キセキ いざ凱旋門賞へ 2年ぶりの勝利をフランスで掴み獲れ
2019/8/21(水)
フランスの地で奇跡を起こすか。近4戦でG1・2着が3度。常に善戦するも、菊花賞以来の勝利に見離されているキセキが20日に日本を出国。10月6日の凱旋門賞、および9月15日のフォワ賞に挑むため、海を渡った。これまで出走する度に綿密な見解を語ってくれていた陣営を今回も直撃。海外遠征は2度目となるが、人馬にとって初めてのフランス遠征に挑む心持ちを伺った。
-:凱旋門賞(G1)へ出走するため、いよいよフランスへ出国直前のキセキ(牡5、栗東・角居厩舎)ですが、まず先日のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSに、凱旋門賞で1番人気になるだろうエネイブルと、クリスタルオーシャンが出ていました。あの2頭のデッドヒートをご覧になった感想はいかがでしたか。
清山宏明調教助手:やっぱり実力のある馬が実力の走りをしっかり見せてくれたというところで、ああいうヨーロッパ圏の錚々たる実力社会の凝縮したレースだなと思いましたね。あれだけの強い女馬で、10連勝が懸かっているというところでもパフォーマンスが崩れないというのは、底力と実績が示していると思いますね。日本でキセキと闘ったことのあるシュヴァルグランもいましたが、ああいう強いメンバーと戦わないといけないんだなという現実を見せつけられた感じがしますよね。
▲キセキの出走時にはインタビューに応じ続けてくれている担当の清山助手
-:来週の火曜日(8月20日)に出国になる訳ですが、今週の水曜日(8月14日)の朝3時過ぎに、CWでの最終追い切りを終えられましたね。
清:出国で空輸もありますし、時間も掛かるので、体力も消耗されると思います。調整も国内のレースに向かう訳ではないので、無事にフランスに着いてから、消耗した体を回復するということをイメージしながら、必要以上に負荷を掛け過ぎないというところでも、かといって、あまりにも軽くなり過ぎてもいけない。レースに向かうまでの調整とリズムと走りと、それから精神的な部分や約束事であったりを確認しながら、馬場追いの中でリズム良く、それで気持ちをあまりイレささない、落ち着いた状態で体を良い形で使わせるのがテーマでした。それはすごく良い形でクリア出来たと思いますね。今回に関しては、時計にはこだわっていなかったので、馬との会話と気持ちの落ち着き具合を大事にしたかったので、そこは本当に良い形で出来ましたね。
-:空輸でだいぶ減るでしょうから、若干大きめに造られたのでしょうか。
清:余裕を持たせるというか、やっぱり体力は消耗されますからね。それだけのしっかりとした体力の基盤を造るように。しかし、かわいがっての調整だと本当に良くないので、レースに向かうまでの下準備としての最低限のことはしっかりとやっていますね。
-:去年の同時期は毎日王冠が休養明けでした。それよりは1カ月くらい早い始動になります。馬は戸惑いもなさそうですか。
清:そうですね。吉澤さん(吉澤ステーブルWEST)のところで、良い形でリフレッシュしてきてくれたので、帰ってくるのが1カ月早くなった分、立ち上げはすごくスムーズに行きましたね。
▲出国前のキセキ(8月9日撮影)
-:ここからフランスのシャンティイのキャビン・エレノン厩舎に入って、具体的にどういう馬場で調教されるイメージを持たれていますか。
清:向こうには先生も一緒に行きますので、そこで色々とイメージされていることもあると思いますから、こちらがキセキと一緒に早く慣れるということも大事だと思います。日本でやっている調整とあまり差がないように、と言ったらおかしいですけど、負荷の掛け方であったり、そういうやりたいことをちゃんとそこで出来るように、こちらが早く習得することが大事かなと思いますね。
-:馬場は広いですからね。
清:そうですね。行ったスタッフに聞くと「イノシシやシカが出たり、自然の中の調教場なので、ビックリしないで下さいね」ということでしたね。そこに、僕たちが早く慣れることが一番大事かなと思いますね。
-:前哨戦のフォワ賞(G2)を使って、2週間で本番に向かうことになります。キセキにとっての中2週はどうでしょう。
