-:なかなかポジションが定まらなかったというか、もうちょっとそこでキープ出来たら良いのにな、という気はしましたね。

斎:本当にチグハグな競馬になってしまいましたね。馬がシッカリ走ってくれたのですが…。

-:クーファピーカブーもすぐに勝てそうですね。

斎:そうですね。オーナーさんサイドからも「1回で終わりじゃなく、またよろしくお願いします」ということで、頼んでいただきました。

-:今後の宿題が出来た訳ですね。

斎:次こそは結果を残せるように頑張りたいですね。

斎藤新騎手

-:2レースは父である斎藤誠先生の馬(キモンカラー(牝3、美浦・斎藤誠厩舎))に騎乗されましたが、この馬はいかがでしたか?

斎:土曜日は7連続騎乗で、いま振り返ると全部焦っていました。本当にチャンスのある馬に一杯乗せていただいて、結果を出さなきゃ、結果を出さなきゃ、と勝ち急いでいた部分もあって、2レースも全く競馬を知らない状態で迎えてしまいました。まだ、馬を全然コントロール出来ず、流れも把握出来ず、という感じでしたね。

-:それを活かそうとして、3レースには向かっていたのですね。

斎:そうですね。ただ、1、2レースというのも、そんなに甘くはないとは思うのですが、勝ち負け出来る馬だと僕の中でも思っていて、そこで思うように結果が出せなかったので、それが本当に焦りに変わってしまい、逆にドンドン悪い方向に向かってしまったというのがありましたね。

-:初日にして、気持ちを切り替えることの重要性を思い知ったという感じだったのですね。

斎:はい…。

-:前の晩からも1レースからずっと乗ることは分かっていたでしょうし、個々の馬についてどういう競馬をしようかという、自分なりの理想的な作戦があったと思うのですが、それがなかなか思うようにいかなかったということですね。

斎:相手関係含め、色々と調べて自分の中で組み立ててはいたのですが、いざゲートを出たら、やっぱり多頭数ですし、思っていたようなプランが全部真っ白になってしまいましたね。

-:思ったシミュレーション通りにはいかなかったということですね。競馬学校時代にもちろん模擬レースというのを経験されている訳ですけど、実戦はどうでしたか。

斎:まず、ペースも全然違いましたね。速かったですね。どのレースにしても、自分が「置いていかれている感」がすごくありました。横の馬との間隔もタイトですし、どこまで近付けて良いのかな、前の馬との距離もどこまでが安全なのか、全く分からない状態だったので。

-:そういう意味では、戦法としては出来れば逃げ切りというのが一番優しいというか、新人ジョッキーにとっては勝ちに近いレースなのかなと。

斎:そうですね。ただ、最初に逃げても、ペース感覚もまだ分からないですし、オーバーペースになったり、逆に遅すぎて捲られたりというのもあると思うのですが、土曜日のレースでも逃げようと思っていた馬が何頭かいた中で、全部逃げられずに終わってしまったので。

-:その逃げられなかった、出脚がつかなかった感覚を詳しく教えていただけますか。

斎:僕が乗る前に騎乗されていたジョッキーは逃げられていたのに対して、今回僕が逃げられなかったというのは、多分、僕のスタートの押し込み方とか、まだまだ技術が足りないのかと思います…。

-:技術が身に付いてきていないというところがあったかもしれないということですね。

斎:はい、そうですね。

先輩ジョッキー、師匠からの声を励みにたどり着いた初勝利

-:土曜日が終わって、寮で1人になった時は反省がありましたか。

斎:その時は先輩ジョッキーが部屋に来て下さって、色々と話を聞いて下さりました。「本当に思うように結果が出ないんです、自信がないです」みたいな話をしたら「勝つときは勝つから」と。

-:ちなみにその先輩というのは。

斎:横山武史先輩でした。僕はずっと乗馬苑の頃からすごく面倒を見てもらっていたんですよ。

-:小倉リーディングですね。

斎:そうですね。すごい活躍をされていました。アドバイスをいただき、そこから気持ちを切り替えました。

斎藤新騎手

▲師匠であり、元騎手の安田隆行調教師と

-:それが、日曜日の初勝利(小倉3Rのアルファライズ(牝3、栗東・安田隆厩舎))に繋がったということですね。

斎:それもありますし、初勝利の時の返し馬に行く時に、(安田隆行)先生から「落ち着け」と声を掛けていただいて、そこで気持ちがフッと戻ったというのもあったと思うんですよね。

