元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
歴史的一戦
2020/11/30(月)
皆様、こんにちは!11月29日は我が家の次男の誕生日でした。昔から「いい肉の日」や「いい服の日」、「いい福の日」だと言って、非常に覚えやすい日で親としてはラッキーでありました。毎年のことながらジャパンカップが近づくと、誕生日に近いなと思い返せるのもラッキーでありますからね。もう祝う歳でもありませんが、何歳になっても我が子は我が子といい肉をプレゼントに送っておきましたよ(笑)。
そんな11月29日に歴史的なレースとなったジャパンカップを振り返りましょう。3冠馬3頭の共演とこの上ない豪華なレースに、JRA史上全てにおいてNo.1に輝いたアーモンドアイの引退レースとなりました。戦前から胸が躍る感覚が押し寄せ、まるで小学生の時の遠足前のようなワクワク感でした。3頭全てにおいて間隔、疲労、距離と違う課題点を気にしながらも、レースを楽しもうと観ていました。
レースはゲート入りからフランスの刺客ウェイトゥパリスが難しさを出し、時間が押すハプニングとなりました。ヨーロッパのゲートと日本のゲートでは作りが違う上に狭さが違うので、こうなることを予測していました。海外から来た場合は、ゲート練習を重点的に行ってもらわないと主催者側もダメだということを認識したと思います。この状況で、日本のレースに挑戦してもらうこと自体ありがたいことなのでしょうが、その先までやり遂げてもらいたかったなという印象です。
その後はスムーズなゲートインが行われ、スタートしました。2枠2番の絶好枠を手に入れたアーモンドアイは、流石ルメールと言わんばかりの早いスタートから前に馬置きながら3~4番手を進むことになりました。ハナを奪ったのはキセキと浜中君のコンビでした。1コーナーで外からヨシオに絡まれ少し噛む形となったため、浜中君も思い切った大逃げに打ってでました。抑えられなかったと見られることもできますが、今までのレースからも私個人としては一度大逃げで新たな可能性を出してほしいと思っていたので、いいぞ!となりました。
ペースは57秒台と速くなる中、迎えた直線ではあわやキセキの逃げ切りか!?と思った矢先、アーモンドアイと同じ勝負服のグローリーヴェイズと川田君が勝つなら先に抜け出すしかないと早めのスパートをかけました。しかし、これにも動揺しないルメールはじっくりと脚を計ると、冷静に追い出しを開始しました。みるみるうちに前を行く馬を捕えると、一気に先頭へと躍り出ました。
外からは無敗の3冠馬コントレイルが凄まじい脚で追い込むも、アーモンドアイを捕えることはできず2着に敗れました。3着には最後の最後で交わした無敗牝馬3冠のデアリングタクトが入り、最高女王の引退を無敗の3冠馬たちが続き、見事な結末となりました。全ての馬がベストではなかったかもしれません。しかし、その中でも挑戦してきた2頭にはアーモンドアイから競馬界を背負うバトンが渡されたように見えました。本当に豪華で素晴らしく、ここまで終わった後に清々しい気持ちになったレースは久しぶりでした。
ここまで積み上げてきたG1 9勝は紛れもなく、この陣営、この騎手、この馬だから実現できた記録です。どこかひとつでも欠けていれば実現しなかったと思います。アーモンドアイがルメール騎手の凄さを輝かし、ルメール騎手がアーモンドアイの走りを更に凄いものに変えた。陣営も馬や人から多くを学んだと思います。本当に関係者の皆様、お疲れ様でした。
JCが終わり今週からは中山・阪神・中京へと開催を移します。2020年の競馬も1ヶ月を残すだけとなります。一時は新型コロナで無観客になり、少しずつ人を取り戻してきた競馬場。まだまだ例年通りとはいきませんが、気を抜かずに12月を乗り越えてもらいたいと思います。そんな中京ではダートの最高峰を決めるチャンピオンズカップが行われます。なんといっても注目は国内で負けなしのクリソベリルになるでしょうね。圧倒的王者だけにどのような競馬で周りが負かしにいくのか非常に楽しみです。
その中でも期待したいのはG1レース4連勝中のルメールとコンビを組むカフェファラオです。まだまだ伸びしろがある馬で、前走でルメールが教えたことをどれほど覚えているかがカギになると思います。侮っていると痛い目にあいそうなアルクトスやこれで引退を発表しているモズアスコットもいます。その他にも古豪ゴールドドリームやインティもまだまだ若いものには負けないぞと挑戦してきます。一体どんなドラマが待ち受けているのか。その目撃者にあなたはなる!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。