頂点目指して いざ世界ナンバーワンへ シルクレーシング米本昌史代表
2019/3/27(水)
世界の頂点を目指し、中東の地で調整されるアーモンドアイ。国内統一を目指し大阪杯に臨むブラストワンピース。彼らは『常識』に捉われず、新たな地平を切り開き急成長し続けるシルクホースクラブの所属馬である。躍進を続けるクラブの舵取りを担う米本昌史代表が、異例のローテーション、そしてクラブの現状、将来を、世界挑戦前のタイミングで語る。
-:アーモンドアイ(牝4、美浦・国枝厩舎)の年度代表馬選出、改めておめでとうございます。正直なところ、この馬は当初から期待度は高かったのでしょうか?
米本昌史代表:当初という意味で言うと、デビュー戦のレースを見てからですね、期待度が高まったのは。もちろんそれ以前にもスゴくいい馬だという評価をデビュー前から頂いていました。国枝先生もこの世代のもう1頭であるキングスヴァリューと共に、「牡、牝共にスゴいよ」とおっしゃってくれていたので、期待はしていました。ただやはり、新馬、未勝利戦のあたりから「これはちょっとスゴいな」と感じていました。
-:育成時もいい報告を受けていたのでしょうか?
米:いい馬だという報告は受けていました。ただ兄たちの成績がそこまで良くなかったこともありますし、順調にきている馬の1頭という印象でしたね。
-:米本さんがアーモンドアイで夢を見られたのはどのあたりだったのでしょう。
米:シンザン記念ですね。道悪で出遅れてしまったのですが、最後の脚を見て、これはとんでもない馬じゃないかと思いました。
-:桜花賞、オークスと無事に突破し、三冠の期待も高まりました。プレッシャーはありましたか?
米:私の仕事は、馬のベストな選択をする立場だと思っています。秋華賞は一番いいチャレンジだと思っていましたし、不安よりしっかり結果を出してくれるよう、あとは国枝先生はじめ現場の方々に託すのみでした。
-:そして迎えた三冠最終戦の秋華賞は豪快な末脚で圧勝しました。
米:とんでもない馬だと思いましたね(笑)。正直秋華賞は届くのか届かないのか、少し心配になるような位置取りでしたし、ジョッキーもレース後ビックリしたと言っていました。ただその後歩様が乱れ、不安になったのは覚えています。
-:しかしその後、ジャパンCを使える状態まで回復されました。回復力も驚異的ですね。
米:秋のローテーションを考えた時、元々秋は2戦使うと決めていたのです。トライアルから秋華賞に行くのか、それとも秋華賞からどこかに行くのかという選択でした。これだけの馬なのでジャパンカップにチャレンジしたいという思いがありましたし、ジャパンCで結果を出せれば翌年は当然世界にターゲットを移すことになります。そういう意味で、秋華賞からジャパンCに行くというプランは早い段階で決めていました。秋華賞の後の回復具合というのは、春先大事に使ったこと、そして成長したこともあり、思いのほか順調に進められたのが大きかったです。
世界へ挑むアーモンドアイ
-:シンザン記念から桜花賞という『異例』のローテーションの効果が大きかったのですね。
米:そうですね、あそこで成長を促す過程を挟んだのが後々、馬の成長に寄与しているのは間違いないと思います。
-:ジャパンCの勝ち時計2.20.6は驚異的なものでした。米本さんご自身も驚かれたと思います。
米:最初はロンジンの時計が止まったのかなと思いましたよ(笑)。その後競馬場がざわめいて…。時計が速過ぎたので、馬が無事かどうかという心配のほうが大きかったです。
-:アーモンドアイの場合はよく異例のローテーションが注目を集めていますが、米本さんはローテーションについてはどのようにお考えなのでしょうか。
米:馬のコンディションから逆算して現場から提案いただいていますし、一番いいパフォーマンスがどのようなローテーションで発揮されるのか、僕が考えるより現場から答えをもらっている感じです。僕自身この仕事の経験がそこまでない分、皆さんの言われる『常識』がそこまで染みついていないのかもしれませんが、実際結果も出ていますし、異例というのは皆さんの思われているスタンダードとは違うだけかなと考えています。
-:今後アーモンドアイのローテーションがスタンダードになる可能性も…?
