マスターフェンサー 最高峰の舞台でも泰然自若で健闘 快挙目指す
2019/6/2(日)
日本競馬の歴史を塗り替えるか。5月に行われたアメリカ競馬の三冠初戦・ケンタッキーダービーでは6着に健闘したマスターフェンサー。日本でも重賞タイトルはおろか、2勝の実績。優先出走権を手にして、急遽の出走となったが、持ち前の末脚を発揮して、地力をみせた。中4週というタイトなローテーションながら、日本調教馬最先着のパフォーマンスをみせられたのか。ベルモントSでの可能性は。管理する角田晃一調教師がたっぷりと語ってくれた。(取材=競馬ラボ小野田)
-:マスターフェンサー(牡3、栗東・角田厩舎)と挑んだ前走のケンタッキーダービーは戦前にもお話を伺いましたが、未知の条件でのレースだったと思います。その中で追い込んで6着という結果。現地でレースを観られて、どんな感想をもたれたでしょうか。
角田晃一調教師:実際、1頭で検疫厩舎に入ると、馬が寂しがったり、ナーバスな面も見せていました。そこから空輸で輸送をして、向こうでも検疫を受けて、その時も正直、寂しい体でした。気配ももう一つの状態に見受けられたのですが、キーンランドに移ると、レース当日までドンドン日を追う毎に馬の状態が良くなっているように感じて、“これだったら”というほどでしたね。日程もすごくタイトな中、馬が本当に頑張ってくれましたし、競馬を使った後も、疲れを取りながら調教を進めて、今回はより良い状態で臨めるんじゃないかなと思いますね。
-:伏竜ステークスから中4週でのレース。それ以前もコンスタントに走っていた上、中山、東京と遠征競馬以降のアメリカ遠征ですから、タフですね。
角:普通はそこでガタッと来ておかしくないところ。それどころか、逆に良くなってきているので。
▲ケンタッキーダービーの走りに手応えを掴んだ様子の角田晃一調教師
-:条件的には、レース前の先生の話からも、ケンタッキーダービーよりも今回のベルモントステークス(G1)の方がチャンスはあるのかなと感じていました。
角:プリークネスSを使った陣営よりも、状態面のアドバンテージがあるでしょうし、頭数も減るでしょう。距離適性も長い方が良いと思いますね。日本でも1600mのダートを使っていたのですけど、ちょっと追走に苦労したところがありましたし、2000m戦ながらすごく速いペースで、付いていけなかったので、最初はどうかと思ったんですけどね。状態やデキの良さも含めて、「最後は差してくるから」とジョッキーに伝えて、ロングスパートを掛けてもらったのですが、頭数が多かったので、最後はちょっと進路を迷うところもあったみたいです。
-:向こうの砂は日本と違うと思います。こなせるとは限らないわけで、しっかり走ってこられましたね。
角:違いますね。ポリ(トラック)とダートを混ぜ合わせような砂で、時計は出やすいです。雨が降ったら、また別モノといった状態。ぬかるんだ田んぼの中を走っているような…極端に言えば、田植えの時期に歩いているような感じですね。
-:未知な部分ではあるでしょうが、向こうのダートで雨がない状態と、雨が降っている場合、どちらの方が良さそうですか。
角:走らせたことがないから、分からないですけど、雨があった方が良かったんじゃないかなと思います。レース当日の状態も、ドシャ振りの雨が前日の朝の調教で降って、レースの時と同じような馬場状態になったんですよ。それで走らせたところ、問題なかったですし、逆に良馬場の方がペースは速いらしく、不良馬場の方が時計は掛かるらしいですからね。速いペースがどう出るか分からないですけど、逆にアメリカの馬が止まってくれたらと思っていました。実際に馬と一緒に馬場を歩いたんですけど、ブーツが持っていかれそうでしたからね。その場で脱げそうな感じで、日本のダートだったら、パシャパシャしたような馬場。脚ですぐ抜けるんですけど、違いますね。
-:地方競馬のダートで水分を含むとくっ付きやすいのとはまた違う訳ですね。
角:砂の質が違いますからね。良馬場だとまた違って、粉のような感じなんですよね。次のベルモントの方が日本の砂質とは違うと聞いているので、新たに適応していかないといけないですね。
▲レースから引き上げてきたマスターフェンサー 馬場状態も窺える
-:となると、アメリカ用に蹄鉄も替えられるわけですよね。
角:この前も替えましたし、トモの方に歯が付いている向こうの蹄鉄を使っているので、周りと条件は一緒ですね。
-:馬によって向こうの鉄が合う、合わないというのはあるのですか。
角:歯がついた蹄鉄を履いたら、前脚に影響する馬が中にはいるらしいですけどね。そういう意味でも、脚元は丈夫です。
-:左回りも良かったですか?
