今村聖奈騎手インタビュー【第2弾】迎えた2年目 強まる責任感
2023/4/30(日)
-:1年間騎乗して得た収穫の中で、一番大きかったと感じるものはなんでしょうか。
今::収穫は本当に多いです。その中で特に挙げられるのは"責任感"ですね。生産者の方、馬主さんの方、担当者の方の思いを最終的に受け継ぐのはジョッキーですし、悪い騎乗をすれば皆さんの努力が水の泡になります。
勝った後に皆さんが喜んでいるのを見るとやり甲斐を感じますし、負けた時もっとこうしておけばよかったと感じる時もあります。
-:"リレーアンカー"の責任ですね。
今:例えば3歳未勝利で最後ギリギリ勝たせてあげられるかどうかでその馬の運命も変わってきます。競走生活も変わってきます。競馬学校時代はまだ"守ってもらえる環境"だったんですよね。気持ち的には当時のほうが全然しんどい思いをしないわけですから、今でも競馬学校時代に戻りたくなる時は正直あります。
でもこれを同期の(角田)大河に言ったら、「それは自分が楽したいだけじゃないか。今いる環境がしんどいから逃げたいだけじゃないか?」と言われたんです。
-:2023年の目標はどのようなものだったのでしょうか。
今:明らかな数字を掲げると自分がしんどくなってしまうと思ったので、まずは1年間ケガなく、そして通算100勝は最低限達成するという目標は持っていました。場数も踏んで経験を積んで考えも変わりましたから、成長した姿を皆さんに見せたいという思いがありました。
-:今年ここまで15勝(4月24日時点)していますが、今年、現状の満足度は……
今:全然ないです。自分の中でレースの内容が良かったと思えることはほとんどなかったですし、以前ならレース終わった後も自分の中でうまく乗れたと身近な人に話すこともありましたが、今はうまく乗れなかった、自分がもっと上手く乗っていれば勝てていたかもと思うレースが増えました。
-:この流れで、今年のレースを振り返っていきましょう。まずはゴールドシップ産駒メイショウブレゲで勝った1月22日小倉、海の中道特別のお話を伺います。この騎乗は想定通りの騎乗だったのでしょうか。
今:ある程度想定通りのレースができましたね。長い距離ですし、どれだけリラックスさせて道中走らせられるかが鍵だと思っていました。馬場が悪かったですし、直線みんな外に出すことも予想通りでしたね。ムチを入れるとヨレるところがある馬なので、ハンドライドで追うことも意識して乗れました。
-:レース前の研究はどのくらい行われるのでしょう。
今:する時もあります。週末の騎乗予定馬を見て、初めてレースで乗る馬が多い時は逆に考えないようにしています。乗ってる馬が多い時もこうしないといけないと思い込み過ぎないよう、あえて新聞を見ない時はありますね。
-:研究する場合は自宅で過去のレースを見ながらやっているのでしょうか。
今:それもありますね。週中はパトロールVTRを見たりしています。
-:個人的には小倉のイーサンバーニング(2月18日、4歳上1勝クラス)は素晴らしい騎乗に感じました。
今:あれは完璧に乗れましたね!父に「久々に完璧に乗れた!」と言ったレースです(笑)その前のレースを見てもこの馬は反応がズブかったんです。角田大和騎手が追い通しだったくらいで……。厩舎の人にもズブいって言われていたんですよ。それであまり固定観念に捉われないことにしたんです。
なんでズブいかって、序盤にポジションを取りに行かせることで最後しんどくなるからじゃないかと思い、序盤遊ばせるように乗って、馬の気持ちが乗ったところで進ませればいけるのではないかと考え、自分の感じたままに乗ったんです。
-:逆転の発想ですね。
今:そうしたら馬がスイスイ動いて(笑)。この馬に乗ったことがある先輩の皆さんにも「なんでそんなにスイスイ動くん??」と言われましたね。何が一番良かったのかは分かりませんが、自分の中では上手く乗れたと思います。
-:今少し話に上がりましたが、お父様(今村康成元騎手)とはレースの話をされるのですね。
今:父には日曜の競馬が終わった後、必ず電話しますね。たまに厳しいことを言われた時にプツンときて「はい、わかりました、失礼します」と電話を切ってしまうこともありますが(笑)、こういう時にハッキリ言ってくれるのは父だけなんです。
私も父なら「いや、あの時はこう乗りたかった」とか、「違うねん、返し馬でこんなことがあったからこうしたかった」と言えます。父は第三者の目線からストレートに言ってくれる数少ない存在です。同期、先輩はライバルでもあるので、思っていることを直接言ってくれる人は数少ないところもあって。私と父はいい関係だと思います。すごく仲が良いと思います。
-:自分がジョッキーになって、お父さんの気持ちも分かるようなったころもありますか?
今:ありますね。これはジョッキーになった私しか分からない、妹たちには分からない父の偉大さを感じています。父は障害ジョッキーだったのでとにかく大変だったと思います。
人を評価される業界の中で父は味方も多いんです。人柄が素晴らしく、父としても素晴らしく、元々こんなにいいお父さんはいないと思っていましたが、改めて偉大さを感じています。酒癖はちょっと悪いですが(笑)
-:お父さんのお酒にまつわるエピソードも聞いてみたいところですが(笑)、次のレースの話をお聞きします。阪神大賞典ではメロディーレーンに騎乗され11着。超小型の人気者とのコンビで話題となりました。
今:日曜のレースだったのですが、土曜に380kgくらいの馬に乗ってるんです(3月19日未勝利ヨシノレジェンド、386kg)。それより小さいのに、小ささを感じさせないんです。体幹がしっかりしているからかもしれません。安定感がありました。小さいけど一生懸命頑張って走る子ですね。
2歳の時と違って体も成長して、バランスが確立したのもあるかもしれません。前で乗り過ぎると首が短くて難しいところはありましたが、乗っていてそこまで違和感はなかったですね。
プロフィール
【今村 聖奈】Seina Imamura
2003年11月28日、滋賀県生まれ。父は元ジョッキーで2001年の中山大障害をユウフヨウホウで勝った今村康成氏(現飯田祐史厩舎調教助手)。18年、競馬学校に幼馴染の角田大河騎手、大久保友雅騎手らと38期生として入学。22年に卒業。3月に栗東・寺島良厩舎所属としてデビュー。
同年3月13日の阪神8Rをブラビオで優勝しJRA初勝利。順調に勝ち星を積み重ね、5月22日に新潟3Rで10勝目を挙げ、女性騎手によるデビュー年最多勝記録(9勝)を22年ぶりに更新。7月3日に小倉競馬場で行われたCBC賞でテイエムスパーダに騎乗し、JRA史上5人目の重賞初騎乗初勝利(グレード制導入後)を果たす。
8月1日には中央地方合わせて31勝に到達しG1騎乗条件を満たすと、12月にはホープフルSでG1初騎乗。最終的にはルーキーイヤーとして史上4位となるJRA51勝を挙げた。
座右の銘は万里一空。トップジョッキーへ向け努力を怠らない、馬を愛する19歳。