大どんでん返しの天皇賞制覇
2013/12/8(日)
デビューから厩舎・担当スタッフと、競馬ラボとしても密着取材を続けてきたジャスタウェイだが、3戦連続2着という惜敗続きのうっぷんを晴らすかのような天皇賞(秋)での圧勝劇は記憶に新しいところ。その快挙の中心で異彩を放っていたのが、オーナーであり、超人気アニメ『銀魂』などの脚本家としても知られる大和屋暁氏であることは違いない。今夏にも独占インタビューを敢行させていただいたオーナーに、戦前の心境から、今後の展望まで、じっくりと語っていただいた。
取材=競馬ラボ 写真=武田明彦、高橋章夫、白石智彦
-:天皇賞(秋)はおめでとうございました!
大:ありがとうございます。
-:今のお気持ちは?
大:ニヤニヤしてます。
-:日曜日からずっとその状態が続いている感じですね。アーリントンC勝ち以来の勝利で。3勝目の天皇賞勝ちは史上初らしいですよね。経歴を見ても、そんな馬はなかなかいなかったはずですから。
大:そうそう。1年8カ月振りですね。長かった。天皇賞ももともと出走できるか分からなかったじゃないですか。毎日王冠が終わってから、ずっとモヤモヤしていたんですよ。“出られるかな、出られないかな……”みたいな。
-:僕も榎本助手とよく連絡をしますが、当初は「毎日王冠で2着だから、大丈夫じゃないですか?」みたいな話をしていました。
大:1週前で20番目だったんですよね。
-:そこが登録馬を見ると、榎本さんにも「出られないじゃないですか」みたいな話をしていて。
大:単純に賞金を数えると、出られると勘違いして連絡してくる知人もいて、「出られそうですね」と言ってきて、「いえいえ。出られませんよ」みたいな話をしていましたから。
-:G1の出走条件がありますからね。ただ、何頭かは他のレースに回るような話は聞いていたので、週中になって段々と。
大:ラトルスネークが勝った週(10/12の白秋S)があるじゃないですか。1週前の土曜。あの時に須貝さん(須貝尚介調教師)と会っていたんですよ。
-:口取りにも参加されてましたね?自分の持ち馬かのようなピースサインで。
大:よく知っていますね。ハハハ(笑)。(ジャスタウェイ)予行演習で「関係者の方に良いですか?」と言って、一番端っこで。その時に須貝さんは「出られるんじゃないかな」と言っていたので、一応、安心はしましたが。
-:各陣営の思惑もあって、登録馬から色々と他のレースへ矛先を向けて行きましたからね。結果的には17頭でフルゲートにならなくて。
大:終わってみれば、心配しなくて良かった、という話なんだけど、出られるとなったらなったで「ヤッター!」という感じで。
-:その後の結果を考えたら、これだけ出られるか、出られないか、分からなかった馬が勝つというのは劇的な話ですよね。
大:去年もこんな感じだったんですよ。秋の天皇賞はギリギリで18番目の順番で出て。それに今回は週中に他の馬(ダークシャドウ)が調教中に側溝に転落しましたよね……。ネットのニュースで「天皇賞出走予定馬転落」と見出しが出ていて、“何が起きた!?ジャスタウェイのことか?”という感じで、心臓が止まるかと思いました。そんな境遇になるのは、この世で天皇賞に登録している馬主さんだけだと思いますからね。
レースに出るまでに色々なドラマがあった訳ですけど、その前にも、福永さんが毎日王冠でエイシンフラッシュで勝って、“2着が続いていたのに、何でそこで頑張るかな……”みたいに正直、思いましたし……。
-:僕も同じようなことを、榎本さんにはけっこう言っていましたね。それでも、福永さんからもすぐに「ジャスタウェイに乗りたい」という話があったみたいですね?
