
石川裕紀人騎手インタビュー前編 12年の積み重ねと決意に迫る
2025/2/10(月)
成瀬琴(以下琴):今回は私、成瀬琴対談企画として初めて、ジョッキーをお呼びしました!美浦の石川裕紀人ジョッキーです!今日はよろしくお願いします!
石川裕紀人騎手(以下裕):よろしくお願いします。

琴:早速なのですが、私、石川ジョッキーとは結構前から面識があるんです。弟同士の繋がりで。
裕:そうだね。同い年?違うか。
琴:私の弟は00年生まれです。
裕:だとうちの弟は99年だから1個上か。弟たちは何繋がり…でしたっけ?(笑)
琴:石川ジョッキーの弟と私の弟も学生時代馬術をやっていて、それで一緒に試合に出たりとかしてたので。
裕:ああそうだった、馬術繋がりでした。
琴:だから私は先に裕紀人くんの弟で、今優馬でトラックマンをやっている弥貴人(みきと)くんのほうと知り合いだったんですよね。その繋がりがあって、私も今石川ジョッキーと仲良くさせていただいていて。お母さん同士はメル友だもんね(笑)
裕:…そうでした(苦笑)
琴:めちゃくちゃ複雑そう!
裕:全然特にそんなことはないよ(笑)

琴:そんな石川ジョッキーは今年で12年目、30歳になる年ですが、新人の頃と今で、ジョッキーという仕事への向き合い方は変わりましたか?
裕:変わりましたね…。もうデビューから10年経っているから。10年ってかなりの年月だと思うけど、デビューした頃はひたすらガムシャラでした。もちろんそういう気持ちが今はないわけではないけれど、いい意味で落ち着きが出ているかもしれません。
琴:デビュー前のジョッキーのイメージと、今、だいぶ違いますか?
裕:違いますね。一番は厳しい現実を知ったこと。競馬学校の頃は夢一筋でしたが、デビューしてから思ったように行くことは少なかったです。
琴:石川ジョッキーといえば、やはりR.ムーアジョッキーに憧れているイメージがあります。その理由も聞いてみたいです。
裕:デビューした時から海外の競馬が好きで、海外のジョッキーが好きだったんです。特にR.ムーア騎手の追い方が迫力があって、漠然とカッコいいなとなって、マネしてみようかなと思ったのがキッカケでした。

琴:ムーア騎手のあの迫力のあるフォーム、独特ですよね。
裕:ただ深い話になっちゃうんですけれど、今の日本の競馬に適していないわけじゃない前提で、スピード競馬が求められる日本では、今となっては求められないところがあるかもしれないです…。
ただ僕の場合は、デビューしたての若い時はちょっと目立ちたかったっていうのもあって。別に天才としてこの世界に入ったわけでもないから、"とにかく目立たないと"というのがデビューの時から頭にあったんです。それでちょっと派手めな追い方をしていたのもあります。
琴:とにかく覚えてもらうために、みたいなところですね。
裕:そうそう。実際こうやって目標にしてたとか、今までモノマネしてたジョッキーとして、いまだに話題にしてもらうことがあるんで。狙いとしては正しかったかなと思います。

琴:そんなデビューしたての頃に、何か苦労したエピソードがあれば聞いてみたいです。
裕:苦労したこと…。軌道に乗るのが難しかったですね。軌道に乗るっていうのはやっぱり難しい。
琴:どのようにして技術面の向上を図っていたんでしょう?
裕:とにかく競馬を見ること、色々な角度から見るようにしていました。パトロールビデオを見たりとか、他にも木馬に乗ったりとか、色々あるんですけれど。
琴:今でも若手だった時のレースは振り返ってみたりするんですか?
裕:しますします。兄弟の馬とかを調べて遡っていった時に、ああこの馬に乗ってたなとか、よく見て思い出したりします。

琴:若手の時の騎乗を見てどう思いますか?
裕:めっちゃ変わったなって感じます(笑)。具体的に言うと、馬への当たりが全然変わりました。専門的な感じになっちゃうけれど、昔みたいに動かそう、動かそうというよりは、今は馬の動きを尊重した乗り方になってきていると思いますね。
琴:若手の時の思い出の馬などはいますか?
裕:うーん…。そういう馬もいるけれど、どちらかというと"この馬に乗って負けてたんだ…"という思いのほうが強いです。今の自分が乗ってたらな…と思っちゃいます。負けた馬のほうが印象に残ってるかもしれません。

琴:そんな石川騎手ですが、昨年、結婚という大きなイベントがありました。結婚前と結婚後、 競馬への向き合い方などは変わりましたか?
裕:変わりましたね。よりケガができなくなりました。そこが一番感じます。もちろんケガしていいわけではないですけれど、自分だけがケガするならまだ勝手に治っていく分そこまで影響はないなと思っていましたけれど、家族ができるとケガできないなと。
琴:普段の生活面で変わったところとかはありますか?
裕:そんなにないですね(笑)
琴:食事などは奥様が…?
裕:そうですね、作ってくれています。
琴:では手料理で中で一番好きなメニューはなんですか?これは当初の予定質問にはないんですが(笑)
裕:いやぁ…一緒に住んでまだ間もないので…(笑)
琴:一番美味しかったなという料理は…!
裕:全部美味しいですけれど、…唐揚げがいいですね(笑)
琴:ありがとうございます(笑)。結婚前は食事面について気にされていたのでしょうか?
裕:あまり気にしてなかったですね…。ただここ数年はコロナもあったんで筋トレがブームになってきてしまったので、最初はもう筋肉にいい食べ物ばかり摂ってましたね。栄養面のサポートを受けられるのは大きいです。というか、今日一いい笑顔(笑)
琴:奥様の手料理で何が一番美味しいかを聞くのが今日の私の仕事でした(笑)
琴:昨年について聞いていきたいんですが、2024年はどんな1年でしたか?
裕:そうですね…2022年にG1を勝たせてもらったんですけれど、そこから勝てていなくて。G1を勝ちたかったし、重賞を1つ勝っただけでした。より大きいレースを勝ちたかったです。
琴:ちなみに2024年、目標は何でしたか?
裕:大前提として、ケガはしたくなかったから1年乗り切るというのが毎年の目標なんです。具体的な目標は特には立ててなかったですね。
琴:無事故で乗り切った昨年は秋に紫苑Sをクリスマスパレードで勝たれましたね。あのレースはイメージ通りに運べたのでしょうか?

