研究と実践 ウィルソンテソーロと共に世界へ

成瀬琴(以下琴):お話を聞いていて、原ジョッキーはレース前にかなり研究されるタイプだと感じました。

原優介騎手(以下優):デビューして以来、この状態で出走させたらこの結果になったという"すり合わせ"を常にやってきて、僕の中でデータを溜めてきたんです。6年目になってデータは更に膨大になってきたので、引き出しを間違えさえしなければ変な結果にはならないのかなと思っています。

琴:ちなみに原ジョッキーが個人的に好きな、得意な脚質は何でしょう。

優:好きなのは追い込み馬ですね。他の馬が止まって見える瞬間があるんです。そして差し切った時は一番スピードに乗っているので、最後脚が上がった状態でゴール板を通過するのと、一番いい脚で突っ込んでくるのとでは鮮やかさが違います。それもあって追い込みが大好きです。

琴:見てる側も興奮する勝ち方ですよね。昨年はJRAで25勝を挙げられましたが、ベストレースは何でしょうか?

優:ハチメンロッピで勝たせていただいた1月27日の銀蹄Sですね。

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24年銀蹄Sを6番人気ハチメンロッピで制す

琴:この時も追い込み勝ちでしたね。追い込み勝ちといえば、昨年のオーロCで15番人気のゴールデンシロップで豪快に差し切った時も驚きました。

優:あの馬は脚を使うことは分かっていました。ただあそこまでハマるとは思っていなくて…。あの馬の競馬の形で、最後まで諦めずにやることをやった結果、勝つことが出来たのかなと思います。

琴:逆に昨年一番悔しかったレースは何でしょう。

優:先ほども出した、フラワーCホーエリートですね。最初のコーナーで外の馬がちょっと内に切れ込んできたこともあって、そこで引っ張ってしまって抑えにかかったところ、馬もまだトモが弱かったこともあり、頭が上がる格好で抑えてしまって…。

そこで生じたロスが最後の伸びに繋がったと感じています。あそこがスムーズだったら勝っていたんじゃないかなと思うだけに、勿体なかった部分です。

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琴:レースでは緊張されるタイプなのでしょうか?

優:全くしないですね。

琴:G1や重賞など舞台が大きくなっても変わらないのでしょうか?

優:全然緊張しないです(笑)

琴:G1といえば23年チャンピオンズCウィルソンテソーロに騎乗し2着だった経験がありますね。

優:ウィルソンテソーロはテン乗りだったのですが、小手川厩舎で調教の時から乗せてもらっていたんです。調教の時は普通のオープン馬という感触で、正直そこまでスケールの大きい走りをする感触はなかったんです。

ただレース当日の返し馬の一歩目を踏み出した瞬間に、調教の時とは全然雰囲気が違いました。これは今日勝てるかもしれないと思うくらいで。あの時はいい感触を持ちましたね。競馬になるといつも以上に真面目に走ってくれる頭の良い馬です。

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実力馬ウィルソンテソーロ

琴:レースでは後方から追い込む形でした。これはレース前から想定されていたのでしょうか?

優:あれは偶然の産物ですね。ウィルソンテソーロの過去走を紐解いていくと、中京でスタートが決まった時はあのチャンピオンズCの時点ではまだなくて、それまでは何かしらスタートでモタついたり、一歩目がスムーズじゃなかったりしたんです。

それもあってスタートが決まらない可能性は極めて高いと思っていました。ああなってしまったら仕方ないので、腹をくくって後ろから進めました。

向正面で横山武史騎手が騎乗するアーテルアストレアが横にいたのですが、ウィルソンに"余力あるのか?"と言ったところ、ハミをグンッと取って。これはチャンスかもしれないと思い、向正面でどの進路を上がっていこうかと考え始めました。

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琴:4コーナー前から外を回るという選択肢はなかったのでしょうか。

優:もう他の馬が入り込んじゃっていましたからね。松若(風馬)さんのノットゥルノがフラついていて、一瞬空いたところに僕も入ろうとしたことで、馬群の中に入る選択肢しかありませんでした。

馬もハミを取っていますし、強引な形にはなってしまいましたが、あの進路を選んだ時点で行くしかなかったんです。結果的にあのレースは内がガラ空きだったんですけれど、最後外に出した方がより伸びる馬なので、あの選択は間違いではなかったと思っています。

琴:12番人気で2着という結果は率直にどう思われますか?