清:いかんせん人も馬も初めてです。フォワ賞に関しては初めて経験することなので、どういう結果になるか分からないですけど、経験したことを次にちゃんと活かせるように意識したいです。得るものをちゃんと活かすために、フォワ賞は魅力があると思うのですけどね。かと言って、叩き台というようなイメージは先生も思っていないでしょうし、そこはちゃんと結果にこだわりたいなと思いますね。
なかなか経験のないローテーションですけど、身体的な部分でも、精神的な部分でもだいぶ大人になってきていると思うので。ただ、やっぱり国内じゃないので、そこが行ってみないと、やってみないと分からないという部分ですけど、今の彼の精神状態やここまでの経験を踏まえれば、しっかり対応してくれるんじゃないかと思いますけどね。
-:菊花賞以来、2年半以上勝ち星から遠ざかっています。勝ちに等しい2着は沢山あります。
清:本当に遠ざかっていますから、勝って欲しいですね。まだ現役なので、ファンの方々の記憶にある馬だと思うのですけど、やっぱり記録には残っていないので…。記録に残るところの1着がないことには、ファンがいくら応援してくれていたとしても、いくら素晴らしいレースをしても、どうしても2着馬というのはみんな記憶から忘れられるものです。そうならないように大きいレースで結果を出せるように、と思い頑張ってきたのですけど、今のところは本当に勝ちに等しいという結果ばかりが続いています。これだけの大きいレースに挑戦させてもらうので、挑戦する以上は結果を期待されるので、この大きいところで花が開いてくれれば良いなと思うんですけどね。
-:日本馬で凱旋門賞を勝った馬はいないですからね。
清:そうなんですよね。それが、初めての馬になってくれたら良いですね。素晴らしい名前をいただいていますからね。
-:『ミラクル』というのが伝わるのでしょうね。この間、全英女子オープンがあって、渋野日向子さんがそんなに実績もなく、世界戦の経験もなく、いきなり勝つという、それで全英女子オープンで勝った女子プロも日本ではいなかったですからね。
清:そうですね。正直、その流れに乗りたいなと、ゴルフ番組を観て思っていたのですけどね(笑)。
-:女子ゴルフの世界でも、英語をしゃべれないといけないとか、海外で経験を積んでからとかいう話があったのですけど、勝った人は何もせずフラっと行って、勝ったというのは逆にすごい驚きでしたね。
清:それくらいじゃないとダメなのかもしれないですよ。そういう自分のスタイルと言ったらおかしいですけど、平常心で出来たかどうかが関わってくるんでしょうね。ああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないと思う方が形を壊しちゃうかもしれないですね。
-:それは競馬の世界でも一緒で、これまでも凱旋門賞を勝つためにはどうしたら良いのかという話は一杯出ていたのですけど、コンディション良く連れていくことが大変ですね。
清:大前提なんですよね。
▲栗東坂路にて調整するキセキ(7日撮影)
-:キセキと言えば、毎回、清山さんが「馬場状態は良い方が良い」「走りやすい方が良い」ということをおっしゃられているのですけど、ロンシャンも乾けば硬くて、速いですよね。この間のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSのように馬場が重くなることはないと思うので、その辺はキセキにもプラスですね。
清:そうですね。ある程度、重たい馬場というか、力の掛かるところでもしっかりとこなしてくれているので、力は本当にあると思います。去年を紐解いてみても、天皇賞(秋)であったり、ジャパンCでもあれだけのレースレコードになるような、スピードの継続したレースはなかなか記憶にないくらいの走破時計で走れるという素質は持っていると思います。この間のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSみたいに、あそこまでウェットにならなければ、力は出し切れると思いますね。
-:あれが2分32秒くらいでしたからね。日本ではオルフェーヴルのダービー以上の遅い時計が掛かっているということでしたので、そう考えると、キセキのスピードを存分に発揮できる舞台設定が欲しいですね。
清:欲しいですね。それを要求してしまうと、逆の馬場にされてしまうこともあると思うので、何も言わない方が良いかもしれないですね。
-:他には、馬装や調教の時の工夫は日本から替える予定はないですか。
