ファンタジーSは14番人気の伏兵に勝利こそ譲ったが、その内容を振り返れば負けて強し。混戦の阪神ジュベナイルFでも上位人気に推されそうだが、それに応えるだけのポテンシャルをダノングラシアスは秘めている。競馬ラボには初登場、吉田稔元騎手が兄という吉田一成調教助手に、同馬の特徴から前2走の敗因、戴冠の可能性などを聞かせてもらった。

負けて強しだったファンタジーS

-:阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)に出走するダノングラシアス(牝2、栗東・矢作厩舎)についてお伺いします。この馬はまだ3戦しかしていませんが、最初に見た時の印象はどうでしたか?

吉田一成調教助手:牝馬にしては馬格もあるし、普通に良い馬だなと。見た目ですね。馬格があって。

-:その当時で490台くらいですか。馬っ振りが良いということで、性格はどんな感じでしょうか?

吉:普通に大人しかったですよ。カイ食いが男馬に比べて少々良くない程度で、それ以外は特に問題もなく。

-:この馬に好きな食べ物を与えると……。

吉:一応、人参は普通に食べますよ。丸ごとやって食べるから、そのまま丸ごとね。

-:他に特徴的なところはありますか?

吉:特徴というか、凄いと思うのが、追い切りや競馬の後で、息の入りがめちゃくちゃ速い。乱れることがあまりなく、普通の条件馬と比べても、乱れることがないし、そこはやっぱり凄いなと。

-:お父さんがマンハッタンカフェなので、骨格が結構大きめで、ある程度筋力がないと動かしきれない体ですよね。それなのに新馬でいきなり勝っているというところは、やっぱり成長度もある程度早いのですか?

吉:どうなんでしょうね。分かりません、フフフ(笑)。


「ファンタジーSは普通に4ーナーを回ってきて、ただ単に捕らえきれなかったように見えますが、直線を正面からの映像で見ると、4ーナーに入ってすぐに入られて、ここを出ようかなとすると、またこっちに入られてみたり、結局最後に空いたのが残り1ハロンぐらいで」


-:期待も高いですよね?1、2、2着で成績はほぼパーフェクトじゃないですか。

吉:期待しているというか、期待以上に走っています。ファンタジーSの1番人気がずっと何連敗と言っていたので、“頼むから1番人気にならんとってくれ!”と思って。“うわ、1番人気やん! 2番人気で良いのに”みたいな、ハハハ(笑)。

-:ファンタジーSの流れと言ったら、1400にしては緩くて、ちょっと変わったペースになりましたよね。だから、一番流れに乗れていたのがクールホタルビで、しかも早めに抜け出して、ダノングラシアスは若干踏み遅れた感じで、最後の最後で来たけれども、ちょっと届かなかったという力負けではなくて、マークミスというか?

吉:テレビの画面は斜めじゃないですか。あれで見ると、普通に4ーナーを回ってきて、ただ単に捕らえきれなかったように見えますが、直線を正面からの映像で見ると、4ーナーに入ってすぐに入られて、ここを出ようかなとすると、またこっちに入られてみたり、結局最後に空いたのが残り1Fくらいで、そういう競馬ですね。最後もぶつけて、こじ開けてきたみたいな。3着のウインソワレに2回ぐらいぶつかりつつも、強引に出てきたような。

-:そういう中で、最後こじ開けて2着に来たというのは勝負根性もあるし、阪神ジュベナイルに向かっても、相当明るい材料ですね。

吉:ええ。

ダノングラシアス

-:レース後のダメージというのはないですか?

吉:特にはないです。ダメージというか、擦り傷くらいはありましたが。

-:来年の桜花賞戦線に向けて、ファンタジーSで厳しい競馬ができたというのは、この馬にとってはプラスかもしれないですね。揉まれた訳ですからね。

吉:先々を考えたら、プラスやと思いますね。

-:今度も多分、人気になると思いますね。また秋のG1戦も、1番人気が全敗で、今度は1番人気じゃない方が良いですか?

吉:息子が言っていました。2歳の重賞は昨年から20何連敗中やと。

-:でも、重賞を繰り返していくと、みんなが結果を見て精査して、それを繰り返す訳ですから、いつまでも連敗は続かないと思うし、日本の競馬ファンというのは凄く目が肥えているから、もし、今度1番人気になったら、説得力のある1番人気かもしれないですね。

吉:ええ。そうだといいですね。

ダノングラシアス

脚質的に阪神1600m外回りはベスト

-:今日(12/3)の追い切りは、ビュイック騎手が初めて乗った訳ですが、動き自体はどうでしたか?

吉:いつも追い切りは動くから。ただ、後ろから追いかけたものの、先行馬の真後ろに付けて折り合っていましたし、当たり前ながら(ジョッキーは)やっぱり上手いな、さすがだなと。

-:馬場状態に関しては、坂路で動くことを考えると、この馬は馬場が少々渋っても大丈夫でしょうか?