裕:レース前は(前に行く)この競馬ができれば勝てるんじゃないかなっていうイメージでしたが、それ以上にいい展開になったから、4コーナーぐらいではもう勝ったなと思ったくらいでした。
琴:おお!ちなみに1.56.6というものすごく速いタイムだったわけですが、タイムを見た感想も聞いておきたいです。
裕:随分速いなぁとは思いました(笑)。でもあの日の中山はそもそも時計の出る馬場で、劇的な驚きではなかったですね。重賞だったらこれくらい出るかなと。
琴:23年末にデビューしたクリスマスパレードですが、最初からこのくらい走ると感じていたのでしょうか?
裕:新馬戦で乗せてもらって勝たせてもらった時は正直思わなかったです…(笑)。もちろんいい馬だなぁとは思っていたんですけれど、重賞を勝てるなと思ったのは2戦目の水仙賞を勝った時ですね。先々重賞は間違いなく1つは勝つなと思いました。

先行策で臨んだ水仙賞を快勝
琴:デビュー戦とは何が違ったのでしょうか?
裕:デビュー戦はまだ競馬が分かっていないような感じだったんです。馬の中身もちょっとカラッカラな感じでしたし、2戦目はその時より上積みがあればなという感じだったんです。
そうしたら2戦目は返し馬からデビュー戦とは違くて、これは勝ち方次第じゃ更に上に行くかなという感じでしたね。
琴:デビュー戦から2戦目にかけて、そこまで変わる馬は多いものなのでしょうか?
裕:いますいます。特段伸びたわけではないんですけれど、変わりましたね。

琴:クリスマスパレードの長所と改善点はどのあたりにあると感じていますか?
裕:まだ底を見せていないというか、まだ完成しきっていないところが長所だと思います。改善点はテンションですね。メンタル面。やっぱり女の子なんで。気性面はもう少し成長していくんじゃないかなと思います。
琴:現時点での完成度で言うと…
裕:難しいですね…。70%くらいかもしれません。デビューした時より気性面の成長は感じています。地方競馬を使ってみたりG1を経験したりと経験値は増えているので、それがあの馬にとってはメンタルの成長に繋がっていると思います。
琴:あの関東オークスの負けは無駄じゃなかった、と。
裕:そうですね、無駄じゃなかった気がします。

琴:秋華賞はチェルヴィニアから0.5秒差の5着という結果でしたが、レース前の自信度も伺ってみたいです。
裕:自信はありましたね。
琴:セキトバイーストの大逃げで進行したレースですが、あのポジションは作戦通りだったのでしょうか?大逃げの2番手はレースが難しい気も…
裕:決してそんなことはないですね。あのポジションも作戦通りでした。逆に、こういう感じになるだろうなというレースだったので、すごく理想的な競馬ができたなと思います。あれはイメージ通りです。現状を出し切っての5着だったと思います。
琴:今年の中山金杯も速い流れを先行していましたね。
裕:枠順が出ないとちょっと並びが分からないところがあったのですが、枠順が出た時に色々なパターンを想定していました。ちょっと難しい展開になりそうだなという思いはありましたね。

外枠の方に先行勢がいましたし、何がハナに行くんだろうなと。しかもホウオウビスケッツが主戦の岩田(康誠)さんからドイルさんに乗り替わっていたので、そこも多分影響するだろうなと思いました。いろんな要素を考えなければいけないレースになるなという気はしていました。
琴:外からあそこまで競られかけるイメージもあったのでしょうか?
裕:ありましたね。苦しい競馬にはなりましたが、今回の金杯で苦しい競馬をこの先絶対繋がるとも思っていました。
間違いなくオーバーペースではありましたけれど、スゴく次に繋がると思います。次、僕が乗るかは分かりませんが、次ちょっと控えて折り合いがつけば、絶対残り600mからいい動きができるようになると思います。
琴:クリスマスパレード同様、新馬戦から乗っているのがセントメモリーズです。昨年3連勝でオープン入りしましたが、どのような馬なのでしょうか?

裕:この馬も新馬前から乗せてもらっていて、血統的にもちょっと気持ちが高ぶるというか、引っかかってしまうような一面がありそうな馬だったので、大事に大事に競馬で作ってきたつもりです。それが上手く噛み合って、なおかつ運も持ち合わせていたことで3連勝という結果に繋がった印象があります。
琴:これからもっと伸びそうな馬でしょうか。
裕:そうですね、期待しています!
※G1制覇のウラ側やライラック、コガネノソラの素顔に迫るインタビュー後編は、2月24日月曜に公開予定です!
プロフィール
【石川 裕紀人】Yukito Ishikawa
1995年9月22日、東京都生まれ。2014年に美浦・相沢郁厩舎からデビュー。初勝利まで3カ月の時間を要するも、その後は勝ち星を積み重ねて2017年のラジオNIKKEI賞・セダブリランテスで重賞初制覇。2022年にはジュンライトボルトでチャンピオンズCを制してG1ジョッキーの仲間入りを果たすなど、歳を重ねるごとに存在感が増している関東のホープ。