優:僕の中では偶然の産物という部分もあって、その中でやれる対処は出来ましたし、こういう競馬も出来るという次の指標に繋がったので、個人的には正直悪いレースではなかったです。 ただ当然、大舞台で馬主さんや厩舎の方々も期待して出走させています。スタートを出せなくて申し訳ないですし、反省点だと思っています。

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琴:続く東京大賞典では一転して逃げの形をとって2着でした。これは作戦通りだったのでしょうか。

優:東京大賞典はゲートをポンと出ればある程度ポジションを取ろうかな、どうしようかなと迷っていたんです。というのも、前走のチャンピオンズCでゲートを出なかった理由の一つにファンファーレがあると感じていて。

ファンファーレが聞こえるとテンションが上がってしまうところがある馬なんです。それもあってスタンド前発走の分、ゲートでガタついたという分析をしていたのですが、東京大賞典当日の大井競馬場のゲート前ではファンファーレが聞こえなかったんですよね。

最後入れでしたし、安定した駐立でポンと出てくれました。スムーズに発馬が決まって、先行することが多かったノットゥルノが行くのかと思ったら控える構えを見せていましたし、これならあの日の馬場でマイペースに逃げればウシュバテソーロを負かせるんじゃないかと思ったんです。

3コーナー手前でウシュバテソーロが押っ付けなければいけないような、対ウシュバテソーロのラップを刻んだんですが…。それでも負けたのでもう完敗だと思いました。

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23年東京大賞典を勝ったウシュバテソーロ

琴:50m手前くらいまではずっと先頭でした。これは勝てる!と思いましたか?

優:いやもうウシュバテソーロの影が見えるんですよ、夕日の関係で(笑)。しかも強烈な気配を感じていましたし、うわっ、これは飲まれちゃう!という感じでした。

ただ他の馬は負かしていますし、あの騎乗が間違いだったとは思っていません。ただただウシュバテソーロが一枚上だったなという気持ちです。あのレースは完敗でした。

琴:レース後、小手川先生とはどのようなお話をされたのでしょう。

優:まずはやりきる競馬をしましたと。あのレースは外に出さず内側を通したのですが、地方の競馬場は内が深いと言われていて、外を選ぶケースが多いんです。

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ただウィルソンテソーロの場合、右回りだと右のラチを頼らせたほうが最後しっかり走ってくれるという認識を調教の段階で持っていたんですよね。左回りならラチを頼らせる必要はないのですが。

右回りの時はラチを頼らせたほうがいいと判断し内側を通したという説明をしたところ、小手川先生も調教の時に同じような感触を得ていたようで、「その面は分かっているし、頑張ってくれたからこれは悪い競馬ではなかったよ」ということを言っていただきました。

琴:そんなウィルソンテソーロとのコンビで、ちょうど1年前、世界最高峰の舞台であるドバイワールドカップにも騎乗されました。やはり他のレースとは違いましたか?

優:もう全然違いましたね。依頼をもらった時点でもう凄くワクワクしていて、ずっと夢のような時間でした。

琴:私も今年現地に行ったのですが、レース当日になると雰囲気、スケールが日本とだいぶ違いますよね。

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優:そうですね。パドックに大きいスピーカーが置かれているので音も凄いですし、日本の繊細な馬にとってはかなりアウェーな、刺激的な環境かなと思っていたんです。ウィルソンテソーロはファンファーレが聞こえたらイレ込むところがあるので…。

ただドバイに関しては馬がよく対応してくれました。そこは厩務員さんの努力が実った部分でもあるかなと思っています。

琴:ウィルソンテソーロに教えてもらったことがあれば伺いたいです。

優:馬のリズムを大事にするというところはあの馬に教えてもらったところです。ちょっとでもリズムを崩すとあまり結果が出ていない印象で、だからこそチャンピオンズCでは自分のリズムで行けたのは大きかったです。東京大賞典でも逃げて自分のリズムで行けたこともあって、ちゃんと走ってくれました。

途中でリズムを崩すシチュエーションにならないように気を付けていましたが、例えば23年のJBCクラシックでは序盤力んでしまったようで5着でした。馬のリズムの大切さを教えてもらいましたね。

※こだわりつくした!?謎に包まれたプライベートなどにも迫る原優介騎手インタビュー第3弾、第4弾は、4月28日月曜日公開予定です!