米:あくまで馬ごとですね。スタンダードという決め方は、僕はあまり気にしていません。馬ごとにもっと使える可能性もありますし、一度使って力を出せる馬であればステップレースを挟みます。馬ごとに決めていきたいです。
-:もちろん馬の状況次第でしょうが、アーモンドアイのドバイ後のプランは考えていらっしゃるのでしょうか。
米:皆さんに色々聞かれますが、まずはドバイで結果を出してもらわないと始まりません(笑)。その先については正直決めてはいません。まずはドバイで結果を出してほしいです。ドバイターフもスゴいレースですから、ここで結果が出せれば、次は更なる高みを目指したいと思います。
-:JRA授賞式では、最優秀3歳牡馬に選出されたブラストワンピース(牡4、美浦・大竹厩舎)でも「更なる高みを目指す」とおっしゃっていましたね。
米:ブラストワンピースの父であるハービンジャーは、種馬として多くの可能性を秘めていると思います。私たちは適鞍を探すだけだと思いますね。海外遠征は賞金に加えてリスクの問題もありますから、ベストなチョイスをしたいです。
ブラストワンピースは大阪杯で2度目のG1制覇を目指す
-:すでに多くの招待状が届いているのではないですか?
米:これからですね(笑)。JRAさんが海外馬券を売るようになってから、色々な国からお声が掛かるようになりました。海外の皆さんも日本の競馬を研究していますからね。ただ凱旋門賞も自己負担で行かないといけませんし、馬券を売るのであればもう少し補助があれば…と思います。会員さんの負担がなるべく増さないようにと考えています。
-:米本さんがシルクに入られたのは2013年とお聞きしていますが、クラブとして6年余りで変わった点はありますか?
米:まずは仕入れがうまくいっている分、馬のレベルが格段に良くなっています。育成をお願いしている外厩さんとトレセン、ここの連携もスゴく上手く行っているとも思いますね。関東馬で言えばノーザンファーム天栄という充実した育成場を使ってトレセンへ送り出し、受け取ったトレセンがレースに送り出す…西もそうですが、この流れがうまくいっているからこそ、今の結果があると思います。
-:今、もっとも注目を集めるクラブとなりましたが、今後に向けて課題はあるのでしょうか?
米:課題はたくさんありますよ。もちろん馬の結果が全てですが、当クラブは会員さんに楽しんでいただく、エンターテイメントを提供する会社だと思います。馬の成長も、言い方に語弊はありますが、うまくいかないことも含めて楽しんでいただくと言いますか、こちらからもっと情報発信しないといけないと思っています。現場は命がけで馬を作ってくれていますし、その臨場感を伝えていけるような仕掛けをより作っていきたいです。それが会員さんにもっと楽しんでいただけることに繋がると思います。
-:楽しむということで、今後はより積極的に海外に目を向けることもあるのでしょうか?
米:そうですね。競走成績という意味でも海外遠征というチャレンジはしますし、様々なITを駆使して、会員さんが出資されている馬の育成状況を動画などを公開し、より会員さんを楽しませていきたいです。昨年春のプレストウィックの海外遠征も、チャレンジとしては残念なものになってしまいましたが、シドニーCは素晴らしいレースです。他にも世界中には様々な素晴らしいレースがありますから、常にアンテナを張って、その馬の適性に合うレースを探すのも僕の仕事だと思います。
-:今年のシルクの目標を教えてください。
米:G1の1勝も未勝利の1勝も、喜びという意味では僕は一緒だと思っているのです。1頭1頭の適鞍を見つけて、プロがしっかり仕事してもらえるようなマネージメントができれば会員さんも喜んでもらえるでしょうし、おのずと結果もついてくると思います。とにかく1頭1頭、ブラストワンピースもアーモンドアイも未勝利馬も、全部の所属馬にその馬にとって一番いい選択をしたいです。それが僕の目標であり、使命だと思います。
ジャパンCで優勝トロフィーを贈呈される米本代表
プロフィール
【米本 昌史】 Masashi Yonemoto
1975年、東京都生まれ。不動産業を経て、2012年ノーザンファーム入社。13年よりシルクレーシングに携わり、現在は有限会社シルクレーシングの代表取締役を務める。「僕自身この仕事の経験がそこまでない分、皆さんの言われる『常識』がそこまで染みついていないのかもしれません」と本人は語るが、これまでにないローテーションで頂点を究め続けるシルクホースクラブの中心的存在として、更なる高みを目指し続ける。 世界の頂点を目指し、中東の地で調整されるアーモンドアイ。国内統一を目指し大阪杯に臨むブラストワンピース。彼らは『常識』に捉われず、新たな地平を切り開き急成長し続けるシルクホースクラブの所属馬である。躍進を続けるクラブの舵取りを担う米本昌史代表が、異例のローテーション、そしてクラブの現状、将来を、世界挑戦前のタイミングで語る。