吉:牝馬にしたら馬格もあるし、他の馬が不利になる分、マシかなと。有利ということはないかもしれないけど。

-:乗っているフットワーク的には、どんな感じでしょうか?

吉:大跳びです。

ダノングラシアス

-:でも、大跳びの馬というのは、走法的に坂路が苦手ですよね。ピッチ走法でちょこちょこ走る方が、坂路は動きやすいですからね。でも、この馬は、それでも動くということはある程度パワーがあると。

吉:でしょうね。それはやっぱり2歳の牝馬にしてはね。

-:今度のマイル戦というのは、この馬にとったらパワー的にも、距離、血統からも問題ないですよね。2戦目のコートシャルマンに負けたレースも、若干取りこぼした印象じゃないですか。勝ちかけているのですが、勝ち切れないというところは、どこに原因があるのでしょうか?ファンタジーSに関しては、圧倒的な不利というのがあったものの、りんどう賞に関してはどうですか?

吉:そこは乗り役に聞くのが一番早いのですが、乗り役の感覚とコチラの見ている感覚は違うかも分かりません。見ている分の感覚から言うと、3コーナーの反応が鈍かったのかなと。それで、スッと動けなかったように、結局他の馬にバッと行かれて、内に閉じ込められて、結局待たされた感じになったのかなと。

-:そういうエンジンの掛かりが遅いというところがあるというのは、阪神の外回りの1600というのは良いのかなと。

吉:不利なことはないのかな、という感じはしますね。

-:ちょっと早めに仕掛けて、エンジンを掛けにいった方が良いのかもしれないですね。

吉:多分、一瞬の切れというよりも、長く脚を使えるのかなと。

当日はピカピカ毛艶の馬体に注目

-:調教に関しては、ファンタジーS後は強めているというか、順調にこなせていますか?

吉:先週は、放牧から帰ってきたばっかりで、55秒ですか……。

-:その先週で55というのは、結構速くないですか?

吉:まあまあ時計が掛かっていたかな。

-:スタート直後など、滑るというか、深いウッドチップで、走りにくかったはずなんですよね。

吉:確かに重かった。それは水曜日じゃないですか。これをやったのは金曜日でしたから。

-:正味強いところは金曜日と今日(12/3)の2本ですね。

吉:今のところは。今週の日曜日に55~6をもう1回、それで来週もう1回かな。


「今の時季にしては、毛艶がピカピカしていますよ。あと10日後はどうか。10日後に変わりなければ」


-:体重的には、どういう変動になりますか?

吉:恐らくそんなに変わらないままです。

-:カイ食いの面でも、体重が一気に減るほど落ちている訳ではないと。

吉:そういう訳ではないですね。

-:前回でも、上がり33秒台が出ている訳ですからね。

吉:そう。そんな詰まりながら出て来られず、それで33秒台の脚は凄いなと。

-:この馬が勝つ時は、もうちょっと上がりタイムが遅くなるんでしょうね。早めに踏んでバーッと行っているから、ずっと脚を使って最後はバテるぐらいのレースを期待したいですね。止まっても良いから早めに動いて、どれぐらいの競馬が出来るかというのを。

吉:現状、そこまで抜けた馬もおらんやろうし。

-:展開も難しいし、行く馬も結構多いだろうし、小倉2歳Sとかに出ていたスピード馬もいますから。それらがゴールまで持つかどうかも分からないから、どの馬を基準にペースを作るかというのは難しいですね。ただ、あんまり構え過ぎると届かないから、ある程度のポジションには行かないといけないので、枠も馬場状態も重要になってくるし。でも、この馬は結構自在なところと、ある程度のスピードがあるから、反応の悪さだけ克服できれば上位に来られますね。

吉:ええ、そう見ています。

ダノングラシアス

-:そんなに乗り難しいタイプでもないですよね。

吉:普段はそれなりに掛かるからね。キャンターに行くと真面目過ぎますから。

-:吉田さんが乗って、ちょっと持っていかれ気味になるのを、苦労させられるぐらいの器だと。

吉:はい、フフフ(笑)。

-:最後にファンに向けて、阪神ジュベナイルFでも上位人気の馬なので、メッセージをいただけますか?

吉:応援よろしくお願います。今の時季にしては、毛艶がピカピカしていますよ。あと10日後はどうか。10日後に変わりなければ。

-:そこは、吉田さんのモットー通りあまりイジらないで、今の好調をそのまま競馬場に持ってきてほしいですね。でも、凄くかわいい馬ですね。凄く良い写真を撮らせてくれたので。

吉:ああ~。普段は大人しいんですよ。

-:ありがとうございました。

(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)