角:それは関係ないですね。どちらかと言うと、手前を替えるのは苦手。ベルモントは大きな競馬場なので、ちゃんと替えられるか、心配していますね。チャーチルダウンズは小回りなので、馬がキツいからパッと替えやすいんですけど、コース替わりがどう出るのか。対策のため、ジョッキーにも2回乗ってもらう予定にしていますし(1週前追い切りは飛行機の都合で乗れず)、スタッフもそれを含めて、対応してやっているので。
ベルモントSのゴール前 内から追い込んだマスターフェンサー
-:ジョッキーは、レース前と後でどんな話をされていましたか。
角:ゲートが遅いということも伝えていましたし、「ロングスパートを掛けて」ということは言ってあったので、それなりに対応してくれました。レース後も、上がってきて鞍を下ろすか下ろさないくらいの時に「ベルモントSが良さそう」ということは言っていて、プリークネスSとは一言も言っていなかったですしね。折り合いに関しては大丈夫なので、あとは捌いてくれるかですね。
-:そして、見た目にもすごい勢いで追い上げていましたが、上がり最速だったそうですね。
角:今回のレースでもそうですし、聞くところ、ケンタッキーダービー史上でも2番目に速かったらしいですね。後ろから行ったからこそ、という面もあるのですけど、距離が延びても末脚の確実さは大丈夫かなと。例えると1200のペースくらい、アメリカの馬は速いですからね。それを持たせるという競馬だから、日本の先行馬は厳しそう。逆に、掛かる馬を何とかなだめて、末脚を発揮させるような馬を連れていった方が良いかもしれない。そう感じました。
-:アメリカの血統馬も、日本で走って、テン重視の性質を持っているだけのことはありますね。
角:どうしても最後は止まって、粘ったもの勝ちみたいな感じがありますから、ケンタッキーダービーを目指して、その先のベルモントSの2400mを走らせるようにつくってきているタイプはいませんからね。
-:もちろん目指すべきは勝利だと思いますが、ベルモントSに続けて使える点、次回へ向けて収穫のある内容でしたね。
角:オーナーとしてもなかなかチャンスが巡ってくることではないですし、もともとアメリカのセリで馬を買っていらっしゃったりして、向こうの競馬に精通されている方。オーナーの関係を含めて、色々な人に助けてもらい、協力してもらって、無事に出走出来ましたからね。今度はベルモント。皆の経験が少ないニューヨークですし、キーンランドとは違うので、環境には慣れないと思いますけど、装蹄師さんは一緒です。獣医さんも、JRAの獣医さんは治療が出来ないので、専門的な薬の成分を調べてもらった上で、向こうの獣医さんと話をしてもらおうかなと思っています。こちらのニュアンスを伝えるのはなかなか難しいですからね。
-:馬具の心配はなかったですか。
角:もともとそんなに乗り難しい馬ではないので、それはありませんでした。物見もすることもないですからね。それよりも、ポニーを付けたり、ゲートボーイは初めてのことだったので、全部練習して、万全の状態にして、挑みました。ゲートボーイもゲートの上に上がるので、普通だったら馬がビックリすることもありますからね。それでも、経験したことがあるような雰囲気で、本当に初めての遠征なのかな?という感じでしたね。
-:アメリカの血が騒いだのですかね。お母さんはアメリカのセリ出身の馬ですよね。向こうでの調教は、こちらとは環境が違うと思います。どういったメニューだったのですか。
角:基本、坂路やチップなどもないので、もちろんトラック調教になります。角馬場のような施設もないので、運動はこちらよりも負荷が掛かりにくいのは事実ですね。乗り運動からドンドン延ばして、調教はまずポニーに付いて、速歩と軽いハッキングからしました。あとは馬場で1周は放してもらって、1周半か2周くらいでしょうか。そこは現地のスタッフと話をしながら決めました。2400を走るので、あまり太目感のない、本当にギリギリの仕上げという風には伝えているので。でも、アバラも薄っすら浮いているし、良い状態をキープしていますね。
-:本質的に太りづらい方なのでしょうか。
角:兄弟は太りやすいところもあったりするのですけど、タイプがまた違うのでね。どちらかと言うと、兄弟よりも距離が持つ感じもしますし、折り合い面も、お兄ちゃんのエポックは1200や1400でも行きたがる馬でしたからね。2000でこれだけ楽しみなレースをしてくれましたし、未知な距離でしたけど、距離適性という意味では、心配はしていなかったので。
-:水やエサも問題はなかったと。
角:それも、向こうに行ってからは何も気にしないくらいペロッと食べてくれました。むしろ現地スタッフに電話で聞いた時に「エサの時間なので、すごく欲しがるくらいだから」と言っていたので。水も飲みますからね。やっぱりキーンランドの環境は良かったらしいですね。
-:すごく初歩的な話ですけど、エサは向こうのものになりますか。
角:向こうで現地調達ですね。こちらのエサを持ってこられないという話もありましたし、向こうのルールがありますからね。
ダービージョッキーでも感動する雰囲気 馬は大観衆の前でも悠然と
マスターフェンサー・角田晃一調教師インタビュー(2P)はコチラ⇒