陣営の人智を超えた資質 メジャーエンブレムの挑戦
2015/12/7(月)
アルテミスSの課題を調教で修正中
-:阪神JF(G1)に出走するメジャーエンブレム(牝2、美浦・田村厩舎) についてですが、新馬、アスター賞と連勝して3戦目にアルテミスSを迎えました。アルテミスSに向けての調整として、厩舎はどのような形で考えて進めていったのでしょうか。
高木大輔調教助手:デビュー戦、2戦目と内容のいい、能力を感じさせる競馬だったので、その時点ではこの馬に何か課題があるとか、こうしなきゃいけないというところは正直なかったです。とにかく無事にレースを迎えることを最重要にアルテミスSまで持っていこうと。競馬に対しても特に課題らしい課題がなかったので、とにかく無事に送り出そうというのがメインのテーマでしたね。
-:アルテミスSレース当日の馬の気配というのは。
高:イレ込む馬でもないですし、いつも通り落ち着いて堂々としているなという感じでした。
-:実際のレース内容はいかがでしたか?
高:まず枠順が出た時点で「大外か……」と。ただ2歳馬同士だし、そこまで古馬のレースみたいに枠順の有利不利というものはないのではないかと思っていました。終わってみれば前に壁がないというのもあって、普段から一生懸命な馬なのですが、より一生懸命なところが出てしまい、我慢しきれずにいってしまったというのが正直なところです。
▲レースから引き上げるメジャーエンブレム
-:レース後にジョッキーとのお話し合いなどはされましたか。
高:ルメール騎手なので、深い話はそんなにしていないのですが、毎日調教を担当している自分としては、やっぱりメンバーが上がっていく今後に向けて、課題の残るレースだと正直感じました。次のG1に向けてそこをどう修正していくか、調教の面で工夫していかないと、そう思いましたね。
-:レース後の過ごし方を教えてください。
高:いつも通り競馬に使った後は、一旦ノーザンファーム天栄の方に2、3週間短期放牧に出しました。新馬の後、アスター賞の後よりも、1番ダメージなく牧場には戻ったかなという感じです。
-:初戦、2戦目というのは肉体面でダメージが大きかったと。
高:やっぱりまだ、エンジンが良すぎてシャーシがまだ追いついていないという部分があったので、自分が持っているポテンシャル以上に動いてしまいますから、多少疲れが出ていた部分はあるのですが、3戦目で段々と馬も強くなってきているので。
-:エンジンの強さに、体が追いついてきたと。
高:まだまだ完成はされていないと思うのですが、徐々に、ですね。
陣営すら未体験ゾーンの能力
-:アルテミスSで課題を感じられたということで、この中間の調整はどういったことを念頭に行ってきましたか?
高:本当にこの馬はオン、オフのきいている馬で、追い切り以外の普段の調教に関しては、どんな状況下であろうと冷静に調教できているのです。いかんせん追い切りになると、スイッチが入るので、競馬の印象のような雰囲気で走ってしまうところがあります。とにかく追い切りのときに、前に壁を作ってその後ろで我慢をさせて、最後だけ出るという事を、厩舎でやっていこうじゃないかという事ですね。帰ってきた時から、とにかくそこを念頭に入れて、先週今週と調教をこなしました。
-:その調教での馬の動きや、馬の後ろでの我慢といった面はいかがでしょう。
高:以前は怖いものなしというか、前に馬がいようがなんだろうが、突っ込んでいってしまうというところがあったのですが、競馬を使っていく中で、馬の後ろでちゃんと我慢できるということが、先週今週とすごく感じることができる調教ができています。そういう面では非常に成長を感じますね。
-:課題をだいぶクリアできるのではないかと。
高:そうですね。
「完成度という面では、気性面に関しても肉体的に関しても、まだ2歳馬という感じですね。ただ現時点で、スピードとパワーは古馬のオープン馬と比べても遜色ないぐらいのものはあると思います」
-:この馬の最大の魅力、セールスポイントというのはどの辺にあると思いますか。
高:完成度という面では、気性面に関しても肉体的に関しても、まだ2歳馬という感じですね。ただ現時点で、スピードとパワーは古馬のオープン馬と比べても遜色ないぐらいのものはあると思います。厩舎内でもまともにこの馬の調教パートナーを務め上げられる馬は少ないです。それぐらいのパワーとスピードを持っているので、今後は人間がどうこうできるものだけではないので、それに見合った体の完成度を壊さないように待つということだけだと思いますね。
-:そのあたりが完成してくれば更に楽しみですね。阪神の1600mという条件に関してはどのようにご覧になられていますか?
高:デビュー戦東京、2戦目中山ということで、まったく条件が違う中で勝ってきましたし、特に阪神の1600mというのは意識しなくてもいいのかなと思います。
-:今回長距離輸送が初めてになりますが。
高:それに関しても、うちの馬だけがそれをやらなければいけないわけではありませんし、関東馬関西馬で条件は違いますが、いずれそういう大きな舞台に立つ馬ではそういうことも経験しなければいけないでしょうから。もともとすごく立派な体の馬ですし、心配はないんじゃないかなと思います。
-:最後に改めて、レースに向けての意気込みをお願いします。
高:とにかく本当に能力のある、将来有望な馬だと思っています。僕自身が未体験ゾーンに入ってしまっているところすらあります。こんなにすごい馬には巡り合ったことがないなという事も感じているので、とにかく無事にいってほしいところですね。人間が失敗しないようにやりたいと思います。
(取材=競馬ラボ)
プロフィール
【高木 大輔】Daisuke Takagi
1974年生まれ。牧場での勤務を経て、 美浦・田村康仁厩舎に所属。これまでにニシノメイゲツ、ヴァーゲンザイルなど活躍馬の調教を手がけた。
師も「ウチの厩舎の助手はどこに出しても恥ずかしくない」と言うほど、信頼を寄せている。自身のtwitter(@hiromaru0621)では馬との日々を綴っており、ファンの間でも評判を得ている。