【有馬記念】キセキ 展開のカギを握る重要な存在 凱旋門賞の悔しさをここで晴らす!
2019/12/19(木)
不完全燃焼となったフランス遠征から国内復帰初戦を迎えるキセキ。同じ重馬場でも日本とはまるで違う馬場状態で、さらにスタートで後手を踏んで自分の競馬をさせてもらえない中、日本馬では最先着となる7着と意地を見せた。海外帰りとはいえ、間隔としては秋に4走した昨年よりはゆったりとしたローテーション。展開のカギを握る陣営を直撃した。
-:キセキ(牡5、栗東・角居厩舎)についてうかがいます。年末の大一番の有馬記念(G1)です。去年は毎日王冠~天皇賞(秋)~ジャパンCを使っての有馬記念でした。今年は海外帰りで昨年とは違った状況です。おそらく去年より人気もしないんじゃないかという予想なんですが、まずはフランスでの様子と敗因を細かく教えていただけますか。
清山宏明調教助手:日本ではこれまでボリューミーな体で出走していましたが、「凱旋門賞はシャープな形にして出走させて欲しい」という調教師からの要望があり、そこを目標にして取り組みました。滞在していたシャンティイは自然の森の中という環境でした。調教で負荷が掛かり過ぎた状態でフォワ賞を迎えました。逆に、メンタルの部分で言うと自然の中に一頭でいるような状態なので、気持ちはすごくのんびりしていたと思います。日本で使うよりも心と体のバランスがズレていたのがフォワ賞でしたね。
-:キセキにとっては、放牧に来ているのに、いきなりレースだよ!という感じだったんですね。
清:そうですね。放牧先ですごく攻められて、いきなりレースに…という形だと思います。結果的に逃げましたけど、厩舎の注文としては逃げない形でお願いしていたんですけどね。4頭立てで、リードしてくれる馬がいかなかったこともあったので、事前のレースプランと違う形になりました。あとは本番に向けて修正点が見えたので、フォワ賞で負けたことはすごくプラスでしたね。
結果はすごくマイナスでしたけど、内容を踏まえて本番に向かう上ではプラスになったことがたくさんありました。キセキはレースの後に状態を上げるタイプなんですけど、フランスでもシッカリ調子を上げてくれたので、本番の凱旋門賞の時は状態は良かったんですよ。いかんせんあれだけの雨に降られて、馬場状態が日本の重馬場とは全然違う状態でした。本当に柔らかい粘土の上に洋芝が乗っている状態で、全く引っ掛かる場所がない異質な馬場状態でした。
▲凱旋門賞は不完全燃焼の7着
-:ヌルヌルした感じですか。
清:その通りですね。ファンの方も知っていると思うんですけど、キセキはあれだけ綺麗でストライドの大きなタイプなので、他の馬とは負担の掛かり方が全然違ったんですよね。
-:これまでのインタビューでも清山さんが「菊花賞は重で勝ったけども、キセキにはパンパンの良馬場が良い」と言っていました。まさに凱旋門賞ではそれが悪い方に出てしまったということですね。
清:そうなんですよね。本来持っている軽さだけではなく、力強さも備わって非常に良い状態でした。ある程度の馬場状態ならこなせると思っていたんですけど、こちらの想像していた以上に馬場が悪くて不本意な結果になってしまいました。総合的に今年のフランスの遠征は人にも馬にも良い経験でした。悔しい思いはしましたけど、あれを踏まえてどういう風に有馬記念の結果に繋がるのかなという期待の方が大きいんです。
-:去年の有馬記念は目標にされて、2番人気で5着でしたね。
清:そうですね。ゲートでちょっとトモを滑らして立ち遅れて、そこから先行する形でした。秋の競馬が4回目で、前3走は東京でコーナーを回る数をある程度馬も覚えていたんだと思います。中山の2コーナーを回った所で勝負所だと馬が勘違いしたみたいで、そこでハミを取って、スパートしてしまった。その中でも5着まで粘れたというのは、本来キセキが並外れた力を持っているという証だと思うんですけどね。