清:何も替えないです。今やっている、普通に必要最低限でやっていることを、場所を変えてやるイメージでやっているので、向こうに行ったから、これをしなきゃいけない、あれをしなきゃいけないということは極力避けたいという気持ちはあるのですけど、やっぱり場所が変われば、そこに対応しなきゃいけない必要が出てくると思うので、必要最低限の分だけ対処をして、とは思っています。
-:やっぱりロンシャンでも果敢に先頭に立つのでしょうか。
清:いや、それは多分、もうないかもしれないですね。この間でも枠順が1番だったので、そういう形を取ることが一番力を発揮しやすいとジョッキーも思っていました。今年に入ってからの2戦が、ゲートを出てからがゆっくりで、こちらもモタモタしているように思ってしまうので、それを敢えて前目にちょっと仕掛けているところもあるので。馬のリズムで走るスタイルというのも、以前ほど気性が激しい部分もあまり見られないと思いますし、そうやってスタートが遅くても、自然の形で流れの乗るということも力を発揮しやすいのかなと思いますしね。先生がどう思われているか確認していませんが、先頭にはこだわらなくても良いのかなと思いますけどね。
-:キセキが走れるポジション、ある程度、前でということですね。
清:そうなっていくと思いますけど、先頭にはこだわらなくても良いのかなと思いますけどね。
▲宝塚記念ではゲートで後手を踏むもポジションを挽回して逃げに持ち込んだ
-:フランスに行ったら、フランスのマスコミに、騎手時代にロンシャンボーイに乗っていたんだぞ、ということをちゃんとアピールしないといけないですね。
清:ロンシャンに絡んで、ハハハ(笑)。現役は退いたけど、夢を持ってロンシャンに来たぞ、と。それは新聞記者の方にも言われて、気にしていなかったのですけど、そういう話題もアリかなと思いましたけどね。
-:脚質もちょっとキセキと被りますからね。
清:そうですね。先行して、どちらかと言えば、逃げる馬でしたからね。
-:日本から応援しているファンにとっては、まだまだ先のレースということですが、出国前ということで、出発前の意気込みをお願いできますか。
清:本当にこれまで勝ちに等しいレースが続きながら、結果が出ていない中で、ファンの支持もありつつ、なおかつ挑戦してチャンスがあるだろうという立場で向かうことができます。凱旋門賞はなかなか日本馬の結果が出ていない大きいレースですけど、やっぱり挑戦する以上は本当に勝ちたいという気持ちを持って、僕は精一杯頑張って、キセキの力を発揮できる状態にしたいと思います。今はネットなどで情報も入りやすいですし、レースが終わっても、応援し続けてくれているファンの気持ちというのは、いつもすごくありがたく思っています。その応援し続けてくれているファンのために、こういう大きな舞台でまとめていっぺんに返せるように頑張りたいと思います。これが最後じゃないですけど、この大きなレースに向かうので、日本から大きな声援をいただいて、キセキの背中を押してもらえるように、1人でも多く応援していただければ、ありがたいなと思いますね。
-:フランスに行っても、キセキのコンディションが上回れば。
清:本当にキセキが気持ち良く、本当の力をここで出せるぞ、という状態で送り出せるように、僕はそこに集中してやりたいと思いますね。
-:同厩舎のロジャーバローズも行く予定だったのですけど、行けなくなってしまった分も頑張ってきて欲しいですね。
清:そうですね。遠征の計画をしていたスタッフも思いは口に出さないですけど、その思いはヒシヒシと伝わってきます。厩舎として挑む意識はあるので、責任は重くなりますが、その気持ちはしっかりと持っていきたいなと思いますね。
-:広いシャンティイの馬場で迷子にならないように。
清:まずはそこが大事ですね(笑)。
-:楽しみながら頑張って来て下さい。
清:ありがとうございます。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【清山 宏明】Hiroaki Kiyoyama
鹿児島県出身。競馬学校騎手課程第2期生で、同期には横山典弘騎手や松永幹夫調教師がいる。騎手としては重賞4勝を含むJRA通算141勝の成績を残し、2002年に引退。重賞の舞台で、人気薄ながら2度の逃げ切り勝ちを決めたロンシャンボーイとの個性派コンビでも名を馳せた。 引退後は領家政蔵厩舎から調教助手としてのキャリアをスタート。これまでにウオッカやディアデラノビア、ラキシスなどの調教を担当したことでも知られている。