今村聖奈騎手インタビュー【第4弾】メンタルコントロール術
2023/5/1(月)
-:初めて京都競馬場で騎乗した時のレースの話も聞かせてください。初の京都騎乗は4月22日、3歳未勝利のサンポーニャで逃げて2着でした。
今::あれは勝てたレースでしたね……。今回、返し馬から左に張っていたんです。レースでも3コーナーくらいからずっと左に行くので、左から肩ムチを入れて矯正していました。
最後はリードも取れたので勝てると思ったのですが、開いた内に入られて痛い目に遭いました。悔いが残るレースでしたし、自分の中では"ダサい"負け方だったと思います。ただその反省を生かし、その後のゲヴィナーで内をしっかり締めて乗ることができましたし、反省は生かせたと思います。
-:このサンポーニャのようにうまくいかなかったレースがあった際、メンタル面はどう切り換えているのでしょうか。
今:切り換えに関しては私、結構上手いと思います。これは私の考えなのですが、1頭1頭違う馬じゃないですか。オーナーさんも違えば、携わっている方も違います。相手関係も違います。自分が負けを引きずっていたら、次の馬に携わる方にも(自分の負の気持ちを)引きずらせることになると思うんです。
私を次のレースで乗せてくださる皆さんは「前のレースで負けていたけど精神的に大丈夫かな」と考えるでしょうし、その中で勝てれば、皆さんに「ちゃんと乗れてるな」と評価してもらえると思うんです。こうやって思考をチェンジすれば気持ちも楽になると思うんですよ。これは誰かから聞いたわけでもなく、以前から自分がずっと考えていることですね。
-:悔しい気持ちを言葉に出すようなこともないのでしょうか?
今:言葉に出すと、自分にストレスを与えるような気がするんです。ストレスは意外とスっと外に抜けるというか、ひきずらずに、むしろ「次のレースでやり返したろ」と思うくらいです。同期の(佐々木)大輔は負けると「めっちゃ悔しい」と言いながら泣きそうになっているのですが、次から次にレースは来ますから。
-:以前、自分の性格を負けず嫌いと表現されていましたね。
今:確かに、レースで負けた時はめっちゃ悔しいなとは思います。その週の最後のレースで悔しい負け方をすると後味悪いなぁ……と思うことも正直ありますが、切り換えていかないと次に進めませんからね。同じところで足踏みしていられません。過去には戻れません。
次同じメンバー、同じ枠で、同じ馬場状態で、同じレース展開になることはまずありませんから。似ているメンバーのレース、似ているジョッキーのレースはあるかもしれませんが、決して同じレースにはなりません。
そのレースで結果的に悪くとも、次同じ失敗をしないように考えておけば、他のレースの勝負所で「前回はここで失敗したからこうしよう」と冷静に考えることができると思うんです。同じ失敗をしたくないというのは、ある意味負けず嫌いなのかもしれません。
-:——逆に、勝ったり上手く乗れた後は次のレースに繋げたりされるのでしょうか?
今:もちろん勝って良かったなぁとは思いますが、あまり繋がらないですね。昨年の夏にテイエムスパーダでCBC賞を勝たせていただいた後も、気持ちは次の最終レースに向いていました。騎乗予定のキングズソードが1番人気で絶対勝たないといけないと思っていましたし、結果勝てて、レース後にようやく「やり切れた」という思いが生まれましたね。
重賞を勝ったら気持ちも跳ね上がって、その後冷静さを欠くというか、空回りすることもあると思うんです。以前は1つ勝ったら冷静さを欠いて空回りするようなことも少しありましたが、昨年の夏頃から気持ちの整理がつくようになってきました。少しずつ、1つ1つ冷静に物事を捉えられるようになったと思います。
-:レースはすぐに振り返るタイプなのですか?
今:振り返りたくないレースほど、後日じっくり振り返ることが多いですね。ただすぐ振り返りたくないレースがあった日に同期とご飯に行ったりした時は、自分勝手ですが最初に「今日はレースの話したくない」ってみんなにめちゃくちゃ言います(笑)
このあたりになってようやく冷静になり、「あの時なんでこうしたんや…」と、やっと原因が追究できるようになりますね。負けた瞬間ももちろん「なんでこうしたんや自分…」という気持ちは生まれるのですが、深く掘り下げられないんです。しっかり見極められるのは自分の精神状態がクリーンである必要があると思いますし、それもあってレースは水曜、木曜に振り返ることが多いですね。
-:同期のジョッキーの皆さんには、レース内容についてよく指摘されるのでしょうか。
今:基本的にはみんな、指摘すると私が怒るのを分かっているのであまり言われないです(笑)言っても大河くらいですね。「あれは勝てたんやないか」とハッキリと指摘されます。「その話はしないどいて」と返しますけど、大河は逆に「俺はこの考えはなかったわ」とも言ってくれるんです。
私も大河のレースを見た後「私だったらこっちに行っていたわ」とハッキリ本人に言うこともあります。向こうから「聖奈だったらどう乗ってた?」と聞かれることもありますね。
-:いいライバル関係ですね。2年目になり、ライバルの角田大河騎手がシーズンリッチで毎日杯を勝って重賞初勝利を挙げ、関東では佐々木大輔騎手がすでに昨年の勝ち星を超えるなど、競馬学校38期生の活躍が目立ちます。
今:大輔の活躍は当然だと思います。競馬学校時代の成績も大体1位が大河で、2位が私、3位が大輔だったんです。自分で言うのもなんですが、3人とも意識は凄く高かったと思います。
学校時代から大河は「自分が常に上に立つにはどうするかしか考えてない。トップになるためにはどうすべきか、それしか考えていない」といつも言ってましたし、大輔は「僕は競馬が好きだし、トップになりたい」と言っていました。もちろん私も競馬が好きでトップになりたいです。
大輔は競馬学校時代、私と大河に負け続け、どう抜かせるか3年考えたけど成績面で抜かせなかったんです。デビューしたら私と大河を抜きたいと学校時代から言われていました。反骨心が凄いんです。上手いですし、今年の活躍は当然だと思います。
他にもコニー(西塚洸二騎手)も上手いんです。今は藤原英昭厩舎の馬に乗っていますが、藤原先生の目についたのも当然だと思います。自分から積極的にコミュニケーションをとっていけるのは彼の凄みだと思います。
プロフィール
【今村 聖奈】Seina Imamura
2003年11月28日、滋賀県生まれ。父は元ジョッキーで2001年の中山大障害をユウフヨウホウで勝った今村康成氏(現飯田祐史厩舎調教助手)。18年、競馬学校に幼馴染の角田大河騎手、大久保友雅騎手らと38期生として入学。22年に卒業。3月に栗東・寺島良厩舎所属としてデビュー。
同年3月13日の阪神8Rをブラビオで優勝しJRA初勝利。順調に勝ち星を積み重ね、5月22日に新潟3Rで10勝目を挙げ、女性騎手によるデビュー年最多勝記録(9勝)を22年ぶりに更新。7月3日に小倉競馬場で行われたCBC賞でテイエムスパーダに騎乗し、JRA史上5人目の重賞初騎乗初勝利(グレード制導入後)を果たす。
8月1日には中央地方合わせて31勝に到達しG1騎乗条件を満たすと、12月にはホープフルSでG1初騎乗。最終的にはルーキーイヤーとして史上4位となるJRA51勝を挙げた。
座右の銘は万里一空。トップジョッキーへ向け努力を怠らない、馬を愛する19歳。