-:去年は厳しいレースを3回続けた後の有馬記念だったのですが、それと比べたら今年のフォワ賞~凱旋門賞明けというのは、キセキにとっては今年の方が楽なローテーションかもしれませんね。
清:ローテーションは詰まっていないですし、凱旋門賞の遠征の後もしっかりリフレッシュ出来ています。今回はシッカリと充電出来た形で、レースに向かえるのかなと思いますね。昨年とはステップは全然違いますけど、今回も良い形で向かって行けると思っているんですよ。
-:去年の毎日王冠から復活して、良い流れでずっと1年間以上通してきました。それが海外遠征で途切れたのか、このまま国内で走ったらもう1回キセキらしさが出せるのか、どちらだと思いますか。
清:僕はキセキの一番間近にいる担当者として、本来のパフォーマンスを良い形で発揮させてあげられていない悔しさがあります。G1馬が12頭もいる有馬記念で、この1年で色々なことを経験して、もう一段階成長したキセキをお見せしたいんです。
-:歴代の有馬記念の中でも、今年は豪華なメンバーが揃いました。錚々たるメンバーで、昭和の有馬記念に逆戻りしたような感じがします。どこからでも買えるから、キセキを応援してくれる人はキセキから――という具合に、みんな好きな馬から買えばいいのかもしれませんね。
清:アーモンドアイに注目が集まっているのは知っていますが、他の馬も強敵ばかりですから(笑)。
-:直前の追い切りなんですけど、2週前の追い切りからちょっと振り返っていただいて良いですか。
清:最初の滑り出しとすれば、息遣いも体の使い方も雰囲気も非常に良かったです。今週は水曜日にシッカリ攻めて良い形で来れていますね。遠征前の今年の春先の大阪杯、それから宝塚記念の時は、リフレッシュするための放牧先で充電しきって余りある体でボリュームがありました。そこからちょっとシェイプアップしていくのに乗り込んでいきました。今回は牧場側にリクエストさせていただいて少しシャープな形で戻してもらいました。体が軽い分、追い切りの滑り出しも良かったですね。
帰国後も順調に調整されている
-:このところ以前よりスタートしてからの行き脚が、少し鈍くなっている気がします。
清:そうですね。少しモタモタしていますね。実際、前走の凱旋門賞の時でもそうなんですけど、フォワ賞では逃げる予定の馬が行かず、キセキがハナに行きました。あれはスミヨン騎手がリードしてユッタリした形で進めてくれました。本番の凱旋門賞の時は馬群の中で、シッカリ折り合いも付いて全然エキサイトもせず我慢も出来ていました。去年の秋みたいに先行する形の方が理想的かもしれないですけど、特に出脚の部分にはこだわらなくても良いと思いますけどね。
-:今回はちゃんと逃げそうな馬が2頭ぐらいいるので、その後ろぐらいでしょうか。
清:そこに行ければ、一番理想かなと思いますね。それもキセキがスタートして、自分のリズムの中でそこのポジションが取れれば一番だと思いますけどね。
-:あとは良い枠が欲しいですね。
清:そうですね。やっぱり去年みたいに外枠というのもね。中山の2500はトリッキーなコース形態なので、やっぱり外枠は不利なのかなと思いましたし、実際に結果として表れましたからね。
-:今回のシェイプした体というのは、これまでの春の大阪杯の休み明けと比べて、どれぐらいの変化ですか。
清:帰ってきた時はほぼ10キロぐらいシェイプアップしたスマートな形で入れてくれているので、大きかったですね。やっぱり調教での息苦しさとか、重たいなというのは全然感じませんでした。調教しながらシッカリ食わせて、その調教したものと食べたものがちゃんとリンクして、体を膨らましていくという形です。こちらのイメージする方向に進められているというのは非常にありがたいですね。
