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騎手コラム

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日本競馬の悲願へ挑むダービー馬~マカヒキに勝算はあるのか?~

すべての前哨戦も終え、いよいよ目前に迫った凱旋門賞。果たして、マカヒキは偉大なる父ディープインパクトがなし得なかった悲願を達成できるのか?日本馬3頭が出走した2014年の凱旋門賞では、ジャスタウェイ号の馬主である大和屋暁オーナーに帯同させていただき、フランス現地での取材も行った競馬ラボ・小野田が解説する。

フランス「滞在競馬」が大きなアドバンテージ


まず、マカヒキ(牡3、栗東・友道厩舎)にとって第一の強みは輸送の負担が軽いことだ。例年なら、目安としてシャンティイ駅から電車を乗り継いで1時間弱ほどの距離にあるロンシャン競馬場までの輸送を余儀なくされていたが、今年開催されるシャンティイ競馬場は滞在する厩舎地区が競馬場にほぼ隣接されているので、その差は歴然。栗東から関東圏への輸送はもう慣れたものだろうが、ロンシャン競馬場がそびえる世界の大都市パリは渋滞も多く、シャンティイの街は非常にのどかで輸送のリスクを伴わない。また、シャンティイは一週間に一度、調教用にコースを開放することもあり、スクーリングが可能。

コース形態を考慮しても「フォルスストレート(偽りの直線)」で知られるロンシャンよりも攻略しやすい。日本の北海道シリーズ同様、いわば「滞在競馬」で挑めるのだ。余談だが、以前に運良くシャンティイ調教場を見学させてもらう機会を得たが、とてもじゃないが、人の足では回れるものではないほどの広大な土地に緑があふれており、馬のみならず人間もリラックスさせられるほどだ。併設されているリヨン坂路は全長4㎞にも及び(一頭がすべての距離を走り切るわけではない)、シャンティイ城が背景にそびえる競馬場の景色。まさに壮大で壮観なシャンティイ。馬事文化が溶け込む街での調整はアウェイであることを忘れさせてしまうのではないか。


シャンティイ競馬場

ここシャンティイ競馬場では今年だけではなく、来年も凱旋門賞が行われる見込みだ

フランス人騎手のC・ルメールの騎乗


「日本人騎手の競馬で凱旋門賞を勝てるイメージが沸かない」


これは、元騎手・安藤勝己さんが日頃から口にしている言葉で、かの大騎手をもってしても、日本と欧州の競馬にそれだけの隔たりを感じていることは紛れもない事実だ。

ペースが流れ、スペースが開き易い日本の競馬と比較して、ゆったりとした流れの中、密集した馬群で折り合いをつける。つまりは折り合いを欠きやすい条件下で馬を御すことに一日の長がある欧州の騎手。個々の技術以前に競馬の質自体が違うのだから、勝ち負けを問うならば当地のジョッキーに託すのは自然のことではないだろうか。

マカヒキはC.ルメールとのコンビでの参戦となるが、ルメール騎手は凱旋門賞の勝利こそないものの、シャンティイ競馬場で行われる仏ダービー(ジョッケクルブ賞)、仏オークス(ディアヌ賞)を制しており、当然ながらコース経験に不安はない。

また、これは想像の域になるが、鞍上が日本とフランスの競馬を熟知していることは、調整や戦術面において、陣営に大きな相乗効果をもたらしてくれるのではないだろうか。ファン心理としてはで挑める点は、不慣れな環境では大きなアシストになるだろう。

ファン心理としては「日本馬は日本人ジョッキーで」という声が多いのは百も承知だが、この鞍上起用は最適の人選と感じている。


凱旋門賞

これまでにフランス人騎手・ルメールとマカヒキは3戦3勝の好相性をみせている

フランス日本馬の豊富な海外への挑戦経験


「日本馬のレベルが上がっている」という言葉を頻繁に耳にするようになったが、それを裏付けるように日本調教馬の海外GI勝利数は2014年以降で10勝にも及ぶ。それ以前、2005年~2013年までで同11勝という実績の差からも、その評価に偽りがないことは窺える。

では、何故か?と考えると、生産レベルの向上はもちろんだが、海外滞在時の厩舎・牧場サイドのノウハウが構築されてきたのではないか、と推測する。もはや日本馬の海外遠征が日常茶飯事となった今、厩舎が異なっても安定した成績を残せるのは、ひとえに遠征をサポートする牧場サイドのレベルが上がっていると言えるだろう。

また、マカヒキの遠征に帯同する大江祐輔調教助手(栗東・友道厩舎)は過去にシャンティイでの勤務経験もあるそうだ。例年のように現地の受け入れ先となる、フランスの日本人調教師である小林智厩舎のサポートも手慣れたものだろう。マカヒキ自身はオンとオフがしっかり分けられるメンタルの強い馬とは思うが、送り出す日本陣営の経験が成熟しつつあることは、この上ない強みとなるはずだ。

さらに当地で行われた今年のイスパーン賞を同じディープ産駒のエイシンヒカリが圧勝したことや、斤量的に恩恵のある3歳での挑戦など、考えられる優位性は他にもある。

思えば、熾烈を極めた2016年の日本ダービー。レース後に長らく続いた報道陣への対応を終えたあと、友道康夫調教師に直撃したのだが「シャンティイなら、よりチャンスがありそうですね」と腕をぶしていたのが印象的だった。その時点で十分に「勝算」を得ているのだと察することができた。ライバル勢も非常に強力だが、それでも今年こそ日本競馬悲願達成の最大のチャンスであると断言したい。

(文:競馬ラボ・小野田学)


凱旋門賞

シャンティイ競馬場で行われたイスパーン賞ではエイシンヒカリが圧勝した