【高松宮記念】丸田騎手に聞く!巻き返し狙う昨年の王者ナランフレグの感触

高松宮記念連覇を目指すナランフレグ

高松宮記念連覇を目指すナランフレグ


■高松宮記念
ナランフレグ(牡7、美浦・宗像厩舎)
丸田恭介騎手

——昨年ナランフレグで優勝されましたが、レース前やレース中に丸田騎手がどんなことを考えていたのかお聞きしたいと思っています。

丸田騎手(以下、丸):レース前からですか、そうですね。だいぶ時間は遡りますけど、まず2019年の高松宮記念で同期の藤岡康太が乗ったショウナンアンセムが人気薄で3着に入ったレースが印象に残っていたんです。あのレースを見て、最後の直線で外に進路変更せず真っ直ぐに乗るのは乗り方の選択肢に入るなと思いました。

他のレースを見ても、この時期の中京芝1200ではインを回ることのメリットが多いと思いましたし、高松宮で乗る機会があればインを回って直線で真っ直ぐ走らせる競馬をしてみたいと思っていました。

——去年まさにその機会がやってきました。

丸:しかも引いた枠が2番なんですよ!これまで考えてきた乗り方を実践しなきゃと思いましたけど、イヤだなとも思いましたよ。

——イヤというのは。

丸:やっぱりインを回る競馬をすると、前が詰まるリスクが高いですからね。無理にインを突かなくても、ナランならスムーズな競馬が出来ればやれるんじゃないかという期待もありましたし。

——リスクを背負う競馬をしなくてもいいのではないか、と。

丸:そうですね。ただこれまでナランのしてきた競馬の質から、勝つためにはやっぱり大バクチが必要かなと。高松宮記念は、2着3着を取れればいいっていうレースではないし勝った馬しか名前が残りませんからね。レース当日は、インが伸びる馬場ならいいなと思いながら他のレースを見ていました。

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——そういう決断があったんですね。高松宮記念当日、丸田騎手は8レースで芝1200に乗りました。

丸:そのとき馬場状態を確認しましたよ。直線の坂下辺りが雨の影響でグズッていて、その位置から動いてもいつもほどパンと加速出来ないだろうなと感じたので、もう少し早めに、直線を向いてすぐくらいにはある程度しっかり加速させていった方がいいかなと8レースの馬場状態を見て思いました。

——他に気にしていたポイントはありますか。

丸:あとは逃げ馬との距離ですね。あまり離され過ぎてしまうとノーチャンスなので、前半は前に離されたとしても自分が残り3ハロンの地点にいる辺りでは差を詰めて前を射程圏内に入れておきたいな、と。

その地点までいかにロスなく余力を残した状態で持ってこられるかですね。前に行った馬は止まるとも思っていましたし。

——なぜ止まると思っていたんですか。

丸:あの日の馬場は、ジョッキーの体感としてはラクに行っているつもりでも終いに甘くなってしまうような馬場だと感じていて、逃げ馬やポジションを取りに行く馬にとっては最後ツラくなるんじゃないかと考えていたからです。

その分、前に行った馬が直線で下がってきて進路が詰まる可能性も高いと思っていましたし、本当に危ないときには引こうとも考えていました。

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——そうなった場合は仕方ない、と。

丸:自分が落ちても相手を落としてもダメですから、本当に危ないときには引くつもりでした。ただ前が詰まるリスクが高くても、勝つためには最後の直線でも外へ出さず最短距離を走らせる乗り方をする気持ちで臨みました。

——ゲートを出てからはどんなことを考えていましたか。

丸:周りの馬がインを避けるような進路取りをしたので「これは直線でも馬場の真ん中辺りが密集しそうだ」と思って、向正面を走っている時点でやっぱりインを回ろうという気持ちが固まりました。

途中からトゥラヴェスーラが前にいましたが、あの馬は溜めれば脚を使うのでついていけば進路が出来るだろう、と。克駿はインを狙うタイプなので、直線では克駿と進路の取り合いになるかなと思いました。

——まさにその通りトゥラヴェスーラと進路が被って、相手が少し前に入るような感じになりました。

丸:終わった!と思いましたよ(笑)。ただ克駿は13番枠からインに潜り込むまで脚を使っていますし、僕は馬を急かすこともなくラクに直線へ向けた分、こちらの方が脚が残っているはずだと信じていました。

——狭いところに突っ込んでいくときにはどんな風景が見えたり、どんな音が聞こえるんですか。

丸:レシステンシアとトゥラヴェスーラの間のスペースしか見えませんでした。僕に余裕があれば馬場の真ん中に馬がいるのも見えたかもしれませんが、そんな余裕なかったですから。

他馬と馬体がぶつかる音は聞こえましたけど、スタンドの歓声は聞こえませんでしたね。本当に、スペースを割って抜け出した→右を見たら「あれ?先頭だ」→視界の左にゴール板が過ぎた→やった!の流れが一瞬で起きた感じでした(笑)。

——大バクチが決まりましたね。

丸:本当に全てが上手くいったと思います。ずっとインを回って前から離されすぎず直線に向けて、そのままロスなく真っ直ぐ走れましたからね。余力を残せたことはありますが、他馬に押し込まれず狭いところを割って伸びてくれたのはナランのハートの強さと能力のおかげです。

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——G1を勝ったことで改めて思うことはありましたか。

丸:そうですね…。あのレースを勝てたことは運の要素も大きかったとは思いますが、そこに至るまでの準備をしていないとチャンスを生かせなかったかな、とは思いました。

——準備ですか。

丸:僕はジョッキーになったからには「G1を勝ちたい」ってすごく思っているんです。「勝ち星が落ちたとしても、G1を勝ちたい」くらいに。で、自分が勝つチャンスがあるG1は何だろうとか、そのレースを勝つためにはどうしたらいいんだろうとか策をいつも考えていて。それが冒頭に話した康太のレースにも繋がるんですけど。

——人気薄で3着に入った、という。

丸:そうです。あれを見て高松宮なら乗り方ひとつで何かが起きるんじゃないかとか、その高松宮で勝つためにはどう乗ればいいかとか考え続けていた下地があってこそ、今回の結果に繋がったのかなとも思います。

僕はG1に数多く乗れるジョッキーではないですし、他のジョッキーがG1に乗るときに、自分もその人と同じように乗るためにはどうすればいいか意識しながら見ていますが、そういう積み重ね、準備が大事かなと思いました。

——そうなんですね。さて今年は連覇がかかります。前走のオーシャンステークスの内容を振り返っていただけますか。

丸:あまり前と離れ過ぎないように競馬をしようと思っていましたが、珍しくゲートでガタガタして立ち遅れたことでプランと違う形になりましたし、3着馬の後ろで詰まったり消化不良で悔しいレースでした。

ただ休み明けで少し仕上がりに余裕がありましたし、59キロを背負ったり前が詰まったりという状況だったことを考えると馬自体はそれなりに走れていたと思います。レース後の疲れは見られませんし、前走を使ったことで体も締まってくるでしょう。前向きに臨めます。

——楽しみですね。

丸:また表彰台に上りたいですよ。ファンの声援が嬉しかったし、勝って帰ってくるときみんなが僕とナランだけ見ているんですよ。あれ気持ち良かったなあ。あと去年のインタビューでガッツポーズがカッコ良く決まらなかったんで、今年勝ってやり直したいです(笑)。