大:除外対象だったのに、あれだけの一流ジョッキーが乗ってくれるという話だったので、ありがたいですよね。そんな色々な経緯があった中で、出走まで漕ぎつけて、ちょっと流れが来てるなと思うじゃないですか。いや、来てましたね。
「毎日王冠が終わった10月6日から、ドキドキしっ放しな状態がずっと続いていたんです」
-:でも、流れだけで片付けられないパフォーマンスというか、ビックリしました。
大:まさにそれなんです。「ビックリした」と。関係者のコメントを全て見たんですけど、全員が「ビックリした」と。僕も「ビックリした」と言ってるんですけど、誰もがビックリしてますよ。
-:もっと言えば、不安材料というのは、週中に台風の影響で、もしかしたら不良馬場になるんじゃないかと?そもそも開催が中止になるんじゃないかという可能性もあったわけで。
大:そうなんですよ。出走が決定した後、僕はあの台風をずっと心配してたんですよ。だから、毎日王冠が終わった10月6日から、ドキドキしっ放しな状態がずっと続いてて。
-:これも榎本さんと連絡をしていて、僕が気象予報士みたいに “これは大丈夫じゃないか。これは危ないんじゃないですか”とずっと連絡をしてたんですけどね。
大:前の週も来てたのにね。しかも、天皇賞週は2つも台風が来ていたわけでしょ。“何なんだ、これは”とヒヤヒヤしていましたよ。そんなこともあって、ずっと心配しっ放しでした。
-:馬場は多少湿っても、アーリントンCの時はこなしていましたし、ある程度は大丈夫とはいえ……、ですね。やはり末脚勝負の馬ですし、いい馬場にこしたことはありませんから。
大:昔に比べたら、馬がしっかりとしてきてるのが分かってるじゃないですか。「多少、重が残っても大丈夫なんじゃないか」と聞いていましたけどね。
-:それでいても、やっぱりキレ味の馬ですから、少し心配な面もありましたし、それでいて結局、金曜日に輸送をすることになって、あの馬にとってはあんまりよくない要素だったはずですよね。
大:榎本君のブログでも、「心配です」というタイトルで、そう書いてありましたよね。いつも落ち着いている人が不安要素を明言していたわけだからね。
-:正直、榎本さんは不安な様子を、表に出さない方で、珍しいと僕も思いました。土曜日の朝にも「あんまりカイバ食いも良くない」という話もしていたので、心配していました。
大:馬体重もマイナスだったもんね。おそらくみんな結果論で言っているけど「パドックで一番良く見えましたよ、大和屋さん」と(笑)。
-:僕は毎日王冠の方が良く見えた印象を持ちました。そこはどう思いましたか?
大:僕はそれどころじゃなかったですね。自分の番組のDVDの特典でコメントを書いてたんですよ(笑)。ジャスタウェイについての一言を書いたら、「写真をもらえますか」と言われて。じゃあ自分が撮ってくるわ、と友達にデジカメを持ってきてもらって。パドックの中で撮影していました。
それに、他のと比べてどうこうというのは、“親が子供を見たらかわいいな”と思うしかないんですよ。冷静な判断じゃないはず。しかも、今回はG1じゃないですか。
-:「特典」と言えば、ジャスタウェイのグッズも作ったりはされるのですか?
大:いろいろと構想を練っているところですがクオカードは作ります。アーリントンCの時にクオカードを作ったのですが今回はG1なので、見開きになっている豪華なものを作ろうかと考えています。クオカードの冊子には、僕の文章を載せてもらいました。そこは「僕に書かせてください」と。
-:脚本家の本気を出した訳ですか、そこは(笑)?
大:いやいや、笑いを取りにいきました(笑)。軽くね。そういえばJRAのPRセンターからも「相談したいことがあります」と連絡がありましたよ。
-:おお~。ということは競馬場でグッズも売られるわけですね。具体的にはどんなものを?
大:まだ、話はしてないけど、「人形を出して欲しい」とお願いしました。いつの日かターフィーショップに並んでくれると嬉しいですね。
プロフィール
【大和屋 暁】Akatsuki Yamatoya
ジャスタウェイのオーナー。幼少期から競馬に興味を持ち始め、若くして社台サラブレッドクラブ(一口馬主)に出資。同クラブで出資を始めた2年目に、ハーツクライと運命的な出会いを果たすと、ドバイシーマクラシックを制し、人生初めての口取りに参加した。
その後、ハーツクライがノド鳴りによる突如の引退に一念発起し、馬主になることを本格的に決意。馬主としてもハーツクライに所縁のある血統にこだわりを持ち、初めて所有したジャスタウェイがアーリントンCを制し、天皇賞(秋)も制覇。オーナーとしては強運ぶりを発揮している。
栗東の新進気鋭のトップステーブルに登り詰めた須貝尚介調教師との縁も深く、3頭の現役所有馬は全て須貝厩舎に所属している。
本業は脚本家、作詞家。『銀魂』をはじめ、数々のアニメ・特撮などの脚本を手がけている。
勝負服の柄は緑、黒うろこ、袖黒縦縞。