-:強い馬がいっぱい出ますが、キセキも人気ほどは軽く扱えないぞという所が、清山さんの本音でしょう。
清:そういう気持ちは持っていますよ。やっぱりキセキの持っている能力をスムーズに良い形で発揮出来るレースをしてほしいのが本音です。これだけのメンバーが揃ったら、勝つとか良い結果が…とかいう言葉はなかなか使い辛いですけどね。
-:実際に去年のジャパンCでもアーモンドアイには負けましたが、あの驚異的なレコードタイムの2着ですからね。
清:あのペースを作っていますからね。それだけの能力やポテンシャルを持っているということだと思います。今年の春のG1も2着、2着で来ているので、力のある所はちゃんと実証してくれていますからね。
-:キセキはまだ5歳ですが、使っている数は少ないので有馬記念でちょうど20戦目です。
清:普段調教で乗せてもらっても衰えているとかいう言葉が思いつかないんです。いつまでも元気だなと(笑)。その元気さがキセキの若さのバロメーターでもありますけどね。
-:凱旋門賞まで連れて行ってくれた石川オーナー並びにファンにメッセージをお願いできますか。
清:本当にフランスの凱旋門賞にチャレンジするというのは、すごく大きなことです。招待レースではないので金銭的にもオーナーの理解があってこそなんです。石川オーナーには現地でも僕たちが気持ちよく働けるよう配慮していただきました。結果は出せなかったのですが、これから良い形でオーナーやファンにアピールすることが僕の責任だと思っています。
オーナーもずっと悔しい思いをされてきていると思うので、出来れば有馬記念という素晴らしい舞台で恩返ししたいです。最高の結果を夢見ながら、それを目標に今は一所懸命やっている所です。これだけのメンバーが揃った中でファン投票3位と後押ししてくださったファンの方々にも感謝しています。そういう思いも結果につながってくれたら良いですね。
-:ムーア騎手は追い切りに乗る予定ですか。
清:いや、乗らないですね。来週もスケジュールが合わなくて、競馬本番だけですね。
-:実際にレースも観ているでしょうからね。
清:そうでしょうね。ジョッキーは乗ったことのある人に情報収集するので大丈夫ですよ。
-:楽しみですね。
清:そうですね。みなさんに楽しみに思ってもらえるように、僕は当日までキセキを仕上げますよ。
-:馬体重はフォワ賞、凱旋門賞を使っているので、前走比較ができないじゃないですか。清山さんの中ではどれくらいの数字を目指していらっしゃるのですか。
清:多分、春のG1と一緒ぐらいになると思いますよ。
▲キセキと清山調教助手
-:大阪杯、宝塚記念ぐらいだったら、ということですね。今年の方がシェイプして帰ってきて、到達点は同じだけど、過程が違うということですね。
清:はい。トレーニングをして、食べたものが筋肉としてちゃんと身に付いている感じの数字になるので、そこはおっしゃったように到達点は一緒でも、過程が全然違うんですよ。
-:何とか菊花賞以来の良い結果を。
清:本当にそうですね。このメンバーの中で結果が出せたら、こんな最高なことはないですよね。
-:でも、狙ってください。
清:もちろん諦めていないですよ。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【清山 宏明】Hiroaki Kiyoyama
鹿児島県出身。競馬学校騎手課程第2期生で、同期には横山典弘騎手や松永幹夫調教師がいる。騎手としては重賞4勝を含むJRA通算141勝の成績を残し、2002年に引退。重賞の舞台で、人気薄ながら2度の逃げ切り勝ちを決めたロンシャンボーイとの個性派コンビでも名を馳せた。 引退後は領家政蔵厩舎から調教助手としてのキャリアをスタート。これまでにウオッカやディアデラノビア、ラキシスなどの調教を担当したことでも知られている。