-:その時は、先生がトウカイテイオーでダービーに出たことを想像しましたか。

斎:いや、していないです、ハハハ。そんな余裕は…(笑)。

-:「落ち着け」というのは、20頭立ての20番枠で迎えたダービーを、先生はどんな気分で返し馬にいったんだろうなと。

斎:それを考えればへっちゃらですね。

-:そこで先生にアドバイスというか、ちょっと「落ち着け」と言われたことで、土曜日の返し馬と違う雰囲気で馬と向き合えたということですね。

斎:そうですね。より周りを見られたかなというのは、自分でも思いますね。

-:その勝利したレースなのですが、これも別にポジションを取れていないというか、差してきたレースだったのですが、抜け出す時の手応えというのは、前の馬との距離がだいぶあったのですが、勝てる感触はありましたか?

斎:3コーナーの時点でも、僕もけっこう手応え的に早めに動いていて、届くとは思っていなかったのですが、勝つという欲ではなくて、ただ、ひたむきに1つでも着順を上げる、という意識に変わっていた部分もありました。それが逆に良い方向に行ったのかもしれません。勝ち急いでいた部分から、自分の気持ちの面で一つ余裕が出来たのかと思いますね。

-:その気持ちの部分が馬の末脚を残していたということなのですか。

斎:そうかもしれないですね。

斎藤新騎手

-:最後は藤岡康太ジョッキーの馬(クリノオウジャ)がかなり追い込んできていたじゃないですか。ゴールした瞬間はおそらく勝ったかどうか怪しいくらいの着差だったと思うのですが、ゴール直後に先輩ジョッキーからの声掛けはありましたか。

斎:康太さんもどっちが勝ったか分かっていなかったので。周りからも声を掛けられることはゴールした段階ではなかったですし、これはまた2着か、という心境だったので、何かちょっとモヤッとした感じで帰ってきて…(苦笑)。勝っていて欲しいな、という思いはあったのですが。

-:それで、小倉の検量室まで戻ってきて、スタッフの方が声を掛けてくれたのですか。

斎:僕も枠はずっと気にしていて、どっかな、どっちかなと。先に上がってきた時に、担当の方が待っていてくれたので、あの時に勝ったんだなと。

-:勝った馬というのは所属する安田(隆行)先生の管理馬なのですが、調教では跨っていたのですか。

斎:競馬学校を卒業して、こっちに帰ってきてからは乗せていただいていなかったですね。

-:実戦の一発勝負で結果を出したということですね。

斎:そうですね。本当に馬に助けられた感じですね。

「初勝利をあげた時に『おめでとう』と言ってくれました。安田(隆行)厩舎の馬で勝ったので「お父さんとの2ショットで」とカメラマンの方から求められた時に「ウチの馬ではないなぁ…」みたいな話をしていましたね(笑)」


-:お父さんから何かお褒めの言葉はありましたか。

斎:初勝利をあげた時に「おめでとう」と言ってくれました。安田(隆行)厩舎の馬で勝ったので「お父さんとの2ショットで」とカメラマンの方から求められた時に「ウチの馬ではないなぁ…」みたいな話をしていましたね(笑)。

-:「人気馬に乗せているんだから、ウチの馬で勝てよ」みたいな感じですかね。

斎:ハハハ。土曜日もダメで、日曜日の1レースが2着だったんですよ。

-:デビュー週は2勝2着2回ということでしたね。人気に応えられなかった申し訳なさはあるかもしれないけど、良かったんじゃないですか。

斎:そうですね。自分の中でも、あまり自分を責め続けても、やっぱり最初は悪いところばっかり出てくるものですし、良いところを見つけることは大変なので…。ただ、自分の中で2勝出来たということは、ちょっとでも自分を救うというか、自分の気持ちにゆとりを持てる方が、今後のレースにも余裕が持てるかなと思いますね。

-:すごいと思うのは、やっぱり他の同期のジョッキーは、下の人気の馬ばっかり乗ることもあったじゃないですか。それで、あれだけ上位人気の馬の跨ったというバックアップ体制の強さは、やっぱり安田(隆行)先生もすごいと思うし、お父さんの斎藤誠先生もすごいと思うし、その2人の師匠から派生した体制がないと出来ないですからね。

斎:そうですね。感謝しかありません。安田(隆行)先生、斎藤先生、浅見先生や皆さんにはデビュー週で下手なのが分かっていながら、上位の人気の馬に乗せていただいたり、本当にありがたいですね。

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